就活のスタートを切る日程を規定した「採用選考に関する指針」。経団連会長が廃止する方針を表明したが、当事者の学生たちはどうとらえているのか(写真:cba / PIXTA)

就活スケジュールの決定はこれまで経団連が行ってきた。が、経団連の中西宏明会長が2021年卒(現大学2年生)採用から「採用選考に関する指針」を撤廃する方針を示し、10月に正式に廃止することを決定。2020年卒採用に関しては現行スケジュールが適用されるが、それ以降は現在の3月採用広報開始、6月採用選考開始という日程に、経団連は責任を持たないということになる。

そして2021年春入社の学生を対象とするルールは、政府が主導して作ることになり、関係省庁で議論する連絡会議が10月に開催された。内閣官房と文部科学省、厚生労働省、経済産業省が参加し、経団連と、国・私立大などで構成する就職問題懇談会(就問懇)もオブザーバーとして出席している。

結論は大学3年生の3月1日に説明会を解禁し、大学4年生の6月1日に面接を始める現行の日程を踏襲することになった。2022年春入社以降の学生が対象のルールは2019年度以降に改めて議論する。

当事者である学生の声を調査

このような報道で「関係者」とされるのは、いつも関係省庁、大学、経済団体だ。つまり「あるべきスケジュール」を大人が検討している。大事な関係者が抜けていないか? 当事者の学生だ。

学生は就活スケジュールをどのように見ているのだろうか。2019年卒業予定の大学生・大学院生を対象に2018年6月に行った「楽天みん就」との共同調査結果を紹介したい。


現在の就活スケジュールを規定しているのは、経団連の「採用選考に関する指針」であり、2016年卒からこの名称が使われている。だがその歴史は古く、指針の前身は1997年につくられた「倫理憲章」、さらにその前身は1953年スタートの「就職協定」だ。

紆余曲折あって「3月採用広報解禁、6月選考解禁」に落ち着いたのは2017年卒から。以来、このスケジュールが踏襲され、2017年卒、2018年卒、2019年卒に適用されてきた。3月広報解禁、6月選考解禁のスケジュールは3年間使われてきており、企業、大学のいずれも慣れている。今までやってきたのだから、「このスケジュールのままでいい」と考えている関係者はかなり多いのは当然だ。

では、すでに就活を経験した2019年卒(現大学4年生)は、どのように考えているのだろうか?

「就職活動を経験してみて、就職スケジュールはどうあるべきだと思いますか」という設問に対する回答のほとんどは「時期」に関するものだ。経団連の指針に関するものもかなり多い。

時期で多いのは、「現状維持」と「前倒し」だ。「遅くすべき」という意見はほとんどなく、あっても「卒業後」や「通年」という意味と混じり合っている。

現状維持のコメントはシンプルなのが特徴。「このまま」「今のまま」「現行のまま」「スケジュールに不満はない」「こんなもんです」といずれも短い。

理系・上位校は「今のままでいい」

特徴的なのは、現状維持派に理系の比率が高いことで、半数近くを占めている。文系でも上位校が多く、旧帝大クラスもかなりいる。コメントの短さ、理系と上位校が目立つことが特徴だが、就活に苦しむことなくすんなりと内定を得た学生が多いように思える。

いくら新卒採用市場が売り手市場と言っても、本物の就活エリートは少数だ。理系や旧帝大クラスはそのエリートの代表である。もちろん全員がそうとは言い切れないが。

注意したいのは「今のまま」「このまま」の意味がはっきりしないこと。たとえば次のコメントを読んでもらいたい。

「現状のままで良い。選考の6月解禁は茶番であるにも関わらず、就活本やセミナーではあたかも真実であるかのように取り上げている。この形骸化したスケジュールはもはや意味をなさないため、スケジュールとうたうことを即刻辞めるべき」(理系・上位私立大)

この学生は「現状のまま」を肯定しているが、「6月解禁は茶番」と断じている。とすると、この学生の「現状」とは、3年生のサマーインターンシップから始まり、3月や4月に実質的な選考が終了するスケジュールを指しているのかもしれない。

スケジュールの早期化を求める声も多いが、その理由はさまざまだ。「卒論や研究とかぶる」という理由から、前倒しして12月の解禁を求める声がある。

「研究に支障が出る。できればもっと早い時期に終わらせたい。たとえば学部生なら、3年生12月のスタートにするなど」(理系・上位国公立大)

「面接解禁は12月解禁が良い。(卒業論文が忙しい)」(文系・その他国公立大)

「卒論とかぶるので、もっと早くから始めてほしい」(文系・中堅私立大)

2013年卒からの数年は12月に採用広報が解禁されていたし、それ以前には12月ごろから実質的な選考がスタートしていた時期もある。ただ経団連が憲章や指針で時期を後ろ倒しにした最大の理由は「学業」の妨げになるというものだった。その結果決まった3月―6月だが、逆に学業の妨げになると訴える学生もいる。

