Elnur / PIXTA(ピクスタ)

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 前回記事(「厚労省の高プロ制紹介に見る欺瞞。政府は、野党の次は国民を騙しにきた」)に続き、厚生労働省のリーフレット「働き方改革〜 一億総活躍社会の実現に向けて 〜」(参照:厚労省)における高度プロフェッショナル制度(高プロ)の解説文の問題点をさらに検討したい。

 厚労省のこのリーフレットの高プロ解説の気持ち悪さは何かに似ている。そう考えていて気付いた。悪徳商法だ。良いイメージを振りまく一方で、相手が知るべき情報を伝えない。さらに、相手の懸念に応えるフリをして、不誠実な回答をして、「ご懸念にはあたらない」と印象操作する。そんな気持ち悪さに満ちているのだ。

◆「手厚い仕組み」?

 前回記事に、ツイッター上でこういう反応があった。

”〈制度の創設に当たっては、長時間労働を強いられないよう、以下のような手厚い仕組みを徹底します〉って…。規制を外しておいてよく言うわ。1万円渡したら千円返ってきて、これでいい昼飯でも食えと言われている気分だわ…。”

 秀逸なたとえだ。

 「手厚い仕組み」というが、「年104日以上、かつ、4週4日以上の休日確保を義務付け」というのは、「手厚い仕組み」でもなんでもない。

 年104日の休日とは、週休2日に相当する休日でしかない。しかも、毎週2日の休日を与える必要もない。4週4日以上であればよいので、28日(4週)のうち24日間は、連続勤務させても違法ではない。

 しかも、1日の労働時間は8時間以内といった労働基準法の労働時間規制がすべて適用除外となっているので(使用者はその規定に縛られずに労働者を働かせることができるので)、その24日間については、後述の通り、24時間勤務を連日にわたって求めることもできてしまうのだ。

 その他の健康確保措置も、4つの措置は「いずれか」の選択でよく、4つ目の「臨時の健康診断の実施」を選べば使用者の負担は低い。在社時間等が一定時間を超えた労働者に対しては、医師による面接指導の実施が義務付けられているが、医師の指導に強制力があるわけでもない。

 にもかかわらず、そのような不都合な事実に目を向けさせないために、年104日以上の休日確保などの措置を「手厚い仕組み」と持ち上げて見せる。詐欺的な手法だ。

◆高プロに「すごく厳しい規制」と詭弁を弄する竹中平蔵

 年104日以上の休日確保などの健康確保措置は、この厚労省リーフレットでは「手厚い仕組み」「新たな規制の枠組み」と位置付けられていた。このような見方は、高プロ推進派の竹中平蔵氏(パソナ会長)の見方と共通する。

 筆者は5月30日にNHKクローズアップ現代+「議論白熱! 働き方改革法案〜最大の焦点“高プロ制度”の行方〜」に下記の4者のゲスト(肩書はNHKによる)の一人として参加した。

● 竹中平蔵(東洋大学教授)
● 上西充子(法政大学教授)
● 吉田浩一郎(クラウドワークス社長 新経済連盟 理事)
● 棗一郎(日本労働弁護団 幹事長)

 この番組の中で竹中氏は、棗一郎弁護士や筆者らの批判に対し、年104日の休日確保を「すごく厳しい規制」と強調してみせたのだ(参照:NHKによる番組の文字起こし)

“竹中さん:今までの議論の中で、ものすごく大事なことが全く抜けてるんですね。「全ての規制を外す」という議論が横行していますけれども、そうではなくて、すごく厳しい規制が課されるんです。これは「最低これだけ休みを取りなさい」と、休みを規制するんです。休みを強制するんです。だから、休みを強制して、その休み以外の時間については自由にしなさいということですから、全く何も規制のないところに放り出されるとか、それはやっぱり非常に誤解を招くと思います。これは使用者にとっても、例えば年間104日、休日を取れと、これはほとんど完全週休2日制ですよ。それで4週間で、必ず4日取れというのも、ものすごく厳しい、要するに休日を取れという規制もしているわけで、そこのやはりバランスを見ないと、議論は誤ると思います。”(上記文字起こしより)

