<後編>安室 透のおかげで僕もまだ成長できる。レジェンド声優・古谷 徹の飽くなき情熱

さまざまなヒーローを演じ続け、今年で声優人生52年。代表作は数知れず、時代を創り出したアニメにはいつも古谷 徹の名前がある。そんな彼でも「こんな現象は初めて」と驚いたのが『名探偵コナン』の安室 透だ。3つの顔を持ち、正義を貫くために暗躍するダークヒーロー。熟練の技を持つ彼にしかできない唯一無二のキャラクターである。安室への思いを紐解くうちに見えてきたのは、人生のすべてを役者業へとささげる古谷の情熱だった。

“レジェンド声優”と呼ばれる存在ながら、さらなる高みを目指して――ここで話題は、1979年から放送された『機動戦士ガンダム』まで遡る。当時25歳の古谷は、声優生命をかけてアムロ・レイと向き合っていた。今の自分と比べれば技術的に劣る部分もあるだろう。それなのに「あのときの古谷 徹には勝てない」と、悔しそうに語り出すのだった。(<前編>より続く)

撮影/アライテツヤ 取材・文/小松良介
スタイリング/安部賢輝 ヘアメイク/氏川千尋
【お詫びと訂正のお知らせ】記事内のバスツアーの日程に誤りがありました。古谷 徹さんと関係者のみなさま、読者のみなさまに訂正してお詫び申し上げます。

15歳のアムロを演じるには、25歳の古谷 徹は超えられない

25歳の頃の自分には勝てない…。理由をお聞きしてもいいでしょうか?
10代のころに『巨人の星』の星 飛雄馬でブレイクしたあと、大学卒業と同時に僕は声優の仕事で生きていくことを選んだのですが、当時は何を演じても飛雄馬みたいな“ド根性”路線のしゃべり方が出てしまう癖があって、「プロなら違うお芝居ができないとダメだ!」とジレンマを抱えていたんです。そんなときに出会ったのがアムロ・レイでした。

アムロはメカが大好きなとても内向的な少年ですが、戦わざるを得ない状況に追い込まれて、仕方なく戦場に出て行きます。現場ではそんなリアリティを求められて、「アムロという飛雄馬と対極的なキャラクターをきっちりと演じられたら、自分はどんな役でもできるのではないか」と思い、自分の声優生命をかけるつもりでアムロに取り組みました。
今聞くと、気持ちだけで演じているんですよね。ただセリフをしゃべるんじゃなくて、セリフに込められた気持ちをしゃべる。吐き捨てるような感じで語尾が聞き取れなくても、そのほうが少年らしいなって。究極の状況の中で生きようとしている男の子には、ピッタリの演技だったと思います。
あのときの演技がベストだった、という感覚が今でもあるわけですね。
あれから40年近く、ゲームなどで毎年のようにアムロを演じ続けているわけですが(笑)、年を経て、ナレーターとしてハッキリとしゃべる技術を身につけたことで、どれだけ気持ちで演じようとしても、ちゃんと語尾まで聞き取れてしまう。
15歳のアムロを演じるには、たぶん25歳の古谷 徹を超えることはできないんじゃないかと思っているんです。
自分自身を成長させてくれるという意味でも、キャラクターとの出会いは本当に大切なんですね。
声だけとはいえ、やっぱりキャラクターのことは演じる前からずっと考えています。リハーサルでは、作中と同じように動きながらしゃべってみたりといろいろやりますね。僕は実践主義なので、できることは何でも全部やってから役に臨みたいんです。

そのおかげで、バーチャルの世界ですけど、演じ終えるとそのキャラクターと一緒に「体験」した気持ちになるんですよ。
今まで演じてきたキャラクターが、体の中にずっと生きている?
そうですね。そういう感覚がずっと残ってます。
そういった境地に至るまでに、どんなことを準備されるんですか?
できることはもう何でもやりますね。たとえばキャラクターがケガをしたときにも、どんな痛みだろうって想像する。そこで自分がケガをした経験があると、「ろっ骨にパンチを受けたらこんな痛みなんだろうな」って思うじゃないですか。

昨年、スノーボードでキッカー(ジャンプ台)を飛んだときに、胸から落ちてろっ骨を折っちゃって。「ううっ」ってしゃべれなくなるし、歩くたびに体に響いて痛いし……。でも、そういう痛みって体が覚えるじゃないですか。
想像するだけで痛そうです。
初日にやっちゃって、「痛いなー」と思いながらもそのあと3日間ずっと続けました。その翌日はゴルフに行って……。
えっ、病院は…?
いや、ゴルフに行っちゃいました(笑)。1番ホールのティーショットを打ったときに、ろっ骨がズキンとなって、さすがにこれはヤバいと思い、そこからはずっとハーフショットで…。
続けたんですか!?
続けました。もちろん18番まで全部まわったんですよ。それで翌日お医者さんに行ってレントゲンを撮ったら、やっぱり折れてましたね(笑)。
そういうときでも「これは演技のプラスになる」と?
うん、思います(笑)。「ああ、折れるとこうなんだなあ」って。やっぱり役者にとっては生活のすべてが勉強なんですよ。

