フィンテックなど新しい金融サービスが登場しているなか、ITと金融を活用した今後のビジネスについて冨田和成代表取締役に聞きました(写真:Signifiant Style)

ここ数年で瞬く間にフィンテック(Fintech)という言葉が浸透し、斬新な金融サービスが続々と登場しています。その一方で金融商品自体は古くから存在するものであると同時に、銀行や証券、保険など、垣根ごとに分断され、完全なワンストップの取引は行えないうえ、複雑でわかりにくいというイメージが強かったのが実情です。


当記事はシニフィアンスタイル(Signifiant Style)の提供記事です

株式会社ZUUは自社メディアを通じて金融に関するコンテンツを提供するだけにとどまらず、金融機関の業務の効率化や潜在顧客開拓にも貢献する事業を展開しているとのこと。同社代表取締役の冨田和成さんに、そのビジネスの中身について話をうかがいました。

2013年4月創業のZUUは、金融に特化したコンテンツをそろえるZUU onlineなどの自社メディアを運営する一方、金融機関を中心にオウンドメディアの製作・運営をサポートし、さらに金融業界におけるリクルーティングにも手を広げている。2018年6月東京証券取引所マザーズ市場に上場。証券コードは4387。

フィンテックの大波が到来する前にいちはやく創業

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):最初に、創業に至った経緯からお話をうかがえますでしょうか?

冨田和成(株式会社ZUU代表取締役。以下、冨田):設立は2013年4月で、それまで私は野村証券に丸7年間にわたって在籍していました。私の大学時代はちょうどベンチャーブームの真っ只中で、ミクシィやグリーなどが台頭してきた頃でした。その影響もあって、私も“プチ起業”のようなことに取り組んでいましたね。当時、ヤフーのメーリングリストサービス(2014年5月に終了)が急激に伸びていたことに着目したビジネスです。

自分でもリストを作成してオリジナルのコンテンツを流し、企業から広告収入を得ていました。その一方で、私が進学した一橋大学では、東京工業大学の授業も履修できるようになっていました。そして、単位を取りやすいと言われていた同大学のプログラミングの授業を選んだところ、これが実に面白くて、JAVA言語などにも比較的早い段階から接することができました。お陰でITが当たり前のような環境下で大学時代を過ごせましたね。

村上:野村証券に入ってからも、IT系の業務に就いていたのですか?

冨田:いいえ。入社した途端に、ITとはまさに対極に位置するような飛び込み営業からスタートしました。最初の3年間は支店に配属されて、そこでリーマンショックも経験しました。

当初は、飛び込み営業なんて極めて非効率で、手数料も高くてあまり意味がないのではないかと内心は懐疑的でした。ところが、経験を重ねていくうちに、「非効率の中における効率」のようなものが存在していて、それを仕組化できると面白そうだと考えるようになったのです。何軒も訪ね歩いてどんどん断られていくわけですが、その中でも開拓できたお客様はネット証券ではけっして獲得できないタイプで、非常に太い結びつきのお付き合いになります。

そういったお客様を何人か得ることができれば、その手数料収入だけで一人の営業担当者の人件費を賄えてしまうという商売が成り立っているのです。

村上:それが「非効率の中の効率」ということなのですね。

ITと金融をうまく活用し夢を実現させたい

冨田:そうです。どうして金融業界ではそういったことが成り立つのかという疑問を自分の中でモヤモヤと抱き続けてきたのですが、日本においてもインターネットでの販売に特化した保険会社が登場するなど、大きな変化も見られました。私はそういったサービスが絶対に伸びると思ったのですが、意外と苦戦しているのを見て驚きました。なかなか日本では金融とITが上手くからみ合っていかなかったのです。

村上:本来、ITを活用すればあらゆる業界が効率化されてくはずなのに、国内の金融業界では必ずしもそのようにならない側面があったということですね。


冨田 和成(とみた かずまさ)/神奈川県川崎市出身。一橋大学経済学部在学中にソーシャル・マーケティング関連で起業。2006年の大学卒業後は野村証券に入社し、支店勤務を経て本社の富裕層向けプライベートバンキング業務や、ASEAN地域の経営戦略などに従事。2013年に同社を退職してZUUを設立し、代表取締役に就く。

冨田:ええ。そういった現実を知る一方で私は、3年間の支店勤務を終えた後に本社の超富裕層向け部隊へ配属され、シンガポールでプライベートバンカーとして東南アジア経済の活気を目の当たりにしました。その後、1カ月間だけ東京に戻ってから、すぐにタイに派遣されて、今度は東南アジアにおけるネット証券戦略と他地域への進出戦略に関わりました。その業務に1年間携わった後、東京に戻ってから起業したというのが当社設立に至るまでの経緯です。

こうして国内のリテール(個人向け)営業から海外の超富裕層向け、さらには金融業におけるネット戦略まで、一通りのビジネスを経験させてもらったことで、私の中ではいくつかの気づきがありました。「人の人生や思い、夢といったものにはお金がとても密接に関わっている」と痛感したことがその一例です。夢を実現させたいと思った際に、お金というハードルが立ちはだかり、なかなか前に足を踏み出せない人は少なくありません。そのような問題を解決していきたいというのが当社を設立した動機の一つとなっています。

村上:ということは、他にも動機があるのでしょうか?

