現在の日本はいまだにデフレーションから脱し切れていない。直近データである2018年9月の消費者物価指数は、コアコアCPI〔食料(酒類除く)、エネルギーを除く総合〕が対前年比+0.1%。8月は+0.2%だったため、状況は「悪化」していることになる。

 左図の通り、日本のコアコアCPI(対前年比%)は、消費税増税で一時的に跳ね上がり、その後は見事に失速した。’17年にはマイナスに戻ってしまい、一向に回復しない。デフレーションとは、貨幣現象とやらではなく「総需要の不足」という経済現象である。つまりは、実体経済における消費、投資が不足しているのだ。

 政府はデフレ脱却のために、とにかく「消費」と「投資」を増やす必要がある。より具体的には、GDPの「政府最終消費支出」「公的固定資本形成」という需要項目を拡大するのだ(無論、減税で民間の消費、投資を増やすことも必要だが)。

 これほど単純明快な話はないのだが、政府はなかなか財政拡大に乗り出そうとしない。結果的に、過去20年間、日本国は次第に小国化し、国民は貧困化。すでにアジア諸国と比べても、賃金水準で負けている有様だ。間もなく、移民受け入れどころか、日本人がアジアに移民に行く時代が訪れるだろう。

 また、米中貿易戦争からも分かる通り、アメリカを覇権国としたグローバリズムは、中国共産党という「挑戦国」を出現させ、防衛面の安全保障も悪化している。さらに、北朝鮮の核ミサイル問題も、全く解決していない。つまりは、わが国は防衛費を拡大しなければならない局面なのだ。

 とはいえ、「需要」という面に限れば、日本の防衛面の安全保障を強化するべく政府が支出を増やせば、需要創出になる。つまりは総需要不足が埋まる。防衛力強化とデフレ脱却が、一気に実現するのである。これほど処方箋が明確な国など、日本以外に存在しない。

 ところが、10月24日、信じがたい報道が流れた。何と財務省が財政制度等審議会において、防衛装備品の調達方法を見直し、少なくとも今後5年間で1兆円規模のコスト削減を進めるべく、防衛省に求める方針を明らにしたのだ。目を疑うとは、まさにこのことだ。財務省は、具体的には入札の際の「競争」を増やせと要求している。とはいえ、独自技術を誇る企業が防衛省の装備品調達の際に1社しか入札しないことの何が問題なのだろうか。

 無論、競争がないため多少はコストが上がるだろうが、今はデフレなのだ。技術に優れた企業が所得を多く稼いでも一向に差し支えはないはずだ。

 そもそも、防衛装備品は「機密」の塊である。日本企業が防衛省とクローズドな空間で知恵を出し合い、優れた技術、装備を開発した結果、その企業しか応札できないなど当たり前だ。それ以前に、あらゆる装備品を強引に一般競争入札にした日には、企業は、
「投資しても、技術を開発しても、落札できない」
 ということになってしまい、間違いなく技術力は劣化していく。事前に汗をかき、防衛省と懸命に案件を詰めた挙句、「安い価格」で応札する企業に落札されるのでは、そもそも技術情報の交換すら行われなくなるだろう。

 結果的に、わが国の防衛安全保障における技術力は、急激に低下していく。防衛装備品という製品の特性や、現場の技術開発、製品開発のスキーム等はまるで無視し、「カネ、カネ、カネ」とやってくるのが財務省というわけだ。

 あるいは、リニア新幹線。リニア新幹線では、大手ゼネコンが事前に情報を共有し、受注調整を行ったことが「談合である」と、問題視されている。

 確かに、現在の独占禁止法は、リニア中央新幹線のような民間のプロジェクトに対しても、発注元や事業者が事前に情報のやり取りをすることを禁止している。とはいえ、これもまた実に奇妙な話だ。