戦時中「徴用工」として日本の製鉄所に動員された韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めていた裁判で、韓国最高裁は30日、1人当たり約1000万円を支払うよう命じた。

 判決後、河野外務大臣は駐日韓国大使を呼び出し、「法の支配が貫徹されている国際社会の常識では考えられないことが起こっている。大使にこういうことを申し上げなければならないのは極めて心外である」と強く抗議。損害賠償を命じられた新日鉄住金は、韓国最高裁の決定を不服とし、「日韓請求権経済協力定およびこれに関する日本政府の見解に反するものであり、極めて遺憾」とコメントを出した。

 そもそも「徴用工問題」は、1965年の日韓請求権協定で日本が韓国に5億ドルの経済協力金を提供するなどし、「完全かつ最終的に解決された」ことを確認している。2005年1月には、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が日韓国交正常化に至る外交文書を公開。その上で盧武鉉政権は、請求権協定で日本から得た経済協力金に徴用工への補償資金が含まれていることを再確認した。当時、大統領首席秘書官だった文在寅(ムン・ジェイン)大統領もこれに関わっていた。

 つまり、韓国政府は元徴用工に請求権がないことを2度も確認している。ところが今回、韓国最高裁は「原告らが求めている慰謝料請権は、日韓請求権協定の適用対象に含まれないとみるのが妥当である」とした。

 では、なぜ韓国側が一転して請求権を認めるような流れになってしまったのか。新日鉄住金を訴える裁判は1997年、日本で開始。最高裁まで争ったものの2003年、「原告の権利は日韓条約によって消滅している」として訴えは退けられた。しかし2005年、元徴用工に請求権がないことを再確認したばかりの盧武鉉大統領が、突然態度を急変。「請求権は協定で消滅しているが、人類普遍の倫理から日本には賠償責任がある」という理解し難い主張をし、同年に原告は韓国での訴訟に踏み切った。

 1審2審では原告側が敗訴したものの、2012年に状況が一変する。韓国の最高裁が「韓国政府には賠償請求権がないものの、個人の請求権は消滅していない」と判断したのだ。この問題を巡っては、市民団体が日本領事館の前に徴用工像を設置しようとして警察ともみ合う事態に発展したことも。

 韓国では他にも係争中の徴用工訴訟が14件あり、被告となる日本企業は約70社にのぼる。また、韓国政府に申告されている「強制動員被害者」は22万人を超えており、もし本人や遺族が提訴を行い1人1000万円の賠償が認められれば、単純計算で2兆円を超えることになる。

 韓国政府は対日関係の悪化を懸念する一方で、国内世論の反応にも配慮しなければならず慎重な姿勢を見せている。日本政府は、国際司法裁判所への提訴も視野に検討を続けている。

 今回の判決に対して、政治学者で東京大学先端科学技術研究センター助教の佐藤信氏は「個人請求権を認める立場の中で、重要なのは7人の意見」と指摘。13人の裁判官のうち、7人が「協定は日本の不法植民地支配に直結していることから個人請求権は消滅していない」と判断したが、佐藤氏は「単純に『請求権がある』と言われるだけで日本政府としてはありえないのに、さらに植民地支配や侵略戦争の問題が解決されていないと言われてしまうと、今まで起こってこなかった問題が“パンドラの箱”のように開いてしまう。徴用工だけではなくあらゆるところに裁判が及んでくる可能性があって、二重にありえない判決」との見方を示す。

 今回の裁判は、韓国の国民と日本の企業という私人のもの。佐藤氏は「日本と韓国、という色分けをしてしまうと『報復措置を取ろう』という議論が起きてくるが、両国の政府という観点から見た場合そう単純ではない。北朝鮮に対して日米間で共闘していかなければならない中で、日韓関係は極めて重要な局面」だとし、「韓国の見解が一貫しているのかという問題もあるし、司法の独立を無視するわけにもいかないし、(判決の)そのとおりにすると言って日韓関係を完全に悪化するわけにもいかない。バランスを取るかなり高度な政治的な対応が両国に求められる」と述べた。

 では、今後日本はどのような対応をするべきなのか。佐藤氏は「韓国の裁判所が出した判断ということで、日本としても司法の独立が成り立っているという前提で動く必要がある。何かを言っても判決が変わるわけではなく、国際法の解釈は政府と政府にやってもらうしかない。日本国民も反韓感情を高ぶらせてもしょうがないので、政府の対応を見守ることが何より大事。逆に韓国を非難できるくらい日本では司法の独立が守られているのかを点検していくような、冷静な姿勢がこういう時に問われてくる」とした。

(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)

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