湘南ベルマーレに所属する杉岡大暉【写真:Getty Images】

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磐田戦は敗戦も11.457kmを走破

 湘南ベルマーレのDF杉岡大暉に注目が集まっている。高卒2年目ながらチームで定位置をつかみ、ルヴァンカップ決勝では優勝を決める決勝点を決めた。杉岡は、日本代表の左サイドバックに長く君臨する長友佑都の牙城を崩す可能性を秘めている。(取材・文:藤江直人)

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 疲労という二文字は、伸び盛りのホープには無縁のようだ。横浜F・マリノスを撃破したYBCルヴァンカップ決勝から中2日で迎えた、台風の影響で未消化となっていたジュビロ磐田戦。敵地ヤマハスタジアムのピッチへ、湘南ベルマーレの曹貴裁(チョウ・キジェ)監督はまったく同じ11人を送り出した。

「変える必要がなかったからです。肉体的な疲労はもちろんあったはずですけど、それで動きが悪かったとも思いませんし、そのための練習をしっかり毎日積み上げてきているので」

 こう語る指揮官から全幅の信頼を寄せられた選手たちのなかで、2試合ともに先発フル出場を果たしたフィールドプレーヤーは7人。全員がそろってジュビロ戦で10km以上を走り切り、なかでも最長となる11.457kmをマークしたのが、千葉県の強豪・市立船橋高校から加入して2年目の杉岡大暉だった。

「日程のことをどうこう言ってもしょうがないし、やるしかないと思っていたので、結果に対しては純粋に悔しいです」

 34分に日本代表FW川又堅碁に決められたゴールを挽回できないまま、試合は0−1で負けた。勝てばJ1残留へ大きく近づけたはずが、降格圏のサガン鳥栖及び柏レイソルと勝ち点3ポイント差の暫定14位。無念さと悔しさ、そして焦燥感の類いを胸中に渦巻かせるかのように杉岡は第一声を切り出した。

長友と車屋が離脱。杉岡にチャンスも

 それでも、クラブ名称が湘南に変わってからの初タイトルを手繰り寄せる豪快な一撃を叩き込み、決勝戦のMVPをもぎ取った20歳は小さくはない存在感を放った。今シーズンの主戦場としてきた左ウイングバックで先発し、3バックから4バックに変わった79分以降は左サイドバックに回った。

「前に人数をかけたいという思いから、(4バックではなく)ほぼ2バックの形にして上手くはまったんですけど。やられたというイメージもないし、攻撃でもクロスまではいけていた。もっともっとボールを引き出して、攻撃の回数を増やして、しっかり結果に結びつけなきゃいけない」

 3バックを基本システムとするベルマーレのなかで、ゴールを奪うために急きょ変更された4バックにもしっかり対応できた。そして、左サイドバックというポジションに目を向ければ、森保一監督に率いられる新生日本代表に招集された3人のうち、2人が戦線離脱を強いられる事態が発生した。

 コスタリカ代表に快勝した9月シリーズに招集され、78分から投入された車屋紳太郎(川崎フロンターレ)が今月17日の練習中に左足を痛めた。診断の結果はハムストリングの肉離れで、全治まで最大で4週間を要する見込みとなっている。

 そして、10月シリーズで今夏のロシアワールドカップ以来となる復帰を果たし、強豪ウルグアイ代表を4−3で撃破した一戦で先発フル出場して存在感を示した32歳のベテラン、長友佑都(ガラタサライ)もまさかのアクシデントに見舞われた。

 今月24日に行われたシャルケ04とのUEFAチャンピオンズリーグで、相手のクロスをみぞおち付近に受けて交代。一夜明けて肺気胸と診断され、同27日に手術を受けた。内視鏡を使った胸腔鏡手術で体力的な負担は少ないとされるが、現地では実戦復帰まで3ヵ月を要すると報じられている。

日本では希少な左利きの左サイドバック

 両者とも現状ではベネズエラ代表と大分銀行ドームで、キルギス代表と豊田スタジアムでそれぞれ対戦する11月のキリンチャレンジカップ2018への招集はほぼ不可能。長友に至っては、来年1月にUAEで開催されるアジアカップ2019への出場も難しくなってきた。