スタッフとの阿吽の呼吸で、演技がさらにレベルアップする

古谷さんに憧れる声優さんもたくさんいらっしゃると思うのですが、古谷さんからご覧になっていかがですか?
やっぱり真摯に役に取り組んで努力しているなあと思う子は伸びているし、実際に売れていますね。そういう若手の子たちからは、逆に僕も盗みたいなと思ってます。

収録が終わってスタッフのみんなと飲みに行くとき、「参加していいですか」と来た子と話していても、「こいつ見込みがあるな」と感じるときはあります。
なるほど。ちなみに古谷さんは、収録以外の場では、スタッフの方々とどんな話をされるのですか?
くだらない話も、演技の話もしますよ。監督さんとかミキシングのエンジニアとか、直接腹を割って話す機会ってあんまりないじゃないですか。でも毎週のようにコミュニケーションをとっていると、距離も近くなるから、「何であのセリフ、もうちょっと立ててくれないの?」ともハッキリ言える(笑)。そういうコミュニケーションの積み重ねは、次にも生きてくるんですよね。
学びがたくさんあるんですね。
そういうコミュニケーションができていると、スタッフとのあいだに阿吽の呼吸が生まれてくるんです。たとえばリハーサルのときは一切音にしなかった息が、本番の流れでつい出ちゃうこともある。そういうときに、「徹ちゃんなら絶対あそこで息を入れると思ってたよ」とうまく拾ってくれるんですね。
スタッフさんとのチームワークで、より良い演技を作っていくんですね。『名探偵コナン』だと、収録現場はどんな様子ですか?
『コナン』は高山みなみさんがすべてわかってますから、まず彼女に対する信頼感がすごく大きいと思います。キャストたちも、これまでの流れや今後の展開がわからないときは、みんな彼女に聞くんですよ。そうするとちゃんと的確なアドバイスをくれるんです。
ある意味で原作者のように、作品の舵を取っていく存在なんですね。
本当にそう思いますね。彼女のアドバイスは僕ら共演者にとって絶対に欠かせない存在です。それにすごく気配りができる方で、毎回、犯人役のような初めて参加するゲストがいらっしゃると、その方たちのこともしっかりフォローしてくれてます。
すごく居心地が良さそうです。
とっても良いですよ。アフレコはいつも夕方のちょうどいい時間に終わるので、毎週のようにキャストとスタッフみんなでお食事に行くんです(笑)。行きつけの素敵なお店があって、にぎやかにワイワイと楽しんで、そこでまたコミュニケーションが生まれる。

それに毎年、みんなで旅行にも行くんですよ。スタッフさんが企画を立ててくれて、僕も毎回参加させていただいてますが、今年は青森に行ってきました。

まるで安室!? Twitterを始めたきっかけは“潜入捜査”

『コナン』の劇場版は6作連続で最高興行収入を更新していて、「ヒットして当たり前」という周囲のプレッシャーもあると思います。古谷さんも、そういった責任感を常に感じているのでは?
長年やってきて古谷 徹という名前も浸透していますし、それによって信頼してくださるスタッフもいるわけで。当然、ヒットではなくホームランを打たなくてはいけないという責任感は自分でも常に感じています。それに、若手の子たちより多くギャラをいただいていますから。そういう部分でも僕の持てる力をすべて注ぎ込んで、結果を出さなきゃいけないと思っていますね。

若い頃は自分の役を演じることしか考えていなかったんですけど、『聖闘士星矢』くらいからかな。だんだんとスタッフの気持ちがわかってきて、自分もせっかく良い芝居をしたんだから、これをたくさんの人たちに観てもらいたいという気持ちが強くなりました。

