世田谷学園のウェブサイトより

写真拡大

東京都世田谷区の私立中高一貫校「世田谷学園」で、担任教員から生徒へのパワハラ疑惑が持ち上がっている。学校側はいったん事実関係を認めたものの、関係者への処分は拒否。処分を求める被害者親子と対立している。4年間の不登校を強いられた親子の怒りに、学校側は向き合っているのだろうか――。

■中2から4年以上も不登校のまま卒業

「私は教員からのパワハラが原因で、中学2年の終わりから卒業までの4年あまりを不登校のままで過ごしました。学校側は何が起きたのか調査もせず、関係者の処分も考えていません。原因は学校側にあるのに、出席日数の不足を理由に、2度転校勧奨もされました。学校から改めて謝罪と処分がない限り、私の怒りはおさまりません」

東京都世田谷区の私立中高一貫校「世田谷学園」を2018年3月に卒業したAさんはこう話す。Aさんは中学2年の終わり頃から不登校になり、そのまま学校に復帰できずに卒業。個別学習指導塾や予備校に通いながら勉強を続け、早稲田大学に現役合格。今年から大学生として学校に通っている。

Aさんに何が起きたのか。発端は中学2年生の冬。Aさんが風邪をひいて学校を休んだことを、担任の教員が「さぼって学校を休んだ」と誤解したことだった。

■「お前は離婚家庭だから、心が弱い」

Aさんは当時、美術部と陸上部に所属。ただし陸上部は練習方針が変わったためやる気を失い、休みがちになっていた。ある日、陸上部の顧問からその状況を聞いた担任から、陸上大会への参加を強く促され、会場に足を運んだ。しかし、行ってみると、陸上部は退部扱いになっていて、大会には出られなかった。その日は気温が低く、Aさんは風邪をひき、翌日から学校を休んだ。

すると、休んでから数日後に、Aさんの携帯電話に担任から電話がかかってきた。担任はAさんが学校をさぼっていると誤解しているようだった。Aさんが「風邪で休んだだけです」と説明しても、怒気を含んだ口調で「学校へ来い」と繰り返す。さらにAさんが電話を切った後も、何度も電話をかけてくる。Aさんの携帯電話の番号を担任が知っているのも不可解だった。Aさんは怖くなり、担任と距離を置くため、美術部も辞めることを決意した。

※初出時、「担任は陸上部と美術部の顧問を兼務」としましたが、陸上部の顧問ではありませんでした。訂正します。(11月2日14時00分追記)

登校したAさんが職員室で担任に「美術部を辞めます」と告げると、担任は激怒。大声で怒鳴りはじめ、「お前は離婚家庭だから心が弱い」と罵られた。

この日以降も、担任の暴言が続き、Aさんは慢性的な腹痛を発症。「担任に会いたくない」という思いから、不登校になってしまった。

■「大人が謝ることの大きさをわかっているよね?」

中学3年生になって担任は変わったが、不登校は続いた。別居していた父親がAさんの深刻な状態を聞いて、学校側に元担任の謝罪を求めると、5月下旬に謝罪の場が設定された。

元担任が謝罪のために立ち上がったところ、同席していた学年主任が謝罪を制するかのようにしてこう述べた。

「Aくん、大人がこうやって謝ることの大きさをわかっているよね?」

Aさんの父親は「大人が謝るんだからこの件はもう終わりにするという意味に聞こえるが、子どもの心を傷つけた側が言うことではない」と問いただした。学年主任は「お父さんは頭がいいから」などといいながら、渋々、元担任による謝罪を認めたという。

■「このまま不登校なら、別の高校に進学してはどうか」

このやりとり以降、Aさんの症状はさらに悪化した。腹痛に加えて、不眠などの症状も出るようになり、8月には適応障害と診断され、投薬治療を受けるようになった。

登校できないため、学習の遅れを取り戻そうと、Aさんは10月から個別学習指導塾に通い始めた。ところが約1カ月後、今度は担任からこう言われた。

「このまま不登校が続くようなら、中高一貫ではあるが高校部に進学しても卒業はおぼつかない。別の高校に進学したらどうか」

不登校の原因を作ったのは、学校側なのに、どうして転校勧奨を受けなくてはいけないのか。Aさんが転校を拒むと、高校には進学できたが、学校側への不信は強まった。

■生徒は「非24時間睡眠覚醒症候群」を罹患

高校1年生になり、Aさんは登校しようと努力する。しかし、症状はおさまらず、登校できた日はわずかだった。新たに「非24時間睡眠覚醒症候群」と診断され、睡眠障害の治療も受けていた。