冨田:ええ。大きなパラダイムシフトが起こっていると直感したこともキッカケとなっていますね。私が当社を立ち上げた頃にはまだフィンテックという言葉は生まれていませんでしたが、海外の金融業界における最先端の事例を調べてみたところ、すでに何らかのムーブメントが発生していることがうかがえました。

銀行口座やクレジットカードなどの情報をオンライン上で一元管理して個人が効率的に資産設計を行えるPFM(パーソナルファイナンシャルマネジメント)サイトの草分けであるMint.comを筆頭に、新進のサービスが続々と登場していたのです。また、グーグルが金融比較サイトを買収するなど、ダイナミックな変化が起こる兆しを感じました。

金融機関はオペレーションのみに集約されるべき!?

村上:では、そういった背景の下で創業したZUUは、現時点ではどのようなビジネスを展開している会社で、将来的には“何屋さん”をめざしているのでしょうか?

冨田:まず、金融とITを活用することで、個々人が自分の人生や夢と正面から向き合い、加速をつけて前進していくことをサポートする会社でありたいというのが私たちの抱いている思いです。知識やスキル、人脈、健康、そしてお金を稼ぐ力や信用など、個人は「人的資本」を有しています。それを上手くコントロールしていくことで、資産を蓄えたり、有効活用したりできるわけです。

だから、個人も企業と同じように、自分自身のP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)をきちんと管理できれば、その結果として今まで以上に夢の実現を果たせるはずです。当社はそのお手伝いをしたいと考えています。

村上:それを果たすために、どのようなビジネスモデルでどういったサービスを提供しているのでしょうか?

冨田:今なお金融のプラットフォームというものは、本質的な意味でインターネット上に存在していないと私は思っています。金融商品を売買できるプラットフォームにしても、証券や銀行などといった分野別に存在しているのでは不完全です。

たとえば手元に500万円のお金があった場合、それを銀行の定期預金に預けるのはもちろん、それで投資信託を買ったり、保険に加入したり、あるいはそれを担保に不動産を買ったりするのも、すべて資産活用です。さらに今の時代なら、それを元手に自動車を購入してカーシェアリングで貸し出すような運用まで選択肢に入ってきます。こうしたお金の使い道に対して、本来ならプラットフォームは中立的なスタンスであるべき。

ところが、銀行、証券、保険、不動産といった垣根が設けられているのが現実です。私が野村證券で超富裕層に提供していたコンサルティングサービスでは、必要に応じてそれらのすべてを提案していました。一般的な個人のお客様にも、そういった全般的なコンサルティングを提供することが本質だと私は考えています。

村上:そうしますと、ZUUは本質的な意味で完成された金融のプラットフォームを構築しようとしているわけですか?

冨田:将来的には、そういった姿をめざそうというのが当社のビジョンです。上場する際に開示した「成長可能性に関する説明資料」にも掲げていますが、当社は創業以来、ディストリビューションとオペレーションを分離させることで、金融機関がより効率的に潜在的なユーザーを開拓できる環境を整えることをめざしてきました。

情報収集や商品・サービスの比較、購買判断といったディストリビューションの分野は、ZUU onlineなどの自社メディアや当社が製作を支援する顧客企業のメディアプラットフォームが担います。こうして潜在的なユーザーを効率的に開拓・送客することで、金融機関はオペレーションに専念できるわけです。

金融の本質的な機能とはオペレーションで、たとえば銀行なら決済や送金、為替、預金といった窓口業務に端を発するものです。しかし、ディストリビューションの分野もつながっているために全国各地に店舗が展開され、そこに数多くの営業担当者がぶら下がるという構図となっています。


(ZUU「成長可能性に関する説明資料」より)

村上:そして、もっぱら金融機関ではディストリビューションの分野に、冒頭で指摘されていた非効率性が散見されるということですね。

ネオバンクという業態が盛り上がりをみせている

冨田:真のディストリビューションとは、顧客の利便性を高めるためのプラスアルファの機能でしかないと私は考えています。「お客様がもっと儲けられるから、そのために営業活動を行う」とかいったスタンスのものです。銀行の本質的な機能は、圧倒的な信用力の下にあるオペレーションにあるのです。

