ホンジュラスなどから大量の移民がアメリカを目指して北上している(写真:Hannah McKay/ロイター)

中米からアメリカ国境を目指す移民集団「キャラバン」が、徐々にアメリカに近づいている。報道によると、目下約6500人がメキシコ中部を北上中。これに対して、アメリカのドナルド・トランプ大統領は国境警備の強化に加えて、11月9日、不法入国者の難民申請を認めない大統領令に署名。キャラバンの「国境越え」を力ずくで阻止する構えだ。

この「キャラバン」が発生したのが、アメリカ大陸の真ん中に位置するホンジュラス共和国である。同国では10月中旬、4カ所にソーシャルメディアを通じて移民が結集し、アメリカを目指すようになったのだが、当初160人だった集団は徐々に膨張。グアテマラとメキシコの国境地点では、7000人を超える規模に膨らんでいた。

アメリカまで約4000キロを徒歩で

その後、ホンジュラスで第2陣が、隣国のエルサルバドルで3陣が発生し、後を追うようにそれぞれアメリカを目指している。このほかにも、ホンジュラスやエルサルバドル、グアテマラで小さなキャラバンも組成されている。すなわち、11月初旬で中米3カ国の1万人を超える人がキャラバンに加わっている格好だが、エルサルバドルのEL DIARIO DE HOY(11月5日電子版)によると、これまでに6500人以上が帰国の途についている。

ホンジュラスからアメリカへの距離はざっと4000キロ。それを徒歩で目指そうというのだが、どれだけ過酷かは言うまでもない。実際、ユニセフの発表によると、キャラバンの中には約2500人の子どもがおり、多くが病気にかかっているようだ。


(写真:Hannah McKay/ロイター)

なぜそこまでして、多くのホンジュラス人がアメリカに移民しようとしているのか。それには3つの理由がある。

1つ目は母国における食糧難である。ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグアの4カ国は「CA-4」と呼ばれ、この4カ国の人口4600万人の国境の通過は自由となっている。しかし、どの国も経済的基盤が弱く、貧困層が社会の大半を占めているのである。

たとえば、ホンジュラスの場合、人口約1000万人のうち61%は貧困層に相当する(グアテマラ、エルサルバドルもほぼ同水準)。ホンジュラスはラテンアメリカで最貧国とされており、人口の40%が食糧難にあえいでいるとされる。トウモロコシ、インゲン豆、コーヒーが主要作物となっているが、耕作技術のレベルが低く、しかも害虫の被害も出ているという。それに加えて、エル・ニーニョ現象で干ばつに見舞われている。

ホンジュラスにはびこる暴力組織の存在

報道によると、ホンジュラスに住むヘスス・コナンさんはトウモロコシとインゲン豆を1ヘクタールの耕地で栽培をしていたが、昨年も今年も干ばつで収穫を得ることができなかった。それでも、栽培に必要な投資はせねばならず、経済的に苦しい状態に陥ったことからキャラバンに加わることにしたという。コナンさんには16歳、14歳、11歳と3人の子どもがいるが、妻と子どもたちはホンジュラスに残った。生活苦から子どもたちは学業をあきらめたそうだ。

アントニオ・ララさんの場合は、コーヒーの栽培をしているが、7年前から気候の変化で思うように収穫量が確保できなくなった一方、買い付け業者が支払う金額も採算に合うものではなかったという。そこで、6歳と18カ月の子どもと妻を連れてキャラバンに加わった。

今回、キャラバンに参加している中米3カ国では農業従事者が労働者の3分の1を占めているが、農業に携わっている人たちの多くがコナンさんたちのような状況に置かれていると考えていいだろう。

移民を決めたもう1つの理由は、暴力組織の蔓延だ。この3カ国では、暴力組織「MS-13」と「La Mara 18(ラ・マラ)」による犯罪が横行。これらの組織の中心は、15〜25歳くらいまでの若年層だが、人の首を切って犬の餌にするといった残虐な行為も辞さない集団で、主に農村部よりは都市部で活動している。

この組織のルーツはアメリカにある。カリフォルニア州で1980〜1990年代にかけてエルサルバドルからの移民を守るために生まれた暴力組織が「MS-13」で、参加者の多くが自国の内戦を体験しているにもかかわらず、それと同じような残酷は犯罪を起こすようになっていく。

