「村八分」が全国各地で復活している(※写真はイメージ)

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 過去の遺物という印象が強い「村八分」だが、地方移住ブームに伴い、全国各地で復活しているという。現代の村八分の事例や法的問題について東京新生法律事務所の濱門俊也弁護士に話を聞いた。

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 挨拶をしなかった、自治会の手伝いを断った、家庭ゴミを正しく出さなかったなど、それは些細なキッカケだったのかもしれない。村八分とは、そうした小さな火種がやがて大火と化し、村民全体が結託して特定の家と絶交する行為である。

 そもそも村八分とは、江戸時代以降に見られるようになった風習。村共同で農業経営をしていた当時は、共同体をまとめる強い規制が必要だったため、こうした私的制裁が生まれた背景がある。その後、各戸が独立して農業の生計を立てられるようになるにつれ、あまり行われなくなっていった。

「村八分」が全国各地で復活している(※写真はイメージ)

 しかし、2017年末から2018年にかけて、村八分の事件が立て続けに報じられているのだ。

 大分県宇佐市では、Uターン移住してきた男性が、集落の構成員として認められず、市報や行事の連絡などが一切届かない状態が続いていた。奈良県天理市でも、移住してきた夫妻へ自治会が広報誌や回覧板を届けず、夫妻の母親の葬式も周囲の住民がボイコットする事案も発生している。

 山梨県北杜市では、「ぜひ我々のところに移住してください」などと行政が熱烈にPRしていたにもかかわらず、村八分があった。そこでは、自治会会員以外はゴミ置場を使ってはならないというとんでもない独自ルールがあり、非加入者は、車で数キロ先のゴミステーションまでゴミを運ばざるを得なかったという。

村八分は脅迫罪や名誉毀損罪に当たり得る

 前述の事例は氷山の一角に過ぎない。「法務局及び地方法務局管内別 人権侵犯事件の受理及び処理件数」によれば、2006〜16年までの11年間で、日本全国で316件の村八分が発覚している。最も多かった自治体TOP5は、名古屋34件、岐阜16件、長野14件、静岡13件、新潟12件。5市ともすべて中部地方となっている。

「近年、過疎化に悩む地方自治体は、移住を歓迎しているため、都会からの流入者が増えはじめました。しかし残念ながら、自治体側と住民側が必ずしも同じ意見であるとは限りません。これからも移住者が増えてくると、閉鎖的なコミュニティでは、村八分のような事例がさらに顕在化してくる可能性はあるでしょうね」(濱門氏、以下同)

 では、村八分は法的にどんな問題があり、村八分に遭った場合、被害者はどんな請求ができるのか。

「刑事では、被害者への人格の否定や、名誉を傷つけることで脅迫罪や名誉毀損罪に当たり得るでしょう。民事では、村八分をされることで社会生活上、大きな困難を生じたり、人格権が侵害されるため、差し止め請求や慰謝料請求の対象となる可能性があり得ます」

 平成においても何度か村八分の裁判が行われており、慰謝料の支払いが認められている事案もある。津地裁1999年2月25日判決では、地域住民が原告に対して慰謝料30万円を支払うことを命じられた。大阪高裁2013年8月29日判決でも、原告1人あたり44万円の慰謝料が認められている。いずれも、人格権を違法に侵害したという理由での支払い命令だ。

「また最近の事例だと裁判だけではなく、弁護士会が自治会に是正勧告を出すことがあります。これは極めて稀なことで、それほど自治会による村八分が非常に悪質だということでしょう。是正の勧告にも従わない自治会は、社会と断絶しているといえます」

移住者は事前リサーチと証拠を残す

 政府が推し進める働き方改革という旗印のもと、最近はテレワークが普及し、働く場所が問われなくなってきている。定年後のセカンドライフとして、地方に安住の地を求める向きもある。

 では、地方移住希望者が地域の村八分を事前に確認することや防止策はあるのだろうか。

「事前のリサーチはしたほうがいいと思います。役所内にある移住の担当部署や地元弁護士会に相談してみるのもひとつの手です。しかし、村八分はいじめと同じで、水面下で行われていることが多いため、役所や弁護士会でも把握していない可能性があります。そう考えると、移住希望者が実際に地域へ足を運んでみるのが一番かもしれません。不安であれば、念には念を入れて、移住の際には自治会長や周辺住民への挨拶も必要でしょう」

 しかし、不幸にも自分が村八分に遭ってしまったら、弁護士会や地元法務局の人権侵害窓口に相談するのが一般的な方法となる。その際は証拠を残すことが一番重要だと濱門氏は語る。

「村八分で焦点になるのは、ほとんどが『言った、言わない』の争いです。暴行などがあれば、暴行罪や傷害罪で一発で罪に問えますが、村八分はいじめと同じで大概は言葉による人権侵害。そのような訴訟の場合、おそらく証拠不十分で棄却されているものが多いと思います。そうならないためにも、加害者側の発言を録音、あるいは物理的な損壊があった場合は撮影しておくことをおすすめします」

 地方移住者は、“郷に入れば郷に従え”の精神が肝要だが、村八分という時代錯誤な理不尽な目に遭った場合、自分の身は自分で守らなければならない。テレワークやセカンドライフなどで安易に地方移住を決めてしまうと、地獄を見ることになるかもしれない。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2018年11月12日 掲載