一流が名刺にメルアドを"印刷しない"理由

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自分を変えるにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年1月30日号)では、1日、1年、10年という3つのスケールに応じて、目標の立て方を「プロ」たちに聞いた。第2回は「中期目標」について――。(第2回、全3回)

▼中期目標
仕事がうまくいく、お金はざくざく貯まる、英語力もアップ! 1年後の自分が待ち遠しい

誓い:1
プロジェクトを成功させたい

■PDCAを「鬼速」で回そう

「達成までにある程度時間のかかるプロジェクトを成功させるには、PDCAが役立ちます」というのはZUU社長兼CEOの冨田和成さんだ。PDCAとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善)の頭文字をとったもので、P→D→C→A→P……の順でサイクルを回していくことをいう。

「こんなに万能なビジネスツールはほかにありません。このサイクルを超高速、僕の言葉でいえば『鬼速』で回すことで、超スピードで目標を達成できるのです」(冨田さん)

たとえば「1年以内にある飲食店の来店者数を2倍にする」というミッションを与えられたとする。冨田さんの提唱する「鬼速PDCA」では、次のようにプロジェクトを進めていくことになる。順を追って説明していこう。

(1)計画(Plan)

まずはどのようにプロジェクトを進めていくか計画を立てる。通常はゴールを明確にしたり、期限を設定したりする。次にゴールと現在地のギャップを埋めるための方法(課題)を考える。飲食店の来店者数が少ないというケースでは、次のような課題が考えられるだろう。

●顧客の認知度が低いのでそれを上げる
●接客スタッフに不手際が多いのでそれを改善する
●看板メニューの魅力が低いのでそれを高める……

このときのポイントは、個々の課題についての批判は後回しにし、考えうる限り多くの課題を書き出すことだ。チームで取り組むときはメンバーから出てきた課題を付せん紙に書いてホワイトボードに貼っていくといい。

課題が出尽くしたら、それを3つに絞る。これ以上多いと実行するとき負担になるし、少ないと効果が上がらないからだ。実行することで大きなインパクトがあるものから順に選ぶとよいだろう。

(2)実行(Do)

さきほどの課題を解決するための具体策を考えていく。

「看板メニューの魅力を高める」→新しい看板メニューを開発する……

などの解決策が考えられるだろう。だがこのままではまだ抽象的すぎて実行しにくいので、これを「タスク化」する必要がある。タスク化とは、それぞれの解決策ごとに「手段(どうやるか)」と、「期日(いつまでにやるか)」を定めることをいう。新しい看板メニューの開発なら、「1週間で構想を練り、関係者を集めて試食会を開く」と決めることだ。

(3)検証(Check)

検証の結果、うまくいっていないとわかったら、なぜうまくいかないのか、納得できる理由が見つかるまで考える。単に「時間がかけられなかったから」で終わらせるのではなく、「なぜ時間がかけられなかったのか」→「やる気が起きなかったからだ」→「なぜやる気が起きなかったのか」→「本当は看板メニューを変えたくなかったからだ」というように、本当の理由と思われるものが見つかるまで掘り下げて考えていく。

(4)改善(Action)

ここは検証の結果を再び計画(Plan)にフィードバックしたり、新しい計画をつくり、別のPDCAを回し始めたりするフェーズである。できるだけ早く次のPにつなぐことが肝要だ。

「PDCAは恋愛などの人生の悩みの解決にも使えます。1度PDCAサイクルを回すと、その効果に驚くはずです」(冨田さん)

誓い:2
ノルマを120%達成したい

■達成できない人の典型的な考え方

ノルマを達成できないのは悔しいし、周囲に面目も立たない。今年こそはノルマを100%といわず、120%達成する年にしたい。そのために心がけるべきことは何だろうか。

「ノルマ達成に限りませんが、目的を達成するためには、大きなビジョンを持つことが重要です」

というのはヘッドハンターの武元康明さんである。

「ノルマを単なる自分に課せられた仕事だととらえているうちは、なかなか達成することは難しいでしょう。仮に達成できたとしても、『自分はノルマを達成したのだから、もっと待遇をよくしてくれ』などと、処遇改善を求めるような個人主義的な発想に陥ってしまう。このような発想では、1度や2度は達成できたとしても持続しません。日本的経営においては、全体の和のなかの一部として個人がある。そこで生かされることで報われるのです」