業を煮やしたアメリカが彼らを本国に送還したわけだが、もともと働き口が少ないこともあって、犯罪組織に「就職」する人が増えてしまった。現在ではアメリカに今も残っているメンバーを含め、中米3カ国を主体にMS-13に参加している人の数は、7万〜10万人にも上るとされる。最近では、スペインやイタリアにも構成員がいるようだ。

一方、MS-13に対抗して生まれたのがLa Mara 18である。ホンジュラスにMS-13が登場したのは1991年とされる。ホンジュラスだけで見ると、7000人がLa Mara 18に、5000人がMS-13にそれぞれ属して非道を行っている。彼らの収入源は麻薬や武器の販売を始め、恐喝、誘拐、盗難、そして殺害も依頼されれば行う。

ホンジュラスは政治的にも不安定

彼らの残虐さを示すのが、ホンジュラスの殺人数の多さだろう。2017年には3866人が殺害されており、これは10万人につき43.6人が殺されている計算だ(2011年はこの数字は、10万人につき86.5人だった)。ホンジュラスを抜き、世界一の「殺人大国」となっているエルサルバドルでは、昨年10万人につき60.1人が殺害されている。

ホンジュラスは政治的にも不安定だ。2009年にもクーデターがあったほか、現職のフアン・オルランド・エルナンデス大統領も汚職にまつわるスキャンダルが尽きない。しかも、ホンジュラス憲法では大統領の任期は4年と定められているにもかかわらず、最高裁との癒着によって2017年に再選されている。こうした中では、市民の生活を改善するような政策などとても期待できない。エルサルバドルとグアテマラはこれより幾分ましなものの、両国ともクーデターを経験している。

厳しい生活事情から仕方なく国を脱出した移民たちを軽蔑するかのように、選挙の餌にしたのがトランプ大統領である。大統領選挙の時から不法移民に対して厳しい姿勢を見せて、それが票につながっていたのを知っているトランプ大統領は、キャラバンを批判し、「不法移民」を取り締まる姿勢を示すことで、票を稼ごうとした。

トランプ大統領は10月22日、ホンジュラスなど3カ国に対し、これまでアメリカが提供していた支援金の支給を各国の政治指導者が集団移民の北上を食い止めなかったとして中断させることを発表。アメリカの国際開発庁(USAID)の2018年度の支援金はそれぞれ、ホンジュラスが1500万ドル(16億5000万円)、グアテマラ5200万ドル(57億2000万円)、エルサルバドル2000万ドル(22億円)となっている。

これに先駆けて、アメリカの国家安全保障会議(NSC)でキルステン・ニールセン国土安全保障長官とジョン・ケリー大統領首席補佐官とが一緒になって、ジョン・ボルトン大統領補佐官と激しい議論を交わしたという。

ケリー氏が国連の難民高等弁務官の協力を要請したのに対し、ボルトン氏は国連の介入を仰ぐ提案を激しく非難し、メキシコ軍がキャラバンを撤去させるべきだと主張。両氏はトランプ大統領の前で激しく応酬を繰り返し、ケリー氏は会議を退席して翌日まで姿を見せなかったとされる。トランプ大統領はボルトン氏側につき、その後いつものようにツイッターでメキシコとの国境を封鎖すると脅迫した。

政府は帰国できるようにバスも手配

そのメキシコであるが、キャラバンに参加している人たちに対して自治体や市民が奉仕の手を差し伸べている。一部の地域では、地元市民が移民集団にビスケット、コーヒー、果物、飲料水などを路上から提供して元気づけるという場面もあり、これに応えてキャラバン参加者はお礼に「メキシコ、メキシコ!」と叫んだという。

一方、メキシコ政府は帰国を促すために45台のバスも手配。また、メキシコに残留したいのであれば仕事に就けるようにするとペーニャ・ニエト大統領は述べている。AP通信によると、メキシコ政府はキャラバン参加者に対して約2700通の一時ビザを用意、今後は本格的な移民受け入れも考慮しているという。

また、キャラバン参加者の中には、12月に就任する予定のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール新大統領が貧困政策を掲げていることから、メキシコ残留を考える人も出てきているようだ。

今もアメリカへの入国を希望して北上を続けているキャラバン。最終的にどこの国境を目指すのかは明らかにされていないが、最も可能性が高いとみられているサンディエゴまではまだ2000キロ余りある。