「寂しそうに見えたから、誘ってやったのに」これがリアル?31歳バツイチ女に下された、残酷な評価
ーこの人と離婚して新しい人と再婚すれば、簡単に幸せになれると思っていましたー
これは、高い恋愛偏差値を誇る男女がひしめき合う東京で、
再び運命の相手を求め彷徨うことになった男女のリアルな”再婚事情”を、忠実に描いた物語である。
時間軸にシビアな女たち、女性に幻想を抱き続ける男たち。
そんな彼らが傷つき、喜び、自らが選んだ運命に翻弄されてゆく…
さぁ、では。彼らの人生を、少しばかり覗いてみましょうか。
バツイチ・31歳女のリアルな市場価値
「へぇー、カナちゃんはバツイチなんだ?」
そう言って興味深そうにこちらを見つめる、質の良さそうなスーツを着こなした商社マン・高橋の視線が何だかくすぐったい。
ーバツイチという事実は、出会いの場でカミングアウトした方が良い
そんなネットの情報に倣って、カナはドキドキしながらも自己紹介でバツイチということを開示してみた。
その結果、男性陣の目からは、落胆や侮蔑というよりは”好奇心”という感情が見て取れた。みな特に”バツイチ”という事実に引いている様子はなく、カナはホッと胸を撫で下ろし、シャンパングラスを手に取る。
ーこうなったら、2人で本気で婚活よ!
そう言って張り切る学生時代からの友人・亜美に促され、カナはとうとう”市場”にカムバックしたのだ。
亜美主催の食事会には既に3回参加し、その結果、”バツイチ女性”でもかなりモテる手応えを感じている。
今のところ誰かしらにはLINEを交換しようと言われているし、食事の誘いも多い。
ネットでは、離婚女性の半数近くは再婚しているという記事も読んだ。
再婚活に向けて大事なのは、身も蓋もないことを言えばとにかく綺麗でいることが圧倒的に重要だという。
カナも結婚していた当時DINKSだったおかげでファッションにはお金を使えたし、31年間の人生ではそれなりに美人と評価されてきた。
そして、”バツイチ女性でも綺麗ならモテる説”を更に裏付けるように、先ほどから高橋はこちらに熱い視線を送ってくる。
しかし数日後、カナはその”モテる”の意味が決して良いものばかりではないことを、とくと思い知らされるのである。
綺麗なバツイチ女性には、バラ色のモテ期が訪れるはずだが…?
再婚活への焦りは禁物?
「カナちゃん!」
金曜日の夜。
週末に向けて開放感が一気に高まる今夜は、丸ビル最上階の36階にある『レストラン・モナリザ』で、食事会で出会った高橋と初デートだ。
まるで美術館のようなエントランス前でカナを待っていてくれた高橋は、35歳、丸の内勤務の商社マンである。
イケメンではないが長身かつ清潔感に溢れており、元夫・司にも劣らない、十分なハイスペック男性と言えるだろう。離婚後に出会った中ではダントツである。
「今夜のカナちゃんも、凄く綺麗だよね」
そんな風にカナを褒めながら店内にエスコートしてくれる高橋に、カナは有頂天になってしまう。
ー私もまだまだ捨てたもんじゃないのかしら…?
カナは着席してからも、ワインリストを吟味する高橋をそっと見つめる。
元夫との離婚は比較的スムーズだったとはいえ、諸々の手続きや引越しによって、精神的に疲弊する毎日が続いていた。
カナの勤める大手メーカーは女性活躍推進企業として知られているものの、もしかしたらこの先ずっと1人で過ごすのかもしれないという漠然とした不安はふとした時にカナの心を支配してしまう。
だが…。
カナは再び高橋を眺める。こちらの視線に気づき微笑む彼の笑顔に、カナは運命を感じた。
ーもしかして、この人が私の再婚相手になるかも…?
ハイスペックな男性から熱心な誘いを受けていることで、カナはすっかりその気になってしまっていた。再婚相手になるかもしれないと先走り、いろいろな質問をぶつけても、高橋は嫌がらず全て答えてくれるのだ。
しかし、カナが厳しい現実と向き合うのは、それからたった2時間後のことであった。
カナに突きつけられた厳しい現実とは?
「だって君、すごい寂しそうに見えたからさ」
事件は、ディナーを終えほろ酔い気分で店の外に出た時に起こった。
少し酔った様子の高橋は、かなり強引にカナの腰に手を回してきたのだ。
「さっ、カナちゃん。2軒目なんだけどさ」
高橋との会話は盛り上がったものの、今にも腰を撫で回す勢いのボディタッチは自分には急展開すぎて、少し違和感を感じてしまう。
31歳にもなって大人気ないのだろうかと自問自答してみても、体が拒否反応を示してしまうのだ。
「あそこのホテルのバーも凄く夜景が綺麗なんだよ…」
あからさまな誘いに、先ほどまでの弾んだ気持ちは一気に萎む。
ー私は別に、今この人に触れられても嬉しくない…!
そう自覚したカナはやんわりと腰に回された手をそっと握り返し、出来るだけにっこりと笑った。
「高橋さん、本当にご馳走様でした!でも、明日すごく早いので、今日はここで失礼しますね」
相手の男性のプライドを刺激しないように気を使ったつもりだったが、次の瞬間高橋は明らさまに怪訝な表情になる。
「うわ、カナちゃんって、何?そーゆー感じ?」
そう言うと、高橋は乱暴にカナの手を解く。
「本当しらけるわ…」
高橋はボソッとつぶやいた。こんな小さな声が聞こえてしまう自分の聴力の良さがせつない。頭ではさっさとエレベーターに乗り込もうとしているのだが、悔しすぎてカナは我慢が出来なかった。
「何それ。そもそも"そーゆー感じ"ってどんな感じなんですか?」
カナに言い返されたことが相当意外だったのか、次の瞬間、高橋はまるで小学生男子のようなテンションで吐き捨てた。
「いや、君がバツイチアピールで寂しそうだから声かけてやったのにさ、明日早いとか、何お高くとまってるんだってことだよ!物欲しそうだったから誘ってやったのに!」
ー物欲しそうって…なに?私、そんな風に見えてたの…?!
カナはショックを隠しきれず、涙がこぼれ落ちそうになるのを堪え今度こそエレベーターに乗り込んだ。
◆
ー翌日ー
「それはほんと悲惨だったね…お疲れ様…」
昨晩のデートの顛末をLINEで伝えたところ、亜美は整体の予約をキャンセルし、カナの近所まで駆けつけてくれた。
「カナ、婚活なんてね。バツイチでもそうじゃなくても、嫌なことがしょっちゅうあるものなのよ。
私だっていい感じにデートしてたのに急に音信不通になったり、初回のデートで家に引っ張り込まれそうになることもあったし。女としてのプライドがズタズタになることばっかり。
でも、離婚したばかりの今のカナには、ちょっと早すぎる洗礼だったかもね…」
昨晩の件には傷ついたが、こうして一生懸命自分をフォローしてくれる友人がいることに、カナの心の傷は次第に癒えてゆく。
そんなカナの様子を見て、亜美がふと閃いたように呟く。
「ねぇ…カナ。会社は?!」
ー会社?どういうことだろうか。
「カナ、就職したときには既に司くんと付き合ってて、そのまま結婚したでしょ。今までそういう目で会社の人を見てなかったかもしれないけど、改めて探したら割といるんじゃないの?!」
亜美にそう言われ、カナはふと心当たりのある会社の後輩男子の顔を思い浮かべたのであった。
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再婚活で散々な目にあったカナ。会社の後輩男子とは、果たして上手くいくのか?