女性が年上男性とデートをして、見返りにお金をもらう「パパ活」。ヘビーユーザーという44歳の既婚女性は、最難関の理系大学院出身かつ外資系企業に勤務するエリートだ。彼女は「夫婦生活のためにも、自分のためにも、パパ活は大事」と語る。その理由とは――。

※本稿は、坂爪真吾『パパ活の社会学』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■「寂しい気持ち」を紛らわせるために

「男性から頂くお金は『ガマン料』だと考えています」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/davidf)

そう語る加納洋子さん(44歳)は、知的な雰囲気の中にも屈託のない明るさがあり、非常に話しやすい雰囲気の女性だ。国内最難関の国立大学の理系大学院を修了し、現在は外資系の企業に勤務している。経歴だけを見ると押しも押されもせぬエリートであり、パパ活の世界とは全く無縁そうな印象を受ける。

洋子さんは、26歳の時に現在の夫と結婚。夫との仲は円満であり、順風満帆な結婚生活を送っていたが、結婚10年目に一度だけ魔が差して、浮気をしたことがあった。お相手は、当時流行っていたゲームのチャットで知り合った独身男性。お互いに遊びのつもりだったが、身体の関係を持った後、夫に対する強い罪悪感に襲われた。

また相手の男性も本気になってしまい、洋子さんに対して「結婚してくれ」と迫ってくるようになったため、怖くなって関係を切った。

40歳の時、今度は別のゲームで他の男性と知り合う機会があった。男性は洋子さんの住む街からかなり遠方の県に住んでおり、既婚者でもあったため、最初は恋愛関係になるつもりは全くなかった。しかし、ゲームを通してやりとりをしているうちに次第に打ち解けて、LINEや電話でも頻繁に会話をすることが増えた。

■「自分が女であることを忘れかけていた」

そうした中で、どちらともなく「そろそろ会って話したいね」という会話が生まれ、月1回程度の頻度で会うようになり、自然に男女の関係になった。

「その人に会ってから、男性に対する価値観が変わりました。彼も妻とはセックスレスの状態で、お互いに寂しい気持ちを紛らわしていたのだと思います。

『僕にとっては、Hしてくれる女性は女神のように思えるんだ』とか、『女性が気持ちよさそうにしている顔を見ているのがいいんだよ』と、自分の言葉で語ってくれる人だった。男の人って、そんな風にHのことを考えているんだ……と分かった時に、男性一般に対する嫌悪感が薄れたんです。それまで男の人のことを知らなさすぎた。

夫とセックスレスになってからかなり時間が経っていて、自分が女であることを忘れかけていたんですよね。そんな時にそういうことが起こると、また女に戻った気がして。その時は、その人のことを好きだったんです。でも、会えない時間が1カ月もある。その時間が辛い。恋愛スイッチが入ったというか……目覚めさせられた感じですね。そこから出会い系サイトを利用するようになりました」

■出会い系の世界にどっぷりハマる

出会いマッチングサイトは、主に大手のYYC、そして2018年に新潟県知事の買春問題でも話題になったハッピーメールに登録していた。

「どのサイトも、登録しては退会して、また登録する……という作業を繰り返すんです。新しい女性が登録すると、男性会員から尋常じゃない数のオファーが届く。そこから特定の相手とやりとりをして、実際に会う相手をスクリーニングしていくわけです。

一対一で付き合う相手が見つかった場合、そのままサイトに登録しているのはバツが悪いので、一旦退会します。しばらくしてその相手との関係が終わったら、違う名前で新しく登録し直して、再び相手を探す……ということを繰り返すんです」

気がつけば、洋子さんは出会い系の世界にどっぷり浸かっていた。そうしたサイトに登録していることは、夫には一切秘密にしていた。

「夫は、多分気づいていないと思います。何も言ってこないし……。もちろん申し訳ないとは思うのだけれども、これまでの二人の関係の積み重ねの結果なので、仕方ないかなと。夫は私を女として見ていないし、私も夫を男として見ていない。

夫は浮気しそうなタイプではないです。仕事が終わると、家にまっすぐ帰ってくるような人。付き合い始めた時から、私は一切浮気はしなかったので、信頼してくれていると思います。私にとって、夫はすごく大切な家族で、かけがえのない存在です。夫がいてくれなかったら、生きていけない。でも、夫が私にとってかけがえのない存在であることと、今の恋愛は別です。裏切っていることがバレたら失うかもしれないけど、バレない自信はある。その自信の根拠はありませんが」

■興味本位でパパ活を開始

そんな中、メディアでパパ活が話題になり始めた。パパ活という言葉を聞いた当初、洋子さんは「そんなものがあるんだ」「若い子を育てて助けてあげたいなんて、裕福で奇特な男性がいるんだなぁ」と感じたが、興味本位でSugarDaddyというサイトに登録してみた。同サイトは、「魅力的な女性を探しているシュガーダディ(男性)と、成功した男性を探しているシュガーベイビー(女性)の、上質な出会いを応援する」と謳っているマッチングサイトだ。