 森保ジャパンとして戦った3試合で出場した3人のうち、万全な状態の選手が佐々木翔(サンフレッチェ広島)だけとなった左サイドバックの再編が急務となった。そして、非常事態と言っていいなかでクローズアップされてくるのが、森保監督が兼任するU−21日本代表の常連となる杉岡だ。

 冒頭で記したように、スタミナに関しては申し分なし。身長182cmは長友の170cmだけでなく、佐々木の176cmと車屋の178cmをも上回る。加えて左利きという点に、J2を戦った昨シーズンの開幕戦でルーキーだった杉岡を抜擢し、先発で起用し続けてきた曹監督は昨年末の時点でこんな未来像を描いていた。

「180cm以上のサイズがあり、なおかつ左利きという左サイドバックは、いま現在の日本サッカー界にはなかなかいない。まだまだ伸ばす部分はあるけれども、森保監督が就任した東京オリンピック代表や、その先に待つA代表にも居場所を築きやすいのではないかと個人的には思っている」

 国際Aマッチに2桁以上出場した左利きの左サイドバックとなると、ジーコジャパンで活躍したワールドカップ・ドイツ大会代表、三都主アレサンドロを最後に途絶えている。長友も佐々木も、系譜をさらにさかのぼったところで名前を見つけられる都並敏史も相馬直樹も、全員が右利きの左サイドバックだった。

 日本代表のハビエル・アギーレ元監督やヴァイッド・ハリルホジッチ元監督も、左利きの左サイドバックの台頭を熱望。前者は太田宏介(FC東京)を、後者はワールドカップ・ロシア大会を決めてからの国際親善試合やEAFF E−1サッカー選手権大会で車屋を招集するも、最終的には長友を追い越せなかった。

曹監督も認めるメンタリティ

 左利きの左サイドバックが重宝される理由は2つある。まずはキックの質だ。左サイドを攻め上がってクロスをあげる場面で高低や強弱、カーブなどの変化をつけて、相手ゴール前へ走り込む味方へピンポイントで合わせるには、利き足で蹴ったほうが必然的に精度は高くなる。

次は相手との距離だ。たとえばドリブルを仕掛ける場合、レフティーは自身の利き足、つまり左タッチライン側にボールを置く。自分の体の横幅分だけ相手との距離が生まれ、ボールを奪われにくくなる。そこにサイズという天性の武器も兼ね備える杉岡は、自身の現在地をこうとらえていた。

「自分の長所はビルドアップで縦につけられるところと、ボールを前へ運んでいけるところ。左足によるクロスや縦パスも評価してもらっていると思う。ただ、守備のところで世界にも負けないような対人の強さを身につけなきゃいけないし、ファーストタッチも含めて、技術的にもまだまだだと思っています」

 心技体で比較すれば、杉岡は荒削りながらも「体」と「技」の部分で、長友が築く牙城に風穴を開ける可能性を秘めていると言っていい。ならば「心」はどうか。曹監督は今年2月に発表した著書『育成主義 選手を育てて結果を出すプロサッカー監督の行動哲学』(カンゼン刊)で、ルーキーイヤーの杉岡に関してこう記している。

「僕のなかでは開幕へ向けてチームが始動したときから、戦力としてある程度の計算を立てていた。杉岡の一番いいところは、ミスを犯しても下を向かないメンタリティーの強さにある。(中略)もちろん失敗はするけれども、プレーのなかにおける波が非常に少ない。18歳だろうが35歳だろうが、波の少ない選手は、特に後ろのポジションにおいては、どの監督にとっても使いたいと思う理由になる」

同じミスは繰り返さない。若くとも強靭なメンタル

 メンタリティーの強さは、市立船橋のキャプテンとして臨んだ最後の大会、2016年度の全国高校サッカー選手権で確認できたという。高校ナンバーワンストライカー、岩崎悠人(現京都サンガ)を擁する京都橘との1回戦が行われた2016年の大晦日。曹監督はフクダ電子アリーナのスタンドにいた。