武元さんは、「ノルマを経営計画の一部だととらえるといい」という。

「会社の掲げるビジョンと自分の個人的なビジョンが一致しているのがもっとも理想的です。一致していないまでも類似性があれば、それがエンジンになってノルマを達成できる」

会社の仕事を通じて自己成長をはかる、社会に貢献するなど、自分のなかで大きなビジョンにまで昇華できていれば、きっと120%どころか200%達成しようという気になるはずだ。

■「営業」という行為を分解しよう

しかし会社のビジョンと自分のビジョンが一致しているとは限らない。新卒時などは特に、企業の掲げるビジョンなどあまり気に留めず、条件やイメージだけで入社を決めることも多いだろう。

「入ってみたらイメージしていた会社と違った、ということもあるでしょう。どう考えてみても違うなら、転職を検討するのも1つの手だと思います」(武元さん)

冨田さんは、目標達成のためのPDCA計画のつくり方を、次のようにアドバイスする。

「営業という行為は、いくつかのプロセスに分解できます。たとえば顧客に電話をかける、面談する、商品について説明する、クロージングをするというように。自分はこのプロセスのうち、どこが弱いのか、どこを改善していけばいいのかを考えてみるといいでしょう」

■「社長と同じ大学の出身の者ですが」

「ここを改善すればいいのではないか」というところが見つかったら、その一つひとつについてPDCAサイクルを回していく。複数の小さいPDCAを同時に回すことで、目標達成という大きなPDCAを回すイメージだ。

たとえば「自分は新規開拓が少ないから目標が達成できないのかもしれない」という仮説を立てたら、「電話を200件かける」という課題解決策を試してみる。「いつも受付が突破できないので、担当者との面談にまで至らない」という課題なら、受付で断られないためのフレーズを考えていってみる。

このような小さいPDCAなら、1日単位でサンプルをとって効果を検証することができるだろう。

ちなみに冨田さんが受付を突破するのに有効だったのは、「御社の社長が書かれた本を読みまして」「社長と同じ◯◯大学の出身の者ですが」「記念日(社長の誕生日・設立記念日)なので連絡させていただきました」などのフレーズだった。

「PDCAを回すことで、無駄な努力をせず、最短で目的を達成できる。これが一番の魅力です」(冨田さん)

誓い:3
顧客の絶対的な信頼を得たい

■初対面の瞬間から決められる

「顧客の信頼を得たければ、必要な具体的行動を書き出し、実行する。これに尽きます。ただし、その効果を検証することは欠かせません」というのは法政大学心理学科教授で行動分析学が専門の島宗理さんである。

「笑顔を見せることで顧客からの信頼を得られる」という仮説を立てたなら、鏡の前で笑顔を練習する。だが、それで信頼が向上したかどうかを確かめないと、無駄な努力を続けることや逆効果に気づかないことさえある。「顧客の信頼」を、発注の件数などで測定し、そうした指標の改善に結びついているかを確かめながら進めるべきである。

「顧客の信頼を得るには1日あれば十分です」といい切るのは武元さんだ。

「私たちの仕事は、企業が求める能力を持つ人材に接触して、企業と人材を結びつけることです。初対面の瞬間から信頼を得る必要がある」

そのために必要なのが相手の立場に立つことだ。たとえば転職を考えているかわからない候補者と面談したとき、「いまは転職する気はありません」と断られたとしても、相手の立場に立てば、しつこく食い下がることはできない。相手の立場を常に重んじることで信頼が得られるのだ。

誓い:4
100万円貯金したい

■財布を開くたびに思い出す方法

「重要なのは、自分が行動しなくてもお金が貯まるようにしておくことです」と島宗さんは指摘する。

「行動の習慣化は簡単ではありません。毎月2万円を専用の口座に移しにいくというように、貯金のためにわざわざ行動しなければいけない方法は継続しにくい。行動しなくても同じ効果が得られるなら、できるだけ行動を省くこと。つまりこの場合、最適なのは自動積み立てです」(島宗さん)

