ミャンマーとタイ国境の街、ミャワディ。仕事を求めてミャンマーからタイへ渡るミャンマー人=写真は全て八木沢克昌撮影

タイの首都バンコクのスラムが「国際化」している。国境を接するカンボジアやミャンマーから仕事を求める人たちが次々に流入しているためだ。その背景を見てみると、日本も「単なる海の向こうの問題」と傍観しているわけにはいかないように思えてくる。

スラムに増えるカンボジア人

タイの首都バンコクには、スラムが約2,000ヶ所あり、210万人が暮らしている。中でも最大なのが人口約10万人のクロントイ・スラム。私が家族と一緒に26年前から暮らすスラムだ。そのスラムで、この10年、タイ語に混じってカンボジア語がよく聞こえてくるようになった。私たちの事務所や、運営する図書館があるスラムの中心、70ライ地区では、図書館の常連もカンボジア人の子どもたちが目立つようになってきた。

カンボジアの西部シェムリアップから10年前にタイに出稼ぎに来たというリアムさん(30)は、カンボジア人の妻と二人の幼い子どもとクロントイ・スラムに暮らす。住居があるのは、この地区で最も居住環境の厳しいロック1・2・3地区。狭い路地にトタンと廃材で作られた簡素な家がひしめきあう。部屋の大きさは4畳半ほど。電気や水道はあるがトイレや台所は共同という地域で最も古い2階建ての家に、7家族30人で暮らす。家賃はひと月1,500バーツ(5100円)ほど。市内中心部の半額以下だ。仕事はクロントイ・スラムに隣接する港の荷役の仕事。給料は、一日働いて350バーツから500バーツ前後で、港の荷役の量によって稼ぐ額は不安定だという。

バンコク市内クロントイ・スラム。 7家族30人のカンボジア人が暮らす家

ゴミ山のスラムとミャンマー人

ミャンマー人も目立つ。在留邦人7万人の多くが住むバンコクの中心部のスクムビット通り。近年、通り沿いにあるオンヌット地区が日本人に人気だ。高架の上を走るスカイトレインの駅周辺には、ショッピングセンターやコンドミニアムが立ち並ぶ。

そのオンヌット地区の大通りから路地の奥へと、タイ語とミャンマー語の絵本を積んだ移動図書館車が入っていく。その先には、「ゴミ山のスラム」として知られるテ―プラクサー地区がある。スラムの入口には、清掃車から下ろされたばかりの黒いゴミ袋の山。近づくと強烈な腐敗臭が鼻につき、ハエが地面から一斉に空中に舞い上がる。路地は人がやっとすれ違える広さで、大半の家はトタン板や板切れでできたバラック同然の作り。こうした家でも家賃はひと月1,000バーツ前後。地面にはゴミが積もり、歩くとゴミの上なので足がフワッと浮く感覚がする。

この地区にはバンコクの市民が出すゴミの処分場がある。1980年代はバンコクの「スモーキー・マウンテン」として知られた。現在は、整備が進み、煙も、うず高く積もったゴミの山もない。だが、ゴミの分別施設などがあり、その周辺には約200世帯が暮らす。住民はリサイクル可能な缶や瓶、ペットボトル、金属などを分別して日銭を稼ぐ。賃金は出来高制で、一日平均300バーツ前後。働いているのは、大半ばミャンマー人だ。伝統的な顔料のタナカを顔に塗っているのでひと目でわかる。

ゴミの分別をするミャンマー人、バンコク市内スクムビット、テ―プラクサー地区

深刻な少子高齢化と労働力不足

以前は移民労働者といえば国境の町だけだったが、今はバンコク市内の移民労働者の数が急増している。仕事は、ほとんどが港湾労働者や建設現場といったタイ人が嫌がる3Kの仕事。さらに食堂や労働集約型の工場、日本人が使用するレストランや居酒屋、ホテル、屋台、市場、メイドなど。いたる所で移民労働者を目にする。流暢なタイ語を話すので外見上はタイ人と区別がつかない。

これほど外国人が増えているのは、タイが今、深刻な少子高齢化と労働力不足の時代を迎えているからだ。

2017年の合計特殊出生率は日本の1.43に対し、タイは1.39。首都バンコクに限定すると0.8で日本より低い。タイは元々、高学歴の女性ほど結婚しない社会で、女性の独身が多く、社会進出も日本より進んでいる。結婚して仕事を辞める人は少ない。同年の高齢化率はタイが12%で日本は27.2%だが、高齢化のスピードは速く、ASEAN諸国の先頭を走っている状態だ。

タイ・ミャンマー国境街、メソトのゴミ山で働くミャンマー人。ゴミが生きる糧

労働力不足に関しては、年間に少なくても50万人が不足しているという統計もある。陸続きのミャンマーから推定で300万人、カンボジアから100万人、ラオスから60万人がタイで就労しているとされる。移民労働者問題に関わるNGOのLPN(労働者権利推進ネットワーク)の代表のソンポンさんは「タイ政府に登録されている移民労働者数は全体で290万人。実際には推定で半数が登録していないので、全体では登録者の約2倍の約580万人が3か国からの移民労働者」とみる。日本の外国人労働者数は現在、130万人ほど。タイの人口は日本の約半分であることを考えると、外国人労働者の存在感の大きさが想像できるだろうか。

日本でも、労働力不足は喫緊の課題となっており、政府は外国人労働者の受け入れ拡大に動いている。タイから見ていると、外国人労働者に関しては、日本がタイを追いかけているような気がしてならない。タイのスラムで増える外国人労働者の問題は、日本でも外国人労働者の受け入れ体制について、根本的な見直しが避けて通れないことを物語っているように感じる。「移民労働者先進国・タイ」から学ぶことが多いのではないだろうか。

この移民労働者の急増の影で、タイでは格差などの社会問題も急速に広がっている。次回は、この問題について考えようと思う。