日本郵船が2050年の船のコンセプトを発表しました。スクリュー(プロペラ)が消えた代わりについていたのは「イルカの尾」でした。

未来の船は「尾びれ」つき

 2050年、船舶からスクリューが消えているかもしれません。

 日本郵船は2018年11月14日(水)、「NYKグループ脱炭素化への挑戦」と題し、30年以上未来の船「NYK Super Eco Ship 2050」のコンセプトを発表しました。


日本郵船が発表した「NYK Super Eco Ship 2050」。自動車船をモチーフに未来の船舶を構想(画像:日本郵船)。

 これは2050年にゼロエミッション(環境汚染などにつながる廃棄物を排出しないこと)の実現を目指したものです。太陽光発電に加え水素を燃料とした燃料電池の採用といったエネルギー面の見直しのほか、船体情報のデジタル化やフジツボなどを取り除き船体抵抗を低減させる清掃ロボットの採用といった保守整備の効率化、炭素繊維などの複合材を採用した軽量化など船体そのものの見直しなども含まれます。

 なかでも特徴的なのは、スクリュー(プロペラ)を廃した新しい推進器です。「Flapping Foil(フラッピング フォイル)」と名付けられたこの推進器は、「イルカの尾のように」と日本郵船が説明するとおり、水をかいて(押して)推進力とします。会場で上映された紹介動画のなかでは、船尾の水中に4枚の尾びれのようなフォイルがとりつけられ、これが左右に動いていました。


スクリューの代わりに船を推し進める「Flapping Foil」。船底を流れる空気の泡は水の抵抗を軽減する「空気潤滑システム」(画像:日本郵船)。

船底に付着したフジツボなどを取り除き、船体抵抗を低減させる清掃ロボット(画像:日本郵船)。

2009年に日本郵船が発表した「NYK Super Eco Ship 2030」の模型(2018年11月14日、乗りものニュース編集部撮影)。

 発表会見に臨んだ日本郵船の北山智雄経営委員も「やはり真っ先に、スクリューが無くなるんだ、と驚きましたね」といいます。同じく会見に臨んだ日本郵船のグループ会社であるMTI船舶イノベーションチームの米沢挙志(たかし)チーム長によると、この「Flapping Foil」に、すでに採用実績がある、船底へ空気の泡を送り水の抵抗を軽減する「空気潤滑システム」を組み合わせるなどした新しい推進システムは、従来のスクリュー(プロペラ)のものに比べ推進効率が6%向上するとのことです。

積み上げてきたものをもう一歩前へ

 今回の自動車専用船をイメージした「NYK Super Eco Ship 2050」コンセプトは、日本郵船が2009(平成21)年に発表した「NYK Super Eco Ship 2030」コンセプトシップを、技術の進展などを考慮し、見直し、「積み上げてきたものをもう一歩前進させる」(日本郵船 北山智雄 経営委員)ものです。


会見に臨んだ日本郵船の北山智雄 経営委員(写真右)とMTIの米沢挙志 船舶イノベーションチーム チーム長(2018年11月14日、乗りものニュース編集部撮影)。

「2030」では太陽光発電パネルや風力、燃料電池などを活用し、2009年当時の水準からCO2排出を69%削減、これを推し進め2050年にゼロエミッションを目指すとしていましたが、「見直し」のひとつとして、「2050」コンセプトでは風力の利用をうたっていません。

「(風力利用について)日本郵船としてはエネルギー効率が低いことや、投資回収期間が長くなることが見込まれることから、技術的、経済的合理性が低いと考えており、今後の技術要素としての重要性は低いと考えております」(MTI船舶イノベーションチーム 米沢挙志チーム長)

 また前回の発表から10年近く経過するあいだに、2015年には気候変動抑制をうたう「パリ協定」が締結されるなど、研究開発を進めるなかで、そうした世界の潮流によるより一層の後押しもあったといいます。

「脱炭素化は全人類の目標であり、企業活動に対する社会の要請でもあります」(日本郵船 北山智雄経営委員)

 なお、今回発表された「NYK Super Eco Ship 2050」はあくまで「要素技術を実現していくコンセプト」ですが、もし実際に建造するとなると、100億円程度にはなるだろうとのことです。

【動画】船の尾ビレ「Flapping Foil」は1分54秒から