J1クラブライセンスを保持しないため、今季のJ1昇格は不可能な町田だが、J2優勝も狙える位置に躍進を遂げている。写真:徳原隆元

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 敵地で戦った10月17日のレノファ山口FC戦。76分に杉森考起の決勝ゴールが決まると、ベンチから控え選手たちも飛び出し、約5か月ぶりにゴールを決めた杉森を中心に歓喜の輪ができた。喜びに湧く町田イレブン。まさにチームの一体感を象徴するワンシーンだった。
 
 チーム在籍年数8年目のディフェンスリーダー・深津康太は、常々チームのストロングポイントをこう語っている。
「チームが同じベクトルを向いて戦えることがウチの強みだと思う」
 
 J2最小クラスの予算規模である町田が、J2優勝も狙える順位(3位)に位置している原動力のひとつに「一体感」があるのは間違いないが、そうした一体感を醸成する活動を、町田はピッチ外で実践している。その活動がクラブのトップパートナーのひとつである玉川大学が展開する『TAP(Tamagawa Adventure Program)』だ。
 
 TAPとは2000年から本格始動したアドベンチャー教育の哲学・手法と、玉川学園の全人教育とを統合した体験学習プログラムのこと。活動の目的は多岐に渡るが、チームスポーツに欠かせないチームワーク構築に寄与したプログラムもあるため、町田は第二次相馬体制が発足した2015年からチームビルディングに生かす目的で、TAPを定期的にチームの活動に取り入れてきた。例えば一昨年は3回、昨年は1回、今年はすでに3回と、近々では8月上旬に実施している。
 
 TAPが示唆するグループワークにおける重要なポイントのひとつは、他者との相互理解。TAPのアクティビティーの中には、他者を信頼し切っていなければ実践できないアクティビティーもある。
 
 例えば二人一組のそれでは、目隠しをした一人が、ペアを組んだパートナーの声だけを頼りに目的地までたどり着かなければならないアクティビティーがある。地面には障害物が敷かれており、それに触れてしまえば、アクティビティーはそこで終了。このアクティビティーは“スイカ割り”のイメージに近いが、目に見えない障害物を避けながら、自分を目的地に導いてくれる他者を信頼しなければ、決して目的地にたどり着くことはできない。これは互いの信頼感が肝となるアクティビティーと言えそうだ。
 
 そしてグループワークの象徴的なアクティビティーが、4択問題からグループとしての答えを導き出していくもの。8月の活動では山でキャンプ生活を送る上で気をつけるべきことを問う問題が6つ出されていた。
 
 グループとしての回答を導くためのアプローチ法は、まず各個人が回答を出す。しかし、当然意見は割れるため、時には他者の意見を受け入れる必要がある。「答えはコレでしょ」と中には自分の意見を曲げない選手もいたが、インストラクターの先生からは、ほかの人の意見を捻じ曲げてまで通さずに、その人はなぜその答えを出したのか、話し合うことの重要性が強調されていた。
 
 このアクティビティーを通して見えてきたことは、見方を変えるだけで違った視点が生じるように、物事に対する考え方・捉え方は人によって千差万別であるということ。グループとして一つの答えを導き出すためには、そうした意見の相違をお互いにコミュニケーションを図ることで相互理解を深め、時には人の意見を聞き出し、耳を傾けながら集団で意思決定をしていくプロセスが求められている。
 
 サッカーのピッチ上に視点を変えれば、チームの目的は勝利のみ。あくまでもタイトルはチームの勝利の積み重ねに過ぎない。チームの勝利のために、他者が味方のミスをカバーし、できないことはできる選手が補う。時にはアシストあってこそのゴールがあるように、チームの最大値は各選手が有する個人の価値が、チームとして集約されることで何十倍にも膨れ上がる。