 しかし、年104日の休日確保は「すごく厳しい規制」ではない。また、批判者は「全ての規制を外す」と指摘しているわけではなく、年104日の休日確保という規定が新たに設けられることは知った上で批判しているのだ。にもかかわらず、「『全ての規制を外す』という議論が横行している」「まったく何も規制のないところに放り出される」と、批判者の批判を曲げて紹介し、新たに「すごく厳しい規制が課される」と印象づけようとしている。

 この竹中氏の番組での姿勢と、9月に公開された厚労省のこのリーフレットの姿勢は、同じだ。

◆24時間連続勤務は高プロには「なじまない」?

 年104日以上かつ4週4日以上の休日確保というだけなら、24日間の連続勤務も違法ではない。そして高プロでは1日の労働時間は8時間以内という労働時間規制も、休憩の規制も、割増賃金の規制もなくなる(適用除外となる)ので、連日にわたり24時間の連続勤務をさせることも法的には可能となってしまう。

 この点は3月2日の参議院予算委員会で既に、小池晃議員が確認している。

【小池晃議員(日本共産党)】
”理論的に言えば、理論的に言えば、4週間で最初の4日間さえ休ませれば、あとの24日間は、しかも休日も時間制限もないわけだから、24時間ずうっと働かせる、これが、いや、論理的には、この法律の枠組みではできるようになるじゃないですか。私が言ったことが法律上排除されていますか。”

 この質問に対し、加藤厚生労働大臣(当時)は、明確に答えようとしない。そこで小池議員は重ねて問うが、それにも加藤大臣は話をずらしてかわそうとする。(参照:国会PV 23:12〜)

【小池晃議員(日本共産党)】
“私の質問に答えていないんですよ。(月に)4日間休ませれば、あとはずっと働かせることが、(年間)104日間を除けば、ずうっと働かせることができる。計算すればこれ、6,000時間になりますよ。6,000時間を超えますよ。「これを排除する仕組みが法律上、ありますか」と聞いている。”

 これに対する加藤大臣(当時)の答弁はこうだ。

【加藤勝信厚生労働大臣】
“ですから、今、申し上げましたように、「働かせる」ということ自体がですね、いや、「働かせる」ということ自体が、この制度にはなじまないということでありますから、ですから、それを踏まえて、先ほど申し上げて、法の趣旨を踏まえた指針を作って行く、そして、指針に基づく決議を決めていただく、そして、決議は指針に遵守しなければならない、こういった議論がなされているわけでありますから、今、委員がおっしゃったようなことにはならないだろうというふうに思います。”

 どこか「ですから」だ、と思うが、加藤大臣(当時)の答えは「なじまない」だ。「なじまない」とは、つまり違法ではない、ということだ。「今、委員がおっしゃたようなことにはならないだろう」というのも、加藤大臣の願望に過ぎない。

 野党の質疑に誠実に答えない、論点ずらしの「ご飯論法」ではぐらかす。この加藤大臣(当時)の答弁姿勢もまた、厚労省のリーフレットに引き継がれたのだと言える。

◆「ご飯論法」満載のQ&A

 厚労省リーフレットのQ&Aに目を転じてみよう。高プロへの懸念に応えるかのようでいて、このQ&Aの内容は全く誠実ではない。悪徳商法の勧誘で「ローンを組んでも大丈夫でしょうか?」というような問いをわざと立ててみせて、ごまかしの説明で安心させるのと同じ手法だ。

 まず1つ目のQ&Aを見てみよう。

【Q】高度プロフェッショナル制度で、みんなが残業代ゼロになる?
【A】高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです。制度に入る際に、対象となる方の賃金が下がらないよう、法に基づく指針に明記し、労使の委員会でしっかりチェックします。

 とある。

 高プロは2015年法案では「残業代ゼロ法案」と言われた。1日8時間を超えて働いても残業代(に相当する賃金)が支払われないからだ。

 正確に言えば1日8時間という法定労働時間の枠組みも高プロではなくなるので、残業という概念も残業代という概念もなくなる。そこで今国会では日本労働弁護団は「定額働かせ放題」として高プロを批判した。スマホの「定額使い放題」と同じ、というわけだ。

