オリンパスの事業所(「Wikipedia」より)

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 9月20日午前10時、オリンパスの社内弁護士である榊原拓紀氏がオリンパスとその常務らを相手取って起こしたパワハラ裁判の公判が東京地裁で開かれた。これまでのところ、裁判の進捗状況ははかばかしいとはいえない。榊原弁護士が訴えを起こしたのは1月だったが、裁判は9月に入っても証拠や論点の整理にとどまり、本格的な審理が始まっていない。これまでの公判はいずれも10〜15分ほどで閉廷となっており、原告と被告の間で丁々発止のやり取りが行われたことがないのだ。

 この日の公判で裁判所は、オリンパスの中国・深セン子会社「OSZ」で不正が行われたかどうかについて、判断を避ける方針であることを強く示唆した。榊原弁護士側 は首をひねりながら「それでは本質が明らかにならない」と主張したが、裁判官は「別のところに持って行って」とかわした。

 しかも7月に開かれた前回の公判では、オリンパス側が証拠資料の開示制限を申し立てており、証拠が傍聴席に陣取るマスコミの前で曝されることを嫌ったのだろう。榊原弁護士側にとって分が悪いのは明らかだった。

●「取締役会番外編」

 ところが8月に入って、裁判の証拠になっておらず開示制限に引っかからない内部資料が、また筆者らのもとに寄せられた。オリンパスが5月に発表した深セン子会社の操業停止を議決したのに先立って作成された、「取締役会議番外編」と題された資料である。資料には「4回目」と書かれているから、番外編は半ば常態化しているのだろう。取締役会に番外編が存在することにも驚かされるが、その内容はさらに衝撃的だ。

 まず着目すべきは、資料の作成時期である。資料の表題脇に記された日付は昨年12月22日。今年5月にオリンパスは深セン工場の「操業停止」を発表したが、実際にはその4カ月半も前に「工場売却を伴う完全撤退」が秘密裏に進められていたことを、この資料が証拠立てている。

 なぜ、そこまで秘密裏に進める必要があったのか。工場閉鎖などにより路頭に迷う従業員が多く発生すれば、労働争議が大きくなりがちなのが中国だ。最初から完全撤退を掲げるとストライキやロックアウトが行われて手が付けられなくなることも予想され、これを防ぐために中国人従業員には操業停止の当日まで一切が伏せられていた。資料には、そのための手順や曜日の選定まで事細かに書かれている。たとえば、週末に操業停止を発表して中国人従業員がストライキを起こした場合、土日は現地の公安警察の協力を得られないため月曜日に発表したほうがいい、といった内容なども記されている。

 しかも番外編資料には撤退に伴う諸費用の見積もりも記されており、その総額は110億円あまり。さらに設備運搬などの費用が別途必要になる。これに対して5月の発表では約40億円と記されており、大きな隔たりがある。撤退が目立たないように費用計上を意図的に小さく発表したのであれば、投資家と中国人従業員に対する重大な背信行為だろう。

 そうした意図があったことを明確に裏付けるのは、深セン子会社とその移管先であるベトナム子会社の事業計画を2通り作成していることが記されている点だ。深セン撤退には、中国人従業員に示す「表(計画)」と秘密裏に推し進める「裏(計画)」の2通りがあり、番外編資料には「『表』計画はOSZを縮小し継続するダミー計画」と記している。「(表と裏を)同時に策定中」「(裏計画が)開示者以外に絶対に流出しないような慎重なコントロールを展開中」との、かなりきわどい記述もあり、呆れるばかりだ。しかも過去に社外流出した各種資料と突きあわせると、ここでの議決内容が取締役会議事録に残されていない疑いも出てくるのだ。

 売却先の選定についても記述があり、民間企業の「新国都社」と、野村総研から提案があった国営企業の「深セン投資控股有限公司」のどちらかに売却を予定(昨年12月現在)している。やはり「操業停止」ではなく、「完全撤退」なのだ。

●証券取引等監視委が強い不信感

 実はこの話には続きがある。この「番外編」の資料は8月のうちに証券取引等監視委員会に持ち込まれているのだ。詳細についての記述は避けるが、オリンパスの開示姿勢に対して監視委が以前から強い不信感を抱いているのは確かだ。

 5月からオリンパスの大株主には「物言う株主」として恐れられるバリューアクト・キャピタルが名を連ねるようになった。大株主が取締役会議事録や番外編の開示を求めたら、オリンパスはどうするつもりなのだろうか。

 止まらない内部告発と、国内外で厳しくなる一方の監督当局の目、大株主のアクティビストの参戦――。オリンパスをめぐる疑惑について、注目しなければならないのは裁判の成り行きだけではないのだ。米国の司法当局もオリンパスに対して、深センに関連する文書の保全を命じており、これが何を意味するかは容易に想像がつく。今後はなんらかの動きがあり次第、随時報じていきたい。
(文=山口義正/ジャーナリスト)

●山口義正
ジャーナリスト。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞記者などを経てフリージャーナリスト。オリンパスの損失隠しをスクープし、12年に雑誌ジャーナリズム大賞受賞。著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)