採用スケジュールの議論で、学業は誰にも反論できない万能の免罪符のように、いつも扱われてきた。しかし、これまでの採用スケジュールの迷走を見ている限り、免罪符を根拠にすると、実効的な解に到達しないように思える。

経団連の指針に関する言及は多い。決められたルールなので「守るべき」だし、「守らせるべき」と主張する学生もいるが、少数派。多いのは「経団連のスケジュールはいらない。どうせ守られてないから」(文系・上位私立大)というもの。

コメントを読むと、「なぜ」という疑問を持つ学生が多いようだ。経団連がルールを決め、就職ナビの記事やキャリアセンターのガイダンスで3月―6月というスケジュールが指導されるのに、そうなっていないことへの不思議さである。

「経団連の指針にのっとるなら従うべき。従わない企業が多すぎ、結局何のためのルールなのかがまったくわからない」(理系・その他国公立大)

「経団連の指針はほとんど守られていないと思った。企業によって差がありすぎて対策が大変だった。指針は見直してほしい」(理系・上位国公立大)

「3月から始めても間に合うと思うが、遅くても1月には準備を始めたほうがスムーズに選考が進むと思う。また、だいたいの企業は6月までに選考が終わるため、公式には6月解禁というのは不思議である」(文系・上位私立大)

「卒業後」でよいという意見も

時期を定めて一斉に「ヨーイドン」という、日本の新卒一括採用に異を唱える声もあり、数は少ないが「卒業後」でよいとする学生もいる。

「卒業後でもいいのではないかと思う。外国と比べて日本の就活はおかしく感じた」(文系・上位国公立大)

「卒業後がいい」(理系・旧帝大クラス)

「大学卒業後に就活が始まれば良いのにとおもったことはある」(理系・上位私立大)

「学業に少なからず支障が出るので卒業後にやって9月入社にしてほしい」(文系・その他私立大)

日本では新卒一括採用が定着しているので、「卒業後に採用すべきだ」という意見が検討されることはまれだ。国際教養大学の初代理事長・学長を務めた中嶋嶺雄氏が存命の折、「学生には学業に専念させたい。企業には卒業後に採用してもらうようにお願いしたい」と、セミナーの場で発言していたことを覚えている。中嶋氏は東京外国語大学の学長も務めた経歴もあり、国際人らしい見識だといえる。

「通年」がいいと言う学生も少なくない。その特徴はコメントが長いことだ。かなりよく考えて書いており、論旨が通っている。きちんと学業に励む学生に思える。

「より海外留学者に配慮したスケジュールを社会全体が受け入れるべきだと思う。ある程度、通年に準じるよう、年に数回入社時期を設けて、人材確保に邁進すべきだと思う。企業は年に一度の新卒採用で、無理に国内大学の学生を採用する必要もないはずである」(文系・早慶大クラス)

「現状の3月解禁のように一斉にスタートするのではなく、通年で募集するようなスタイルだと、研究がある学生としてはありがたいと感じた」(理系・上位国公立大)

「短期になると就活だけにしか集中できず、学業に差し支えるため、通年採用の企業が増えてほしいです。スケジュールが過密になると1つ1つの企業への志望度は高くても、選考を辞退してしまうことがあります」(文系・上位私立大)

いろいろな学生の意見を紹介してきたが、政府は現行の就活ルールを踏襲する方針を示しており、当面の日程の変更はないようだ。

この方針が示されるまでは、2021年卒採用の選考が、東京オリンピックとぶつかることへの懸念の声が多かった。学生ボランティアの動員時期と就活の時期が重なるからだ。確かに4年生の就活や3年生のサマーインターンシップに影響は出るだろう。

ただし、正面衝突と言うことには、ならないはずだ。オリンピックは7月24日〜8月9日、パラリンピックは8月25日〜9月6日だ。近年の内定率を見ると、4年生の6月1日には約7割、7月1日には約8割に達しており、以降の内定率は緩やかに増加していく。学生の多くは、オリンピックやパラリンピックを十分に楽しみ、手伝うこともできるはずだ。

就活ルールは”制度疲労”

経団連の指針撤廃は時代の要請にかなったものだと思う。経済団体が就活ルールを決めた1950年代と現代では、産業構造や大学進学率はまったく異なっている。


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それにも関わらず、経済団体が就活ルールを決める形を続けてきたわけだが、もはや”制度疲労”を起こしているのではないか。経団連の中西会長が、「経団連が就活ルールを決めるのに違和感がある」と語ったのは、そうした背景もあると思われる。

今回の見直しの背景を考えると、日程を明確に示しながら、一向に守られない実態に対する忌避感がある。混乱を避けるために「一定のルール」は作るが、時代に即した採用形態を模索しているようだ。

今後はおそらく通年選考・通年採用が増えていくのだろう。そうならなければ、グローバルな人材獲得などできない。