 いずれにせよ、高プロではいくら長時間働いても、それによって賃金が増えることはない。労働時間と賃金の関係を切り離す仕組みだからだ。使用者にとっては、「定額働かせ放題」が可能となるので、労働者は過重労働を強いられる危険性が高まる。そのことは国会で野党議員によって繰り返し指摘され、労働団体や、全国過労死を考える家族の会の方々も強く主張してきた。

 しかし1つ目のQ&Aは、問いの立て方がおかしい。「みんなが残業代ゼロになる?」などいうのが反対派の懸念ではない。高プロの対象者が残業代ゼロになる、と主張しているのだ。

 なのに「みんなが残業代ゼロになる?」と誤った問いを立てて、「高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです」と、懸念を払しょくした風を装おう。あまりに不誠実だ。もしこの問いに誠実に答えるなら、

「みんなが残業代ゼロになるわけではありませんが、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職の方については、高度プロフェッショナル制度の対象者となった場合は、残業代は支払われなくなります」

 だ。しかし、そうは答えたくないのだろう。

「制度に入る際に、対象となる方の賃金が下がらないよう、法に基づく指針に明記し、労使の委員会でしっかりチェックします」というのも、不誠実な説明だ。賃金が下がることになってはならないとは、法の条文には書かれていない。「労使の委員会でしっかりチェックします」とあるが、「労使でしっかりチェックしてくださいね」という意味にすぎない。

 また、労使の委員会で賃金が下がらないようにしても、仕事量が増えて労働時間が増えれば、時間あたりの賃金は下がってしまう。そういう不都合なことも厚労省リーフレットは説明しようとしない。

「ご飯論法」とは「朝ごはんは食べなかったんですか?」「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」のような論点ずらしの不誠実な答弁を指す。なぜ論点ずらしをするかというと、誠実に答えたくないからだ。誠実に答えると、問題が露呈してしまうからだ。

「高プロだと残業代ゼロになるのではないか?」というもっともな懸念に、誠実に答えるフリをして、不誠実な回答であたかも「ご懸念にはあたらない」かのように装う。このQ&Aは、まったく不誠実であり、厚労省が労働者を騙そうとしていると言わざるを得ない。

◆行政の判断で対象業務は広げられる

 2つ目のQ&Aはこれだ。

【Q】高度プロフェッショナル制度は、後から省令改正など、行政の判断で対象が広がる?
【A】対象業務や年収の枠組みを法律に明確に規定し、限定しています。行政の判断でこれらが広がることはありません。

 やはり、懸念に応えるフリをしながら不誠実な回答を行っている。

 高プロは派遣法のように対象業務が拡大していくことが懸念されており、年収要件も下げられていくことが懸念されている。経団連は2005年の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」では、年収400万円以上を対象とすべき、としていた。

 従って、高プロは後から対象が広がるのでは、という懸念はもっともだ。しかしこのQ&Aでは、そこに「省令改正など、行政の判断で」と限定をつける。そして、「対象業務や年収の枠組みを法律に明確に規定し、限定しています。行政の判断でこれらが広がることはありません」と懸念を払しょくしようとする。

 しかし実際のところを確認しておこう。

 まず、対象業務は「省令改正など、行政の判断で」広げることができる。法律には具体的な対象業務が明記されていないからだ。法律の規定は下記でしかない(参照:労働基準法 新旧対照表)。

“(労働基準法 第41条の2 第1項)
高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)”

 この通り、具体的な対象業務は省令によって定められるのだ。省令は国会審議を経ずに改正することができる。では上のQ&Aの回答は嘘なのか?

