2010年にシニアデビューして以来、羽生結弦は、これまでグランプリ(GP)シリーズ初戦では2位が最高で優勝を果たしていなかった。そして今回、フィンランド大会で、2位のミハル・ブレジナ(チェコ)に39.14点差をつけて圧勝し、GP初戦で初めて優勝を飾った。羽生はフリーの後に笑みを浮かべながらこう語った。


GPシリーズ・フィンランド大会で優勝した羽生結弦

「ジュニアGPを除けば、これまでずっと取ることができなかったGPシリーズ初戦で1位を取ることができたのはうれしいです。もちろんアンダーローテーションやふらついているジャンプも多々あったり、スピンの出来も自分の中では(課題が)いっぱいありましたし、そもそも集中しきれなかったり、完璧な内容ではなかったかもしれないけど、ショート、フリーともに大きなミスはなくジャンプもとりあえず全部立てたというのは大きな収穫だったと思います。

 得点など、いろいろなことを言われると思いますけど、まずはショートで100点を超えられたことと、フリーで目標にしていた200点超えはできなかったですが、次へのステップとしてはジャンプの抜けがなかった、転倒がなかったというのはいいことかなと思います」

 前日のショートプログラム(SP)の前は緊張感も大きかったが、フリーの前には「ショートのアドバンテージがあるかなとも思い、気持ちとして少し楽にやれた」という11月4日のフリー。羽生は、最初の4回転ループは着氷を乱しながらもなんとか耐え、次の4回転サルコウはGOE(出来栄え点)加点3.74点をもらう出来にした。

 だがそこまでの滑りやその後のステップは、丁寧というよりも少し勢いが足りないような印象も受けた。さらに、後半に入ってからも4回転トーループの着氷を乱し、こだわっていた4回転トーループ+トリプルアクセルもアクセルの着氷が少しスリップする形になった。その後の3回転フリップ+3回転トーループとトリプルアクセル+1Eu+3回転サルコウはきれいに決め、最後のふたつのスピンは最高のレベル4。結果は、190.43点で、合計297.12点でトップに立った。

 その滑りを羽生はこう説明した。

「ここのリンクはエッジ系のジャンプがうまく入らなくて、苦戦していたんです。こっちへ来る前の練習では4回転ループもほとんど外さないで跳べていたので、このリンクに来てちょっとびっくりしたというところもあって、なかなか調整できなかった。でも最終的には、今朝の公式練習で『スピードを出さなければ跳べるな』ということを少し思って。だからエッジ系のジャンプとループは、とくにスピードを落として慎重にいきました」

 朝の公式練習でも4回転サルコウと4回転ループは入念にやっていた。また直前の6分間練習でも他のジャンプは余裕を持ってきれいに跳んでいたが、4回転ループは最初のジャンプは着氷が乱れ、次は軸が斜めになるなど乱れが見えていた。

 そんな状況もあって少し勢いを抑えたことが、4回転ループや4回転トーループの回転不足にもつながった可能性もあるが、その状態での解決策を見つけ、しっかり対応したことが、難度の高い構成のプログラムをやり切る力にもつながったとも言える。そしてそれこそが、羽生の底力でもある。

 また、こだわりを持っていた「4回転トーループ+トリプルアクセル」についてはこう言う。

「4回転トーループ+トリプルアクセルはアンダーローテーションもついていないので、一応成功にはなったんですが、自分では加点をしっかりもらえてこそ成功だと思っています。アクセルへの思い入れもあるし、後半にトリプルアクセルを2本入れたいという強い思いがあったので、このジャンプをやろうと思いましたけど、それでGOEを取れなければアクセルを入れた意味はないなと感じています。

 今シーズンのGOEの比重の大きさというのは、あらためて自分の演技後の点数を見て感じたところでもあります。『全部降りた』ではなく、『全部きれいに決まった』と言い切れるような演技をしなければいけないと思います」

 ただ、試合全体を振り返ってみれば、羽生は「GPシリーズ初戦としてはかなりいい出来だったと思う」とも言う。「有意義に試合を過ごすことができたし、それに加えて課題も多く見つかった」と。

「この結果の糧になったのは、オータムクラシックだったと思います。あそこで得たものはすごく大きかったと思うし、やっぱり試合というのはものすごく自分を成長させてくれるんだなというのをあらためて感じました。オータムクラシックの前までは4回転アクセルの練習をしていましたけど、あの結果を受けて『今はこれを練習している場合じゃない』と気づかされたというのもありました。

 今シーズン中には4回転アクセルをやりたいと思いますけど、今はとにかくフリープログラムもショートプログラムも完ぺきな演技でやることが一番かなと思っています。やっぱり、試合で勝たなければいけないというのがスケートをやる大きな意味になっていますし、このプログラムをクリーンに滑り、そして勝つということが、ふたり(エフゲニー・プルシェンコとジョニー・ウィア)に対してのリスペクトの気持ちを形として捧げられることだと思う。昨日のショートをジョニーが見ていてくれたみたいなのですごくうれしかったですけど、パーフェクトな演技ではなかったので、早くこのプログラムで自分が憧れていたようなスケートができるように頑張りたいです」

 羽生は、試合終了後、次のロシア杯へ向けて気持ちを高ぶらせているとも話した。中1週間しか時間がないなかで、さらにプログラムの完成度を高めることは難しいだろうが、「今回と同じような演技ができるか、あるいはそれ以上の演技ができるかは自分にとってのチャレンジであり、挑戦しがいのあること」と意気込みを語り、「ロシアへ向けては、それをまた楽しみたいですね」と、その表情を輝かせていた。

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