冬に学校側は父親を呼び出して、「このままだと出席日数が足りなくて留年してしまう。それが嫌なら転校するという選択肢もある」と通告した。通告してきたのは、前の年に元担任の謝罪を制そうとした学年主任だった。

■再度の転校勧奨も、東京都に相談すると急転

父親が「不登校の原因となった元担任は処分されていないのに、留年させられるのは納得できない」と抗議すると、同席していた副校長は「ベストは尽くした。留年は将来を考えた教育的措置」と言った。

これに対し父親が「ベストを尽くしたというなら、なぜ息子が不登校になったのか、詳しい経緯を当然知っているはずだ」と尋ねると、副校長はしどろもどろになった。学年主任が割って入り、「副校長は昇格したばかりで事情を詳しく引き継がれていない」と釈明した。

このやりとりからAさん親子は「学年主任を中心に学校ぐるみでパワハラを隠蔽し、退学させようとしている」と感じ、監督官庁である東京都に相談した。するとわずか2日後、学校側は態度を一変させ、これまでの対応を謝罪。進級も認めるという。

後日、校長から受け取った謝罪文には、不登校になった経緯についての情報共有が不十分だったこと、元担任、中3の時の担任、学年主任の3人に口頭での厳重注意を行ったことが書かれていた。

■文科省の通知に反して、転校を求めていた

世田谷学園は不登校のAさんに対し、留年や転校を迫った。その対応には問題がある。

文部科学省は児童生徒の不登校の増加が問題視されるようになったことを受けて、2003年、2009年、2016年と3度にわたって、不登校の児童や生徒への支援の在り方についての通知を出している。

特に2009年の通知では、高校生が不登校になった場合、学校以外の公的機関や民間施設で相談や指導を受けた場合には、出席日数と認めるなど、本人の進路形成のために支援するよう求めている。

世田谷学園の対応は、この通知に反する。Aさんの父親によると、学園の関係者は誰もその通知を知らなかったという。通知を把握せずに転校を求めていたのだ。さらに、不登校の原因は教員のパワハラだったのに、そのことを棚に上げて、転校や留年を迫っている。

公立の学校であれば、学校側のハラスメントは教育委員会が窓口になる。だが私立学校の場合、学校側に仕組みがなければ、被害を訴える窓口がない。再発を防げるかどうかも、その学校の体質次第だといえる。

■「処分をすると学校に動揺が走って、教員が萎縮する」

Aさんは学校側に対し、関係者の処分を求めている。

「このような体質の学校では、また必ず自分と同じような被害にあう生徒が出てくるでしょう。そうならないためにも、学校に考え方を変えてもらいたいんです」(Aさん)

だが校長は、Aさん親子の問いかけに対し「懲戒処分は必要ない」と話したという。その理由は「処分をすると学校に動揺が走って、教員が萎縮する」というものだった。

Aさん親子は今年10月、世田谷学園に対し関係者の処分と原因究明に向けた調査を求める通知書を送付した。学校側は通知書の回答期限である10月29日に、「書面中で名前の挙がった教諭らに対して、あらためて弁護士2名による事情聴取を行った上で対応を協議する」「本件について11月6日に打ち合わせを行うため、その翌日以降で代理人を通じて話し合いに応じる用意がある」と返信している。

■学校側は「事実認識に相違がある」との回答

また筆者が世田谷学園に、関係者を処分しない理由について聞いたところ、学校側は「事実認識に相違がある」との回答だった。

現在、Aさん親子は法的措置も含めた対応を検討している。これまで世田谷学園とは何度も話を重ねてきているが、進展が見られず、今回の返信にあった「話し合い」にも期待はできないという。

Aさんは大学に通っているが、いまも睡眠障害の治療を受け続けている。当時のことを思い出すと症状がぶり返すという。Aさんの怒りと悲しみを、学校はいまだに受け止めないままだ。

(ジャーナリスト 田中 圭太郎)