国内通信事業を担当するソフトバンクの上場を明言していた孫正義社長(撮影:今井康一)

11月12日の15時10分、ソフトバンクグループの国内携帯電話子会社であるソフトバンクが新規上場に伴う申請書類(目論見書)を、金融庁のEDINET(エディネット)を通じて公表した。

書類によると上場予定日は12月19日。想定発行価格1500円で算出した時価総額は約7.2兆円になる。新株発行などは行わず、売り出しのみを行う。

発行済み株式数(47.8億株)から売り出し株数(16.0億株)の割合からすると、ソフトバンクグループはソフトバンクの63.14%を保有する計算だ。

上場市場は明記されていないが、時価総額が1000億円を超えることから、東証1部になる見通し。6月19日に東証マザーズに上場したメルカリを上回り、今年最大のIPOとなる。

狙いは「潤沢な資金」の獲得

11月5日の決算会見で、孫正義社長は 「上場の結果、ソフトバンクグループには潤沢な資金が手元に入る。この潤沢な資金を使って、さらなる成長のために、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの資金や、純有利子負債の支払いに回していきたい」と狙いを語っていた。

ソフトバンクグループは2017年、運用規模10兆円のビジョンファンドを立ち上げて以降、投資会社としての性格を強めている。孫氏が標榜する「AI群戦略」(世界中の有望なAI関連企業の株式を2〜4割取得し、グループで連携する考え方)の下、アメリカのライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズをはじめ、積極的な出資を推し進める。

今回、携帯電話子会社を上場させることで役割分担がより明確になり、投資会社としての色が強まる見通しだ。

上場後、ソフトバンクが稼ぎ出す利益の一部は、一般株主に対する配当などの形で外部に流出することになる。代わりにソフトバンクグループは、株式売却でまとまった資金を得られる。長い目で見ればソフトバンクから得られるキャッシュが減る可能性はあるが、純有利子負債の軽減も含め、投資に振り向ける資金の確保を優先した。

すでにソフトバンクグループはウーバーを含むライドシェア世界大手4社の筆頭株主に収まっているが、AIやビッグデータによって、大きなゲームチェンジがさまざまな業界で起きている。そうした中で孫氏には、売却益を元手に有望企業への出資をより加速させ、重要な事業のシェアを先回りして抑えたい思いがありそうだ。

通信子会社の上場の陰で、ソフトバンクグループの稼ぎ頭も交代している。

ソフトバンクはこれまで、安定した事業展開で「キャッシュフローの1番の稼ぎ頭」(孫氏)の役割を担ってきた。ただ、国内のスマートフォンの普及も一巡する中、成長も落ち着いてきている。代わってグループの牽引役となっているのがビジョンファンドだ。


孫正義社長は大幅な配置転換や構造改革に伴う、通信費の値下げを公言するなど、ソフトバンクにとっては過酷な道が待っていそうだ(撮影:尾形文繁)

ソフトバンクグループの2019年4〜9月期決算の営業利益は1兆4207億円(前年同期比62%増)。ビジョンファンドは出資先の株式評価益により、6324億円を稼ぎだした。

ビジョンファンドの伸び率は、前年同期(1862億円)の実に3.4倍だ。一方、国内通信事業であるソフトバンクの営業利益は前年同期比1.4%増の4469億円にとどまった。

料金の値下げ圧力や5Gに向けた投資がかさむ状況の中、孫氏はソフトバンクで通信事業を担う人員を配置転換によって4割削減することで、利益を確保したい考えを示している。逆風の中での上場となるソフトバンクの今後の戦略にも、市場からの注目が集まっている。

子会社上場後、次の一手は?

孫氏はビジョンファンドの今後について、「来年には今年の規模をはるかに超え、日本経済が体験したことのない利益を出せるのではないかと思っている」とも豪語する。投資にはリスクもつきものだが、足元の数字からみれば軍資金の確保は、利益の伸長につながる可能性はある。

ソフトバンクグループは今後もソフトバンクの株式を7割程度保有する見通しだ。目論見書によれば、純利益の85%をメドに配当を実施。引き続き、国内通信事業は連結決算に取り込むことになる。

巨額の売却益を手にした孫氏が、次にどんな手を打つのかが、今後の焦点となる。