しかし自動積み立てをしようにも、余分なお金がないこともある。それならいまの支出を削るしかない。ポイントは、「何のためにこの支出を削るのか」を意識すること。海外旅行に行くために貯金をしているなら、「今日飲みにいくことで旅行先が海外から国内になってしまうかもしれない」と意識するのだ。

「飲みにいく前に旅行のことを思い出せばいいと思うでしょうけれど、それが一番難しい。“思い出す”という行動に頼るからです」(島宗さん)

そこで「財布を開くと見えるところに貯金用口座のカードを入れておく」などの工夫をする。それを見るたび、「あ、貯金するんだった」と思い出せるというわけだ。

誓い:5
TOEICのスコアを100点アップしたい

■2年で375点が900点に!

「なぜ英語を身につけるのかを再確認したほうがいいでしょうね。キャッチャーミットを目指して投球するピッチャーと、キャッチャーの後ろのバックネットに的をおいて投げるピッチャーとでは、当然後者のほうが球威が強い。英語の勉強も同じです」

というのは武元さん。TOEICでいい点をとることを目標にしていると、いい点をとった段階で満足してしまう。“英語を学んで◯◯をする”というビジョンがあれば、その後も英語力を伸ばせるのだ。

「TOEICで100点アップしたいという目標は、一見具体的なようですが、まだまだ粗いですね。実行するにはもっと細分化する必要がある」というのは冨田さんだ。ちなみに冨田さんは2年間で、TOEICを375点から900点まで上げた実績を持つ。「パソコンやiPadの表示をすべて英語に設定する」「日本人同士でも英語で会話する」など日常生活で英語に触れる量を徹底的に増やし、英語学習を日常生活に組み入れたのが勝因だ。冨田さんは「To Doはその日1日で終わるような量にまで細分化しておくのが理想」と主張する。たとえば「英語の勉強をする」というTo Doよりは“今日はTOEICの頻出単語集の何ページから何ページまで読む”というように1日でできる量を決めるのだ。

「どんなにおいしそうなステーキも、ナイフで一口大に切らないと食べにくい。目標とTo Doの関係も同じです。どんなによい目標も、すべきことを1日分に分解しないと手をつけられない」(冨田さん)

細分化の作業が面倒でも、そこは我慢。それさえしておけば「こんなに簡単ならすぐにやりたい」ということになり、継続できるのだ。細分化することで、ルーティンに組み込みやすくなるという利点もある。やることが増えるたびに時間を捻出するのは負担が大きく継続しない。細切れにして生活に組み入れることで、楽に継続できるのである。

相手に確実にインパクトを残す方法
武元康明●ヘッドハンター

■メールアドレスをなぜ名刺に入れないか

相手に自分を印象付けるにはどうしたらいいか。ヘッドハンターとして多くの人とお会いしている私にとっても、日々意識しているテーマです。

会った翌日にメールで「昨日はありがとうございました。勉強になりました」とお礼を伝えると印象に残りやすいといいます。しかし相手が毎日のように大勢の人と会っている職業の場合、それだけでは記憶に残らないでしょう。

そこで、私が実践しているのが、名刺にメールアドレスをあえて「印刷しない」ことです。

多くの人の名刺には、だいたいメールアドレスが印刷されていますので、名刺交換をしたら後日、私のほうからメールを送ります。

しかし、私がインパクトを残したいと思う相手には、その場で名刺にメールアドレスを手書きして渡しています。

「あなたは大切な人だから、特別にメールアドレスを書きますよ」と、特別感が生まれるのです。

このような小さな工夫でもインパクトを残すことはできます。

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冨田和成(とみた・かずまさ)
ZUU社長兼CEO
一橋大学卒。野村証券にて営業記録を樹立。2013年ZUUを設立し、金融メディア「ZUU online」運営。著書に『鬼速PDCA』など。
 

武元康明(たけもと・やすあき)
サーチファーム・ジャパン取締役会長
1968年、石川県生まれ。半蔵門パートナーズ社長。約20年のキャリアを持つ世界有数のトップヘッドハンター。
 

島宗 理(しまむね・さとる)
法政大学文学部心理学科教授
千葉大学文学部卒業。慶應義塾大学社会学研究科修了。ウェスタンミシガン大学心理学部博士課程修了(Ph.D.)。
 

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(ライター&エディター 長山 清子)