クルマのボンネットから直立するエンブレムやマスコットは、高級車の象徴ともいえるかもしれませんが、近年これらが激減しています。ジャガー車ではボンネットからマスコットが消滅しています。背景には何があるのでしょうか。

盗難対策?

 メルセデス・ベンツの「スリーポインテッド・スター」や、ジャガーの「リーピング・キャット(リーピング・ジャガー)」、ロールス・ロイスの「スピリット・オブ・エンジェル」など、高級車のエンブレムやマスコットは、それぞれのブランドを象徴するアイコンのひとつです。古道具店などでは、取り外されたエンブレムやマスコットだけが売られていることもあります。


メルセデス・ベンツ旧車のボンネットに取り付けられた「スリーポインテッド・スター」(画像:Sergey Kohl/123RF)。

 かつては日本車でも、ボンネットにエンブレムが立体的に取り付けられた車種がありました。たとえば1980年代から90年代にかけての日産「シーマ」や「グロリア」、トヨタ「クラウンマジェスタ」などです。こうした「立ったエンブレム」はやはり、高級車の象徴的なアイテムといえるかもしれません。

 しかし現在、それら立体のエンブレムやマスコットが数を減らしています。日本車でもこれを備えたものはほとんどなくなったほか、ジャガーでは全車で、ボンネットの「リーピング・キャット」が消えています。

 これは、乗用車の突起物規制が敷かれたためです。

 歩行者保護の観点から、自動車の外部には、衝突時あるいは接触時において歩行者などに傷害を与える恐れのある突起を有してはならないという国際基準が、2009(平成21)年以降の新車から適用されています。このため、ボンネット上から突起物がなくなったことはもちろん、ボディの端部なども丸みを帯びたものになってきているです。

いまも残る立体エンブレムやマスコット 規制にどう対応?

 ジャガー・ランドローバー・ジャパンは、「法規に合わせてボンネットの『リーピング・キャット』は廃され、車体後部に埋め込まれる形で配置されています。歩行者保護の観点からは致し方ないことでしょう」と話します。

 一方、メルセデス・ベンツではいまも、ボンネットにエンブレムが立っている車種があります。

「Sクラスと『マイバッハ』のほか、EクラスやCクラスの限定モデルなどにも残っています。これら車種は、『エレガンス』と呼ばれる伝統的な形状のフロントデザインを採用しているもので、もともとはこちらが基本でした。現在ではほとんどの車種でフロントグリルの中央にエンブレムを配した(スポーティな)『アヴァンギャルド』を採用していますが、『エレガンス』は昔からの形で、いまもご要望があります」(メルセデス・ベンツ日本)

 ベンツ車の立体エンブレムは、押せばボンネット側に倒れるようになっています。「道路運送車両の保安基準」では特別規定として、このような立体装飾が格納またはたわんだ状態で突出量が10mm以下であればよいことになっています。


ロールス・ロイスのマスコット「スピリット・オブ・エンジェル」(画像:Rolls Royce)。

 ちなみに、ロールス・ロイスではいまも多くの車種でボンネット上に立体的な「スピリット・オブ・エクスタシー」のマスコットが取り付けられています。こちらは格納式を採用。ボンネットの内側に隠れるようになっています。