適切な教え方をしなければ効果は出ません(写真:よっし/PIXTA)

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小学6年生の娘の相談です。中学受験を控え、日々塾通いが続いています。本人の希望で4年生からはじめた塾通いですが、なかなか、特に算数はよくわからないようで、最近では0点を取ってくることも。家でつきっきりで見ていると、「さっき教えたでしょ?」とか「このあいだも同じのやったのになんで?」とついつい言ってはならないことを言ってしまい傷つけてしまいます。
本人に勉強をしたいのなら中学受験用ではなくもっと基礎を学べるところへ行ってはと勧めてみるのですが、本人は受験を希望します。なぜそこまで受験にこだわるのかと聞くと、将来医師になりたいからで、そのためには中高一貫校に入ったほうがいいと聞いたからなのだそうです。
そのように将来の目標がすでにあることは大変立派だと感心するのと、娘は人間力があるというか、人が好きで誰かのお役に立てることを喜ぶタイプなので、そういう人がお医者さんになるのはとてもいいのかなと思うので、ぜひとも応援はしてあげたいのですが、肝心の学力が……。娘が「自分の頭はほかの人とは違って変わってる。みんなが数回でわかることが自分はわからない」と言います。それならやる回数を増やしてはと、つい単純に言ってしまうのですが、そこは小学生。やる気と行動が結び付きません。学校の勉強は問題なくついていけています。親にできる手助けはどんなことがあるでしょうか。
(仮名:石山さん)

親は指導のプロではない

娘さん、結構つらそうですね。志もあり、勉強する気持ちもあるのに、点数が取れないという状況では、それを応援したいと思う親もつらくなってきます。

実は、親が勉強を教えるということは、本来おかしい状況なんです。なぜなら、親は教師ではありませんし、家は学校ではないのですから。


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さらに自分の子どもとなると特別な感情が湧き出て、教えているはずなのに、いつしか怒っているという状態に変化したりします。それが高じると、親子関係が悪化することも少なくありません。もし他人の子に勉強を教えるのであれば、冷静になって子どもの気持ちを考えて教えるのに、わが子になるととたんに怒りだしてしまう。不思議ですよね。

先日、筆者がカフェで東洋経済オンラインの記事を書いていたところ、次のような場面に遭遇しました。

4人家族でパパが娘を、ママが息子に勉強を教えていました。子どもは2人とも小学生でどうやら中学受験を目指す大手塾の教材を使っているようです。ママは怒りながら息子に教えています。「これ、勉強したことだよね!! なんでわかんないの!」と。そして驚いたことに、ママはパパに向かって「あなたが変な教え方するからこの子(息子)が、できないじゃない!!!」と怒っているのです。その親のやり取りを子どもたちは間近で黙って見ているのです。勉強は大変、親は大変、自分ができないと親は怒り出す……と、子どもはじわっと感じていたりするのです。

実はこのような状況を筆者は度々目にしています。別のカフェでもママが娘に勉強を教えていました。近くにいたため、聞こうとしなくても話が聞こえてきます。すると、教え方が間違っているとはいいませんが、伸びないやり方で勉強を教えているのです。私が声をかけるわけにもいかず、「あのやり方では厳しいなあ」と歯がゆい気持ちを持ったものです。

親は指導のプロではありません。指導方法はおそらく習ったことはないでしょう。ですから、適切な教え方がなされないため、効果が出なかったりします。これは本来、学校の先生の役割であって、親の役割ではないということがおわかりいただけると思います。

勉強をしない子に対して一所懸命やる気にさせようと頑張る親御さんもいらっしゃいます。しかし、やる気にさせるモチベーションアップのプロではないため、大抵は失敗します。どうすれば人はやる気になるのか。その原理を知らないと上げることはできません。しかし目の前の、ダラダラしているわが子を見ると「やる気」にさせようと再び親は“頑張って”しまうのですね。気持ちはよくわかりますが、残念ながら何も解決しないのです。

伸びる教え方を親が知ってしまえばいい

本来、親は勉強を教えないほうがいいと言われても、今後も親が子どもに教えるという状況は絶対になくなることはないでしょう。

そこで、筆者はこのように考えました。それならば、「伸びる教え方を親が知ってしまえばいい」と。いずれにせよ、子どもに勉強を教える状況が生まれるのであれば、教え方を知るほうが子どもの学力は上がっていきますし、親子の関係も円満になります。

では教え方とはどういうことかについてお話ししたいと思いますが、字数の限られた記事ではすべてを語ることはできませんので、石山さんのお子さんが現在置かれている算数の指導を中心に、そのポイントをいくつかお話ししましょう。

1.「わかった?」→「うん、わかった」は実はわかっていないことが多い

親が教えて、子どもに「わかった?」と聞くことはよくあることでしょう。子どもは「うん」とは言うものの、本当にわかっているかどうかは怪しいものなのです。筆者が子どもたちに勉強を教えていたときもそうでした。黒板で説明した後に「わかった?」と聞くとほとんどの生徒が「わかった」と言います。しかし、それはわかった気になっているだけで、実際はわかっていないことが少なくありません。

そこで、本当にわかっているかどうかを確かめる方法。それは、子どもが「わかった」と言った後に、「じゃ、自分の言葉で説明してみて」と子どもに解説させるのです。自分の言葉で説明できれば、それは理解していることを意味します。もし、説明できないということであれば、「わかっていない」という状態なのです。ですから、わかっていない状態であるならば、再度、説明をしてあげてください。子どもが自分の言葉で説明できるかどうか、これが理解のカギです。

2.最低3回転させなければ、身に付かない

問題は3回転させることが原則であることを知っておきましょう。ここで注意することは、「できた問題は繰り返さない」ということです。それをやってしまうと、時間はいくらあっても足りません。できない問題を繰り返すということで、上限を3回と決めておきます。そうしないとキリがありません。そしてテスト前は、3回間違えた問題を再度復習、時間があれば2回間違えた問題を再度復習するやり方をします。

3.パターン化、類型化させないと混乱する

パターン化、類型化しておかないと、頭の中に「体系」ができないため、混乱する可能性があります。ただ1ページ目から進めればいいというものではなく、単元が終わったらいくつのパターンがあるのかを整理しておきます。たとえば、つるかめ算の基本パターンは○つ、旅人算の基本パターン○つといったように。そのパターンの方法を子どもに口で言わせることで定着を確認します。

優先度の高い部分を集中的にやる

4.すべての問題をやらない

本当にすべての問題をやらないといけないの?と疑問を持つ必要があります。塾の宿題が大量にあったりするとすべてをやらなければと勘違いしてしまいがちですが、できる人は実際はすべてはやっていません。優先度の高い部分を集中的にやっています。できる人だからすべてをやらないのではなく、すべてをやらないから、重要なことに時間を使うことでできるようになっていくのです。たとえば算数の計算問題集であれば奇数番号のみを行うなど。

5.計算ミスはできた問題として処理する

これはかなり意外なことと思うでしょう。家での学習で、解き方がわかっているのに、うっかりミスで計算ミスをしてしまった場合、その問題はできた問題として処理します。そうせずに、再度解き直しをしているから時間がなくなりほかの勉強に影響を与えるのです。

全体を通して、学力が伸びていかない場合は、指導される側の問題はほとんどありません。指導する側に問題があるのです。つまりやり方が間違っているということです。ですから、子どもの心の状態を感じながら、上記のような点を算数指導に入れてみてください。徐々に変わっていくことでしょう。