すでに海外では、ディストリビューションとオペレーションを切り離すという事例が出始めており、ネオバンクという業態が盛り上がっています。ネオバンクは銀行代理店免許を用いて展開しているサービスで、要はブローカレッジ(金融商品の売買仲介)を担っている人たちです。このように、海外ではオペレーション機能を持たずディストリビューションに特化したサービスが出始めています。既存の金融機関の9割以上の社員はディストリビューションの分野に属していると表現しても過言ではないかもしれません。

一方で、金融機関、特に銀行が築いてきたオペレーションに対する信用は、圧倒的な価値を有しています。おそらく世の中のほとんどの人は、銀行には安心して資産の大半を預けられるでしょう。

しかし、最新のフィンテックを駆使したり、ロボットアドバイザーが投資対象やその配分を助言してくれたりする画期的なサービスであっても、新進の会社に対してはそこまで全幅の信頼を寄せられないものです。だから、金融機関にとってオペレーションにおける信用力は最後の砦であって、ディストリビューションの分野はどんどん切り離されていくべきものだと私は考えています。

近々、日本初の金融特化型DMPの展開を発表へ?

村上:「金融に特化したメディア」というイメージが御社に対する一般的な受け止め方だと思いますが、御社が手がけようとしていることは、より広い領域であるということでしょうか?

冨田:私たちは自社メディアを展開する一方で、B to Bで顧客企業のメディアプラットフォームの製作を支援しています。「成長可能性に関する説明資料」の中ではフィンテック化支援サービスと表現していますが、大手金融機関は自前の情報発信チャネル(オウンドメディア)を持つようになっており、その多くの製作・運営を当社がサポートしています。また、不動産投資関連やフィンテックを手がける非金融業界のメディアに関しても、当社が幅広く関わってきました。

その一方で、当社は自社メディアを通じて数多くのユーザーを獲得しています。それぞれのメディアのユーザーが相互に流入することで、アクセスの増加やデータの連携といった相乗効果が得られ、クライアント企業の潜在的な顧客開拓につながることが期待されます。

村上:そのうえでも自社メディアの充実が求められますが、配信するコンテンツはどのような手法によって製作しているのでしょうか?

冨田:自社メディアのコンテンツについては有料サービスなどを除き、7〜8割程度は無料で金融機関のプロや著者などが作成されたコンテンツが集まってくるという仕組みができあがっています。先日も発表した通り、当社における全プラットフォームの利用者は500万人を突破しており、自分のコンテンツを豊富に有しているのにそれらを発信する手段がないという金融の専門家などからどんどん寄せられてくるからです。

当社も数年前までは、Yahoo!ニュースやスマートニュースなどで取り上げられるとトラフィックが伸びやすいことから、自社で製作したコンテンツをライブ配信していました。しかし、高いトラフィックを保っていくためには、話題性のあるニュースを延々と発信し続けなければならず、自分たちの手法を再定義することにしました。

その際に参考になったのがクックパッドです。無料で投稿が集まるという仕組みが非常に高い収益性を生み出すことに気づきました。そこで、プロフェッショナルのコンテンツをいかに数多く集めるかに注力したわけです。獲得したコンテンツはいわゆるストック型で、ニュースと違って内容が陳腐化しにくく、どんどん蓄積していくことが可能です。

村上:ストック型のコンテンツがどんどん増えていく仕組みになってくれば、それに伴って多様なユーザーのデータが蓄積され、DMP(Data Management Platform=多様なデータを一元管理・分析して広告配信の最適化を行うプラットフォーム)という観点からも新たな収益をもたらしそうですね。

冨田:おっしゃる通りで、当社もDMPを成長戦略の一つに掲げており、それに基づいて保有データを有効活用し、購買意欲の高いユーザーを可視化することに注力する方針です。そろそろ本格展開を図るフェーズに差し掛かっており、機が熟すれば発表しようと思っておりますが、実現すればおそらく日本初の金融特化型DMPとなるでしょう。

金融機関にZUUのメディアやデータを活用してほしい

金融商品には、決済履歴というデータがあまり役に立たないという特性があります。たとえば、旅行商品なら、旅行サイトの決済履歴に基づいてツアー商品をレコメンドすれば、マスに広告を打つケースよりも高い成約率を見込めるでしょう。しかし、金融商品の場合、住宅ローンや保険の契約履歴をもとに新たな商品をレコメンドしても、まず意味がありません。むしろ、かなりの長期にわたって新たな契約は結ばないはずです。

だからこそ、日頃からユーザーと接点を持ち綿密な分析を行っている当社メディアや、当社のデータを、金融機関に活用してもらうのが最善ではないかと私は考えています。


(ZUU「成長可能性に関する説明資料」より)

村上:金融業界に精通していることを強みに、その特性に最適化させるためにビジネスモデルを軌道修正してきたというのが御社のこれまでの歩みだったわけですね。2017年からは金融系人材に特化したリクルーティングも手を広げているようですが、この事業は容易にスケールするのでしょうか?

