まず1つ目は、FW知念の今季リーグ戦初ゴールに関する秘話【写真:荒川祐史】

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リーグ連覇を達成した川崎、32節までに決めた全53ゴールの中から厳選秘話5つを紹介

 川崎フロンターレは史上5クラブ目となるJ1リーグ連覇を成し遂げた。

 第32節を終えてリーグ最小の26失点と堅守を誇る一方、リーグ2位の53ゴールを叩き出すなど高い攻撃力を発揮している。リーグ連覇を果たした今季、53ゴールの中なから5ゴールを厳選し、知られざる秘話をお届けする。

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■FW知念慶の今季初ゴール(4月11日/第7節:セレッソ大阪/1-2)

 第6節・横浜FM戦で先発出場した知念。実試合前日にFW小林悠が体調不良となるアクシデントによって、急きょ巡ってきた先発出場だった。前半、ハイラインの背後を突く攻撃から決定機が連続。しかし幾度となく巡ってきたチャンスを外してしまい、試合はドロー。試合後は、「自分が決め切れなかった。それが試合で勝ち切れなかった要因」と肩を落としてうなだれた。

 そんな知念に「これだけ外したからもう大丈夫。次は決められる」と試合後に声をかけたのがMF中村憲剛だった。「そこ(決定機)にいるから外す。いなかったら、そのチャンスすらない。外しているけど、そこにいるのは才能だから」と励ました。数々のストライカーを育ててきた中村からの言葉。そしてそれが効いたのか、中村の予言どおり、続く第7節セレッソ大阪戦で知念は今季リーグ戦初ゴールを記録している。

「ターンして前を向け」のメッセージ、FW小林が披露した「空間を作るターン」

■FW小林悠のお気に入りのゴール(4月28日/第11節:ヴィッセル神戸/2-1)

 第11節神戸戦。1-1で迎えた試合終盤、ボールを持って前を向いたMF大島僚太は、背中に二人のセンターバック、その前にも二人がいて囲まれていた小林の足もとに、あえて強くて速いボールを出している。そのパスに小林は「ターンして前を向け」というメッセージがこもっていたのを感じたという。

「(相手のマークは)背中で感じてました。足元にガツンとくるセンターバックなので、入れ替われるんじゃないかなと思っていた。リョウタのパスもターンしろという感覚というか、良いタイミングで入れてくれたので迷いはなかった」(小林)

 実に狭いエリアだったが、小林は絶妙な位置にコントロールし、相手を外す見事なターンで空間を作り出し決勝ゴールを決めている。この「空間を作るターン」はかねてからずっと取り組んでいたプレーでもあった

「練習からターンをすることを意識しています。例えば、右に敵がいる時に左側に(ボールを)置いて、そこで前を向けるかどうかは大事になる。そういうターンを意識していました」

 この得点は、小林悠の今季のお気に入りでもある。日頃の地道な取り組みが身を結んだ形だったとも言えるのかもしれない。

「わざとボールを出してくれた」 J1初出場でゴールのMF鈴木が感嘆「本当に余裕ある人」

■J1初出場でMF鈴木雄斗が決めた劇的決勝弾(5月12日/第14節:柏レイソル/2-1)

 第14節柏戦で試合終了間際に劇的な決勝点を挙げたのは、後半41分から出場した鈴木だった。J2モンテディオ山形から新加入となった鈴木は、この試合がJ1初出場。右サイドで味方からボールを受けると、猛然と縦に仕掛けてクロスを上げて、ファーストプレーを終えている。何気ないプレーだったが、あのファーストプレーにつながるパスには、こんな無言の会話があったと言う。

「あのパスはケンゴさん(中村)からで目が合ったんですよ。わざと僕にボールを出してくれたんです。絶対にそういう顔をしていた(笑)。本当に余裕ある人だなと。普通に抜けたし、相手も疲れていたのだと思います。あれで良い感触はありましたね」
 
 J1の舞台で緊張していたであろう鈴木に、まずはボールタッチをさせてリラックスさせる。何気ないパスに「優しさ」を込めるあたり、さすがバンディエラである。そして、あのファーストタッチが、その後の鈴木の思い切り良いプレーを引き出したのは言うまでもない。中村からのパスによる「落ち着き」があって生まれた終盤の劇的決勝弾だったに違いない。

FW小林が湘南戦で痛恨のPK失敗も… 3選手の励ましに感動して次節で有言実行

■PK失敗のFW小林悠を蘇らせた励まし(9月29日/第28節:V・ファーレン長崎/2-1)

 台風による延期で9月26日に開催された第18節湘南ベルマーレ戦。0-0で進んだ試合終盤、川崎はPKを獲得し、決勝点を挙げる絶好のチャンスを迎えていた。しかしこれをエースFW小林が痛恨の失敗。スコアドローで終わり、首位・広島との勝ち点差を1しか縮められなかった。

 勝敗の責任を感じて落ち込んで小林を強く鼓舞したのは、DF谷口彰悟とDF奈良竜樹だった。無得点に終わったエースを守備の要のセンターバックコンビが励ましたのだ。

「試合が終わった後、すぐにショウゴ(谷口彰悟)や奈良ちゃんが『下を向くな』と支えてくれた。お互いに、一つのミスが勝敗につながるポジション。心強いチームメートたちに、また頑張ろうという気持ちになれた」(小林)

 試合後、ケータイを見ると、ベンチ外だった森谷賢太郎からも励ましのメッセージが届いていたという。「あいつは要所要所で、ああいうことをしてくれる」と小林は感動し、「自分のやってきたことは間違っていないと思っている。次にしっかりと決めてチームを勝たせられるようにしたい」と意気込み、中二日で行われた第28節のV・ファーレン長崎戦で得点を記録。有言実行を果たした。

左利きの下田と右利きの中村でキッカー交代…臨機応変な変更が生んだゴール

■キッカー交代が生んだDF谷口彰悟の追加点(11月3日/第31節:柏レイソル/3-0)

 第31節柏戦。前半15分に訪れた1本目のCKのキッカーを務めたのはMF下田北斗だった。ボールは味方に合わず、ニアサイドでクリアされている。しかし2本目の同33分、同じ位置でのCKにもかかわらず、今度は下田ではなく中村がキッカーを担当した。

 その理由について、「普通に(1本目を)ミスったんで。奈良ちゃんがアウトカーブがいいと言っていたので、ケンゴさんが蹴る。申し訳ないっす(苦笑)」と下田が言えば、中村も「奈良ちゃんがアウトカーブがいいと言っていて。(1本目で)北斗がニアにひっかけた。フィーリングが良くないのかな」と明かしている。

 左利きの下田と右利きの中村では、軌道も変わる。柏のCKの守備は、11人全員がペナルティーエリアに入ってゾーンで構えるというもの。そのため、ゴールから離れていくアウトスイングのボールを蹴れる右利きの中村のほうが味方に届けやすいメリットがあった。そして、その狙いが的中。ニアサイドに走り込む谷口の頭にピンポイントで合わせて追加点。相手のセットプレーの守り方の弱点を突くために、臨機応変なキッカー交代が功を奏した得点だった。(いしかわごう / Go Ishikawa)