最近はTwitterなどでも、「また映画館に行ってね」とみなさんに呼びかけるようになりましたね。
Twitterを始めたのは、やっぱり作品の宣伝をしたかったから?
2014年にある映画が公開されたとき、観てくれたファンの方がどう思ってくれたのかを知りたくて。今で言うエゴサですね。2ちゃんねるを見に行ったこともあります。“潜入捜査”みたいな感じかな(笑)。
安室のように(笑)。
スタッフさんから教えてもらいました。Twitterって、何かつぶやいたらすぐにリアクションが来るじゃないですか。それが面白いなと思って。
スゴい勢いでリツイートされたりすると、嬉しい一方で、反響の大きさに怖くなることもあるんではないかと。
何度か炎上しましたね(笑)。あとは、ちょっとしたつぶやきが思わぬ反響を呼んだりして。最近だと、悩んでいる方に真剣にお答えしようと人生論みたいなことを語ると、それがネットニュースになっちゃうんです。
ああ、すみません…。古谷さんはとてもお忙しいと思うのですが、ファンの方々からのリプライにもとてもマメにお返事されていますよね。
僕はもともと自分のホームページで掲示板みたいなことをやってきていて、その頃からファンの人との交流が大好きでした。だからちっとも苦じゃないんですよ。やっぱり、仕事に関してもそうですけど、コミュニケーションから得るものはすごく多いので。
10月27日・28日にはファンの方々と温泉バスツアーに行かれるとか。正直なところ、古谷さんほどの方とバスツアーに行けるというのにとても驚いて…。
20代の頃からファンクラブを15年くらいやっていて、自分が中心になって年に2回、バスツアーを企画していたんですよ。スキーに行ったりとか、テニスをやったりとか。

そのあとファンクラブは解散しちゃったけど、2016年に声優活動50周年で全国を回るイベントをやらせていただきまして。そこで直接ファンの方の声を聞いて、温もりを感じるという体験が、自分にとってすごくエネルギーになると実感したんですね。仕事に対してモチベーションが上がるんです。

そしてSHOWROOMさんで月に1回、『古谷徹のほっこりThanks Room』というライブ配信を始めました。そこでファンの方々と交流しているうちに、温泉バスツアーのような企画をやりたいなあと自分から言ったところ、お話をいただきまして。それで久しぶりに旅行企画が実現したんです。

レジェンドの信念。「死ぬまでヒーローをやっていたい」

「レジェンド」と呼ばれる古谷さんですが、これまでお話を伺っていると、むしろ「現在進行形の存在」でありたいという気持ちが強いのかなと…。
もちろんそうです。「死ぬまでヒーローをやっていたい」という気持ちはつねにありますね。僕は快感のために声優を続けているんですよ。自分のセリフを「うわあ、カッコいい!」って思える瞬間が忘れられなくて。カッコいいセリフをずっと言い続けていたいんです。

「僕の恋人はこの国さ!」ってね。
隣で女性陣の歓声がわき起こりました(笑)。今回の劇場版も、セリフをはじめとするカッコいい場面がたくさんありましたね。
そうですね。(安室は)すごく良い表情をしていて、色っぽいなと思ったところもありました。
カーアクションのシーンでは、ちょっと狂気をはらんでいるというか、スリルを楽しんでいるようでしたね。
©2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
『名探偵コナン ゼロの執行人』4Dアトラクション執行上映 全国東宝系にて大ヒット公開中!
ありましたね。僕にとっては理想的な男で、キリっとした降谷 零の印象が強いから、ああいう表情をするとは思いもしなかったです。
古谷さんにとっては意外な一面だったのですね。でも、時間が経たないと自分の演技を客観的に見られない方もいるかと思いますが、古谷さんのようにリアルタイムで自分のセリフに感動できるのってすごく素敵ですね。
僕、ほとんど反省しないですからね(笑)。OKが出たら「これがベストだ、完璧だ」って思っちゃうんですよ。だから放送を観たら「いいなあ! これ、すごくいい!!」って自分のセリフで号泣します。客観的に見れちゃうんです。
視聴者も、古谷さんのセリフに感動したり、心を奪われたりしている人ばかりだと思います。昔はタキシード仮面で、今は安室のセリフに…(笑)。
安室 透のファンの中には、「初恋がタキシード仮面でした」という方がけっこういらっしゃるんですよ。初恋がタキシード仮面で、20数年の時を経て今は安室に。2度も心をつかめたなんて、すごく光栄なことだと思います。
古谷 徹(ふるや・とおる)
7月31日生まれ。神奈川県出身。A型。5歳の頃から芸能界に入り、1966年に『海賊王子』(キッド)でアニメ声優デビュー。主な出演作に『巨人の星』(星 飛雄馬)、『機動戦士ガンダム』(アムロ・レイ)、『聖闘士星矢』(ペガサス星矢)、『ドラゴンボール』(ヤムチャ)、『美少女戦士セーラームーン』(タキシード仮面)、『ONE PIECE』(サボ)など多数。2012年からは『名探偵コナン』シリーズに安室 透役で出演し、2018年4月に公開された劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』は大ヒットを記録した。
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