 よく見ると、「対象業務や年収の枠組みを法律に明確に規定し、限定しています。行政の判断でこれらが広がることはありません」とある。「これら」とは「枠組み」を指すのだろう。つまり、法律に明確に規定した「枠組み」自体は、行政の判断で広がることはない、というのがこの回答なのだ。

 確かに「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」という法の規定は国会審議を経ないと変えることはできない。しかし、誰もそんなことは聞いていない。にもかかわらず、このように答えることによって、あたかも具体的な対象業務が行政の判断で広がることはないように装う。巧妙な論点ずらしの手法は、悪徳商法とそっくりだ。

 なお、リーフレットには対象業務について、次のように記載されている。
“(1)対象は高度専門職のみ
・高度の専門的知識等を必要とし、従事した時間と成果との関連が高くない業務

具体例:金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務など”

 しかし、高プロに関する省令・指針の内容を検討する労政審労働条件分科会には、対象業務の素案さえまだ提案されていない。10月15日の第147回分科会では、下記のように具体的な対象業務の検討は、次回以降に先送りされている(参考:当日配布資料のNo.2)
 まだ素案さえ出ていない対象業務が、既にリーフレットに書き込まれている。このことも手続き論として全くおかしな話だ。

◆年収要件を大きく変えるには法改正が必要だが……

 年収要件も見ておこう。これについても、行政の判断で広がることがないとしているのは年収の「枠組み」であって、年収の基準額ではない。

 年収については法には次の規定がある(参照:労働基準法 新旧対照表)。

“(労働基準法 第41条の2 第3項ロ)
労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。)”

 具体的な年収額も、やはり省令で定められるのであり、国会審議は必要ない。ただし、基準年間平均給与額の「三倍の額を相当程度上回る水準」と法に規定されているので、いきなり年収400万以上などと勝手に変えることはできない。

 とはいえ、「相当程度上回る水準」とは3.3倍ぐらいなのか、3.5倍ぐらいなのか、3.8倍ぐらいなのか、そういったことは法には規定されていないので、その範囲では国会審議を経ない省令によって変更が可能だ。加藤大臣(当時)は「相当程度上回る水準」とはどの程度かを問われて、

「普通、相当程度という使われ方は、要するに三倍ぎりでもないし、また四倍を超えるわけでもない、その間の水準というのが大体相当程度という水準だと思います」と答弁していた(6月12日の参議院厚生労働委員会。石橋通宏議員の質疑に対する答弁)。

 あまりにも人をバカにした答弁だが、つまりは国会審議に縛られない自由裁量を行政として確保しておきたかった、ということだろう。

 なお、この基準年間平均給与額も、パート労働者を含めて算定するのか、除いて算定するのかなど、より詳細な決め方は省令にゆだねられている。

◆「落とし穴」を小枝で隠し……

 以上、悪徳商法まがいの欺瞞に満ちた厚労省リーフレットの内容を検討してきた。

 本来、「対象は希望する方のみ」と強調するのであれば、高プロがどういう制度であるかの誠実な説明が前提になければならない。しかしその説明がこれだけの欺瞞に満ちているのだ(なお、「自由な働き方」という表現については、次回の記事でさらに検討したい)。

 とするとこれは、厚労省がリーフレットによって、労働者を高プロという危険な働き方へと「誤誘導」しているものと言わざるを得ない。行政がそんな悪徳商法まがいのことをするなど、到底、看過できない。

 最後に、1月29日の衆議院予算委員会における長妻昭議員と安倍首相のやりとりを映像で見ていただきたい。労働法制を岩盤規制とみなしてドリルで穴をあけようとする、そのような労働法制観は改めていただきたいと求める長妻議員に対し、安倍首相は、

「その岩盤規制に穴をあけるにはですね、やはり内閣総理大臣が先頭に立たなければ、穴はあかないわけでありますから、その考え方を変えるつもりはありません」

と答えたのだ。(参照:国会PV 6:18〜)

 労働時間規制に穴をあけた高プロという働き方。その働き方に対して、厚労省が行うべき周知啓発は、穴の前で気をつけて立ち止まるよう、工事現場にある赤いコーンを立てることであるはずだ。

 しかし実際に周知啓発のリーフレットで厚労省が行っていることは、穴を小枝で隠して草をかぶせ、「自由な働き方の選択肢」ですよと、労働者を穴に向かって誘導することであったのだ。

 こんな欺瞞がまかり通ってよいのか?

<文/上西充子 Twitter ID:@mu0283>
うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。