冨田:足元で金融業界においては、メガバンクが大幅な人員削減に踏み切っていることもあって、民族大移動的な人材の流動化が発生しています。

その一方で、実はZUU onlineが獲得している登録会員の10%以上が金融業界に在籍している人たちです。

要は、専門性をどんどん高めていった結果、プロにも注目されるサイトに成長したということです。そこで、そういった人たちのキャリア形成にも役立つようなプロフェッショナルプラン(月額4980円)というサービスを先日リリースし、これまでのところ順調に伸びています。つまり、こうしたサービスがリクルーティングとも結びついていくわけです。

一般ユーザーと金融業界従事者向けで進める会員化戦略

村上:正直に申し上げると、金融業界に携わる人たちがユーザーに占めている割合はもっと少ないのではないかと個人的には思い込んでいました。10%以上に達しているともなると、かなりインパクトが違ってきますね。ところで、2018年2月から会員化戦略を打ち出していますが、どういった理由からなのでしょうか?


(ZUU「成長可能性に関する説明資料」より)

冨田:やはり、会員化が好循環をもたらしますからね。ユーザーにより質の高いコンテンツを提供し続けるためにはコンテンツへの投資が必要です。それを実現するために、会員化は当然の帰結だと思っています。我々がお金に関する良質なコンテンツを提供することに対して、相応のコストを払うのは当然だとユーザーに納得していただけるようなサービスでありたいと思っています。

村上:経済ニュースに特化しているNews Picksの場合なら、有料会員となってより深く理解したいというニーズが出てくるでしょう。一方で、金融に関する情報の場合、無料会員向けのコンテンツでアウトラインを把握できれば、それから先は各金融機関の窓口に電話などで問い合わせて理解を深めるというパターンに流れてしまいかねません。具体的にどういったコンテンツを提供することで、有料会員への加入を促すのでしょうか?

冨田:金融業界で働く人向けのプロフェッショナルプランと一般の個人向け有料会員プランでは、まったく異なる方針で考えています。

まずプロ向けでは、教育支援や営業支援といったサービスまで含めた有料化を図っています。そして、個人の有料会員については基本的に思想を購入していただくことからスタートすると思っています。たとえば、ライザップに通えばちゃんと痩せられるということは多くの人が納得していることでしょう。

金融の分野においても、「この方法なら着実に資産を形成できる」とか、「お金に関して正しい考え方が身につく」とかいったものが存在しています。そういったノウハウを提供し続けることができれば、対価を支払うに値すると多くの人が考えてくれるようになると私は思っています。

村上:なるほど。無料会員ではそこまで具体的なソリューションは得られず、有料会員になればより詳細なことがわかるコンテンツが見られるようになるということですね。ただ、いったん有料会員になって一通りコンテンツを読み切ってしまったら、さらに継続してもらうように引き留めるのはなかなか難しい気もしますが、いかがでしょうか?

冨田:いえいえ。継続的に新たなコンテンツを提供し続けられるので、読み切ってしまえば終わりというものではありません。たとえば、カーシェアリングでマイカーをどう有効活用するかというテーマでも無数のコンテンツを展開できますし、毎年のように税制も変わるので、その度にお金の管理もカスタマイズする必要が生じ、そういった情報を求めるニーズも出てきます。また、一部の有料会員に対して、お金に関するスクールを開催する事業にも着手しています。

上場企業というステータスはビジネスにとって有益

村上:株式市場への新規上場に関しては、なぜ2018年6月というタイミングだったのでしょうか? やはり、金融の分野に携わっている会社だからこそ、相場環境が比較的良好である今というタイミングを選んだということでしょうか?

冨田:一番の理由は、金融機関との関係ですね。地方銀行のような地域密着型金融機関にもお付き合いが広がり始めており、私たちについて信頼していただくうえでも上場企業であることは非常に重要です。もちろん、急激に伸びている時期だからもう少しタイミングを遅らせて、それなりの時価総額で上場するという発想もあるでしょう。

しかし、それよりも上場企業というステータスを早く獲得することのほうが当社のビジネスにとって有益だと私は考えました。マーケットに出てから新たな戦略を発表していっそうの成長を図り、それに伴って業績も伸びていけば、おのずと株価にも反映されて時価総額も拡大していくはずです。

村上:なるほど。紙の資料を見て理解していたつもりになっていましたが、こうしてお目にかかって実際に話をうかがい、御社のビジネスの中身と本当に狙っていることがよく理解できました。本日はありがとうございました。

(ライター:大西洋平)