耐火性や断熱性に優れたアスベスト(石綿)は1950年代以降に本格輸入されて建築材料に使われ、加工や建設の現場などで粉じんを吸い込んだ人が今も健康被害に苦しむ。労災保険や国の救済制度の問題点、現在も建築物の内部に残る石綿のリスクについて、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(東京)事務局で西日本地域を担当する西山和宏さん(56)に聞いた。

 -会の構成と活動を。

 「全国に22支部があり、九州には福岡支部(福岡市)と南九州支部がある。活動は患者や家族の交流と情報交換、労災申請支援などが中心で、3カ月おきに交流会を開く。福岡支部は7月に常設事務所を設け、開所を機に三十数件の相談が寄せられた。南九州支部は常設事務所はないが、福岡支部で連絡を受け付けている。被害はなお続いていると感じている」

 -補償・救済制度は、がんの一種である中皮腫などを発症した労働者や遺族に労災保険、労災対象外の労働者や工場周辺住民などに石綿健康被害救済制度の救済給付がある。

 「二つの制度に格差があるのが一番の問題点。労災の場合、発症の直前3カ月間の賃金をベースに、賃金の8割分が給付される休業補償があるが、救済給付は月約10万円の療養手当にとどまる。救済給付は、健康被害を受けても労災対象外となった層の経済的負担を軽減するため、国が『見舞金的に』設けたためだ」

 「とはいえ、石綿を吸って健康被害を受けたのは同じ。石綿被害の補償は『いつ、どこで、どんな立場で吸い込んだか』で差が大き過ぎる。同じ工場で働いて労災認定を受けても、工場を運営する事業所の正社員と、下請け業者の社員では賃金が異なり、労災の補償も差が出てしまう。国による石綿の使用規制や、局所排気設備の設置義務化といった対策が遅れ、工場内だけでなく周辺まで被害が拡大した経緯があり、救済給付の内容を労災と同水準まで引き上げるべきだ」

 -家族の会に寄せられた相談で、補償や救済の問題点が浮かんだケースは。

 「若いころ石綿に接触した人の問題がある。ある男性は学生時代にアルバイトで石綿の吹き付け作業をし、その後ずっと別の仕事をしていたが、50代で中皮腫を発症して労災認定を受けた。しかし、労災の休業補償は石綿に接触した当時の賃金が基になるため、アルバイトの安い賃金の8割しか給付されない。十分な補償とは言えない」

 「従業員を雇わず個人で仕事を請け負う一人親方の補償も問題。一人親方は労災保険に特別に加入できるが、自分で保険料の額を選んで支払う仕組みになっており、保険料を安く抑えると石綿の被害を受けても補償が低くなる。こうした労働者を公平にカバーする制度を考える必要がある」

 -石綿は現在、輸入や製造、使用が禁じられている。今後の注意点は。

 「石綿は今も古い建物内には残っている。地震などの災害時は倒壊した建築物や解体現場で石綿の粉じんが飛散する恐れがある。阪神大震災では、私が知る限り5人が復旧作業で中皮腫になった。2カ月ほどの作業で発症した人もいる。災害時はがれきが山積するなど非日常的な状況になり、飛散防止策を十分取れないことがある。建物の解体で飛散防止の囲いを設置できなかったり、断水のため散水による飛散を防げなかったり。私たちは、自治体が地震に備えて防じん用のマスクを備蓄するよう呼び掛ける『マスクプロジェクト』に取り組んでおり、東日本大震災や熊本地震の現場でもマスクを配布した」

 「公営住宅に残る石綿も問題。ある女性は公営住宅に高校卒業まで住んでいたが、幼いころ天井に吹き付けられた石綿を触って遊んだ記憶があり、50代で中皮腫を発症した。私たちの全国調査では2万2千戸以上の公営住宅に石綿が使われていたことが判明。1960〜70年代の建物は建て替え時期にあり、平時に安全に取り除いておくべきだ」

 -中皮腫など石綿による疾患は、医師も診断が難しいと聞く。

 「中皮腫や石綿肺などの石綿による疾患は、医師も診察する機会が少なく、診断が難しい。手術の経験がない医師も多い。過去の仕事から石綿による疾患と判断するケースもあり、医師には患者に職歴を聞く意識を持ってほしい。被害者の中には、過去に石綿に関する仕事をして健康不安を抱えていても、重い病気と診断されるのが怖くて声を上げられず孤立している人もいる。家族の会は同じ立場の人の集まり。ぜひ輪の中に入ってほしい」

 家族の会福岡支部=092(409)1963。

=2018/11/07付 西日本新聞朝刊=