 夏のインターハイ前にベルマーレへの入団が決まっていた杉岡に対して、「プロとしてすぐにやれる」という新鮮な驚きを覚えたことも『育成主義』では記されている。

「試合を通して変にふらつくこともないし、岩崎を止めようと躍起になるばかりに、いつもと違うことをするような感じも伝わってこない。クレバーやスマートという言葉よりも、不格好なんだけれども結局、山から落ちて来ない選手と表現すればいいだろうか。市立船橋全体にそういう選手が多かったなかで、杉岡は特にメンタル的な強さをもっていることがよくわかった」

 厳しい指導で知られる曹監督だが、杉岡に対してカミナリを落としたのは現時点で一度だけ。昨年5月のFC町田ゼルビア戦の試合終了間際に、自陣の失点につながりかねないエリアでファウルを犯し、直接フリーキックを与えた場面に対してだった。

「あんなところで、あんな時間帯にファウルをするなんて、自分は二流のディフェンダーだと周囲に言っているようなものだ。この先、ディフェンダーで生きていきたいのならあり得ない。なぜああなったのか、自分で考えろ!」

 もっとも、同じようなミスがその後に繰り返されることはなかったという。プレーのなかにおける波の少なさに通じるメンタリティーの強さは、曹監督の愛弟子であり、浦和レッズを経ていま現在はシントトロイデンVV(ベルギー)でプレーする日本代表MF遠藤航をほうふつとさせるという。

 そして、高校時代のセンターバックからベルマーレ加入直後の3バックの左ストッパーを経て、左ウイングバックから左サイドバック、状況によっては中学時代までプレーしたボランチへとプレーの幅を広げた今では、メンタルの強さに対する信頼感はチーム内でも群を抜くレベルにある。

本人も意識する日本代表の舞台

 7月に行われたV・ファーレン長崎との天皇杯全日本サッカー選手権3回戦と、10月14日に行われた柏レイソルとのルヴァンカップ準決勝第2戦。ともに決着がPK戦へともつれ込んだなかで、緊張とプレッシャーが交錯する1番手に指名されて事も無げに成功させたのが杉岡だった。

「天皇杯でも1番手だったので、あまり緊張しませんでした。外してもいい、というわけではないですけど、そういう気持ちで思い切り蹴りました。その方が自信を持って蹴れるので」

 こう語る杉岡に、ずばり本音を聞いたことがある。干支がひと回り違う大先輩の長友を意識しているのか、と。西野ジャパンが繰り広げた熱戦の余韻が残っていた7月上旬。首を縦に振りながら「テレビ中継はかなり見ました」と笑顔を浮かべた杉岡は、こんな言葉を紡いでいる。

「1対1が強いし、守備のときのポジショニングもよかった。そういうところは見習っていきたい。ワールドカップは夢の舞台だし、自分が立ちたいという思いもありますけど、まずは湘南でもっと結果を残さないといけない。不動のレギュラーとは思っていないし、そもそも湘南にはそういう存在が少ない。だからこそ周囲から『アイツがいないと勝てない』と、思われるくらいの存在にならないと。東京オリンピックもあるし、目の前のことをひとつずつやっていくだけだと思っています」

 胸中で誓いを立ててから3ヵ月あまり。その間に船出した森保ジャパンで、昨年のFIFA・U−20ワールドカップをともに戦ったMF堂安律(FCフローニンゲン)とDF冨安健洋(シントトロイデンVV)がデビュー。堂安に至ってはウルグアイ戦で勝ち越しとなる代表初ゴールを決めた。

「同世代がプレーすることによって、やっぱり現実味を帯びてくる。そこは意識せざるを得ないですね。いまは自信をもってプレーできるようになっている。コンディションも上がってきているので、そうした積み重ねだと思っています」

 ルヴァンカップ決勝で急にはね上がったわけではなく、愚直な努力の継続が力になっていると実感している。そこへ、東京オリンピック世代の海外組から得た刺激が向上心をさらにかき立てる。杉岡に宿る潜在能力がさらに開放され、長友が長く頂点に君臨してきたA代表の左サイドバックの序列争いに大きなうねりを生じさせそうな状況が訪れつつある。

 左利きの左サイドバックでは、リオデジャネイロ・オリンピック世代の25歳、山中亮輔(横浜F・マリノス)も強烈な存在感を放っている。就任時から「世代交代」と「世代間の融合」を掲げた森保監督が、直近の11月シリーズでどのような決断をくだすか。注目のメンバーは11月8日に発表される予定だ。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人