白井健三も首をひねった

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 体操の世界選手権で日本選手は一様に苦戦していた。日本男子が個人総合でメダルを獲れなかったのは、選手を派遣しなかった大会を除くと23年ぶりという。その要因を勝負弱さの一言で片づけるのは簡単だが、突き詰めると、「危ない中国製器具」が見え隠れする。

 11月3日までカタールのドーハで開かれていた体操の世界選手権を、スポーツ紙デスクが振り返る。

白井健三と内村航平には期待していたんですがね。白井は2連覇していたゆかで銀、団体総合と跳馬で銅のメダル3個。内村は鉄棒の銀、団体総合で銅のメダル2個でした。日本勢は女子を含めても銀と銅だけの計6個。この結果は、今大会で使われた中国のメーカー、『泰山(タイシャン)』の器具の影響があると思っています」

白井健三も首をひねった

 ん? どういうことか。

「日本選手はふだんから、日本製の『セノー』の器具に慣れています。ほかの大会でもセノーか、同レベルの品質の外国製がほとんど。ところが今度の世界大会で泰山が使われることになったので、大会前、夏の合宿から練習で泰山の器具を使っていたのです。でも、ほとんどの選手が警告を発していたんですよ」(同)

 たとえば今大会の1カ月前。泰山製の床について、

「芝生みたいな感じ。命に関わる器具だと思った」

 白井選手はこう首を捻っていたし、女子の村上茉愛(まい)選手は夏の合宿中、こんな具合に酷評していた。

「あ、最悪だなと。低反発な感じで吸収されそうなのに、ガンッて蹴ると板を蹴ってるみたい」

唯一の長所が価格

 文句をたれるな。弘法筆を選ばずだ、と言うなかれ。

「一流選手は体重が100グラム変わっても違いが分かるほど繊細、敏感なのです」

 とは、体操協会の関係者。

「白井選手が“芝生みたい”と言ったのは宙返りして着地するときの跳ねにくさ。“命に関わる”は、4回ひねりでは高さが必要なのに、跳べない泰山の床でやれば頭から落下する恐れもある」

 ほかにも問題があって、

「鉄棒か吊り輪で、練習中に高さを調整するピンが抜けたそうですし、平行棒の耐久性もぜんぜん違う。ただ、泰山の長所は価格です。セノーは床だけで1290万円しますが、泰山は床の定価が640万円。全10種の器具を揃えても1200万円程度です。今大会の前、8月のインドネシアのアジア大会なども泰山でした」(同)

 中国メーカーの導入に積極的なのが、国際体操連盟の渡邊守成会長なのだとか。

「その政治力で先ごろ、国際オリンピック委員会の委員にもなりました。いま東京五輪は“セノー&ヨーロッパメーカー”と泰山の一騎打ちの構図。渡邊さんが泰山を推すので東京五輪でも導入か、と囁かれているのです」

 当の渡邊会長は、「私が泰山を推薦なんて事実はありませんよ」と物腰柔らかだ。

「もし、どなたかが勘違いをされているとしたら、私の国際体操連盟会長としての政策方針の中で、“体操器具が高価であることが体操発展の弊害となっているので各メーカーに改善を求める”と訴えていることに異議を持たれているのかと存じますが、その方針を変更する予定はありません」

 だからそれが……。中国製の器具の危うさは、体操ニッポンのメダル獲得の危機にも直結しそうだ。

「週刊新潮」2018年11月日号 掲載