「とりあえず登録してみたのですが、YYCほどではないけれど、すごくオファーが来ました。ただ、実際に男性たちと会っていても、お金をもらうことには抵抗があった。自分がこういうサイトに登録する目的は、あくまで好きな人が欲しいから。恋愛をしたかったんですね。でもその一方で、なんとなくパパ活というものを体験してみたかった、という気持ちもありました」

■お昼ご飯を一緒に食べただけで1万円

出会った男性の中には、一緒にご飯を食べるだけでお金をくれる人がいて、「ええっ! 本当にいいのかな」と戸惑った。

「最初に会った男性の方は、お土産にチョコレートを用意してくれて。ご飯の後に、『これ、お土産だから』と渡されました。リンツ(スイスの高級チョコレートブランド)の99%カカオ。『中に入っているから』と言われて、開けてみたら一万円札が入っていた。お昼ご飯を一緒に食べただけですよ。

その人のことが好きかどうか、と言えば、別に好きではないんですよ。でも一緒にご飯食べるくらいならいいので、『ガマン代』みたいな気持ちで受け取りました」

■初対面の男性には身体を許さない

洋子さん自身は、これまでマッチングサイトで出会った男性に対して、自分から金銭を要求したことは一度もなかったという。向こうから「いくら?」と尋ねられた時は、「いや、いいです」と断っていた。

坂爪真吾『パパ活の社会学』(光文社新書)

「その人の後に出会った人たちに対しても、お金のことは言えなかったです。『いくら?』と言われても、すぐに自分を全部さらけ出すことはできなかった。お金をもらうことにも抵抗があるし、初対面の男性とすぐにそういう関係になることにも抵抗があった。

だからYYCでもハッピーメールでも、何度か会って『この人だったらいいな』と思うまでは、身体を許しませんでした。別に勿体ないと思っているからではなく、本当にそういうことが嫌で、抵抗があったんです。

男女の性別の違いもあると思うのですが、私は好きな人でなければ嫌でした。出会い系サイトは事前に相手とチャットでやりとりができるので、身体目当ての人は全部その時に切っていました。身体目当てのようなことを言ってこない、まともそうな人とだけ会っていた。でも、そうした人と実際に会っても、多くの場合『この後どう?』と誘われる。『まだ心の準備ができていないので……』と断ることがほとんどでした。

性格や相性の合う人と何度かデートを重ねて、それからそういう関係になる。そのスタイルは崩していませんでした」

■「恋人探し」でも「初回からホテルOK」

身持ちの堅い洋子さんだったが、パパ活というムーブメントが盛り上がってきている様子を見て、気持ちが揺らいだ。「ちょっとやってみようか」という軽い気持ちで、2017年の夏に大手の交際クラブに登録した。

「登録して、本当にオファーが来るのかな……と心配になっていた時に、担当の社員の方から『もう一回面接に来てください』と言われたんです。『写真と動画が全てだから、撮り直しましょう』って」

そして、交際タイプは「フィーリングが合えば初回からホテルOK」に設定した。

「実際は3回くらい会ってから身体の関係になることが多いです。それでも、大半の男性は初回から積極的に誘ってきますね。皆さんハートが強いなぁ、と思いますが。交際クラブという文脈で出会っているからこそ、そう言えるのかもしれませんが。

もちろん初回からホテルOKにすることは、抵抗はあります。でも、相手の男性と相性が合わなかった時の悲劇を考えると、それが合理的なのかなと思うようになりました。

中には、初回から数えて8回や9回もデートを重ねて、ようやく身体の関係になる人もいます。その間に、こちらはその人のことをある程度好きになっているわけじゃないですか。でも、そこで身体の相性が合わなかったりすると、悲劇が生じる。

すごく好きになってしまったのに、いざベッドに入ると、『えっ?』と思うような時があるんです。ムードも何もなくて、ばっと脱いで、いきなり押し倒してくる……みたいな。あとは、大事なところが勃たない。そうなると、私も『自分の身体では興奮してくれないのかな……』と思って、お互いが盛り下がってしまう。でもこれって年齢のせいじゃないんですよね。40代でもダメな人もいれば、60代でも大丈夫な人もいる。

交際クラブに入って、出会い系の頃と比べて、付き合う男性の年齢の上限がだいぶ上がりました。出会い系の時は49歳くらいまでだったのですが、交際クラブでは60代の方とも付き合いました。

複数の男性とお付き合いする中で、『勃たないのは私だけのせいでもないんだな』ということも分かってきました。毎回ED治療薬を持参して、行為の前に服用する人もいるので、自信がないのであれば、事前に対策はしてきてほしいなと思います」(後編に続く)

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坂爪真吾(さかつめ・しんご)
ホワイトハンズ代表
1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書多数。

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(ホワイトハンズ代表 坂爪 真吾 写真=iStock.com)