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中高生を中心に爆発的にヒットしている動画アプリ「TikTok」。しかし人気の裏では、未成年ユーザーへのナンパや、「下着が見える動画」などと再編集される問題が出てきている。しかも被害者は低年齢化しており、小学生の例も少なくない。ITジャーナリストの高橋暁子氏は「保護者の指導が必要だ」と警鐘を鳴らす――。

■世界1位を記録した「口パク動画」共有アプリ

「子どもが『TikTok(ティックトック)』に動画を投稿していたので叱った」という小6女子の母親がいる。

「CMで見て興味を持って、人気の小学生ユーザーに憧れて真似したみたい。音楽に合わせて踊る動画を投稿していて、数人だけどファンもついていたので驚いた」(小6女子の母親)

「かわいいね」などのコメントが寄せられているのを見て、青くなったそうだ。こうした小学生の動画投稿は決して珍しくない。筆者の取材では、最も若くて小学1年生でTikTokに動画を投稿している、という例もあった。

TikTokとは、中国発のリップシンク(口パク)動画共有アプリだ。最大のポイントは「音楽に合わせた動画を投稿する」という点。撮影時間は最大で15秒。高速再生されたヒット曲にあわせて、ダンスやリップシンクの動画をアップロードする人が多い。日本では、野性爆弾くっきーさんと黒木麗奈さんが登場するテレビCMが放映されており、中高生を中心に爆発的に広がりつつある。

米App Annie調べによると、2018年5月時点でTikTokは世界ダウンロード数1位になり、月間アクティブユーザー数(MAU)でも1億人を突破するなど、世界的に注目を集めている。米ブルームバーグによると、運営元である中国のバイトダンス社の企業価値は750億ドル(約8兆5000億円)だという。最近ではエイベックスとの包括的なライセンスで提携。同社の保有する楽曲を自由に使用できるようになることで、日本での利用もさらに加速しそうだ。

■「みんなと同じ」を投稿しやすいTikTok

人気の背景には、「型の決まった動画投稿」の流行がある。元々若者の世界は同調圧力が強く、「みんなと同じこと」をしたがるものだ。SNS上では行動が可視化されるため、この傾向が加速しやすい。

最近では、音楽コミュニティアプリ「nana」で、「演技力じゃがりこ面接」というものが流行した。「うれしくて」「悲しくて」といったさまざまなシチュエーションに合わせて「じゃがりこ」という単語を話すというものだ。

またカメラアプリ「SNOW」では、自撮りにクマのフィルターをかけ、音楽に合わせて動く「あっちのクマもこっちのクマも」という動画が流行した。

いずれの例も、なにか新しい「型」がウケると、ユーザーたちが次々とまったく同じ「型」を真似するという特徴がある。若者たちはとにかく「みんなと同じこと」をしたいのだ。

そうした状況で、TikTokは人気を集めやすい環境が整っていた。投稿のハードルが非常に低いのだ。これまでの動画投稿サービスで人気だったのは、「踊ってみた」といわれる複雑なダンスを真似するものだった。だがTikTokでは上半身だけ、しかも極端にシンプルな振り付けでも見映えがする。

たとえば、「雨効果」のスタンプをオンにすると、画面に雨が振り、手を開くと雨粒が止まって見える。これを利用した、手のひらを左右交互に開いて突き出すだけというあまりにシンプルな振り付けの動画が多数投稿されている。

オリジナリティは求められず、流行している振り付けをそのまま使えばいいので、ネタにも事欠かない。撮影速度はスローや倍速などに変えられるので、動きについていけないこともない。

■「35年前の曲」が突然ランキング1位に

TikTokで流行中の音楽は独特だ。今年の春から夏にかけて、倖田來未さんの「め組のひと」に合わせて踊る動画が流行した。倖田さんのカバーが発売されたのは2010年、ラッツ&スターが原曲を発売したのは35年前の1983年だ。「曲が新しいか、古いか」という点はほとんど関係がない。ユーザーにとって重要なのは、15秒という単位で使いやすいかどうかなのだ。

その結果、「め組のひと」の音源がヒットするという現象も起きた。音楽配信サービス「Apple Music」のミュージックビデオのデイリーランキングで2位、「LINE MUSIC」のデイリーランキングで1位(6月24日付)にこの曲がランクインした。

■コメント欄で“ナンパ”の事例も

TikTokでは、制服姿の女子中高生が学校内で撮影したような動画が多数見つかる。彼女たちは学校が特定されることは全く意に介していないようだ。それだけでなく、小中学生による投稿はかなりの数に上る。TikTokでフォロワー数トップのHinataちゃんという小学生女児が人気が出たこともあり、冒頭で紹介した通り、動画を投稿している小学生女児は増加する一方だ。

その中には、メイクをして女子高生と同じダンスをしている子、数十万人のファンがいる子がいる。さらに、TwitterのIDを公開してメッセージを受け付けている子、コメント欄で住所や学校名を聞かれたり、「会いたい、オフ会しよう」などとナンパされている子も見かける。多くの子は「有名になりたい」「人気になりたい」と書き込み、ファンに「ありがとう」とお礼コメントを付けて交流している。TikTokではかわいい女の子というだけで人気が出やすくなっているので、ちやほやされたい少女たちが動画を多数投稿しているというわけだ。

■本人の知らぬところで動画が勝手に配信される可能性

TikTokでみた動画は簡単に保存できる。このような小学生女児の動画は、YouTubeなどで「かわいい小学生のTikTok」としてまとめられている。話題になったことで投稿をやめた子もいるが、続けている子もいる。そうした「まとめ動画」の中には、下着が見えているものだけを集めたものや、「黒歴史のブス動画」というタイトルが付けられたものもある。

YouTubeでは、他のアプリで人気が出た動画を保存し、アフィリエイト目的でひとまとめにして投稿するアカウントが少なくない。つまり、そのようなアカウントにまとめられてしまったら、もう動画を消すことができなくなるというわけだ。

■子どもに使わせるなら必ず設定変更を

TikTokは利用規約で「13歳以上」と対象年齢を明記している。アプリ自体も、iOSもAndroidも「12+」、つまり対象年齢は12歳以上となっている。多くの小学生は対象外であり、使うためには保護者の許可が必要だ。もし低年齢の子どもに使わせる場合は、保護者が責任を持って利用状況を見守る必要があるだろう。

子供に「使いたい」と言われた場合、動画が他のユーザーに保存されたり、メッセージが送られてきたりするリスクを放っておくのは危険だ。対策としてプライバシー設定を変更しておく必要がある。

プロフィールページを開き、右上の三点リーダーボタンから、「プライバシー設定」をタップ。「自分の動画をダウンロードできる人」「自分にコメントを送ることのできる人」「自分にメッセージを送ることのできる人」などの項目をオフにしておくといいだろう。

制限を強くかける場合は、「他の人から自分を検索してもらう」をオフ、「プライベートアカウント」をオンにして非公開アカウントにするという方法もある。設定は子どもでも簡単に変えられるので、その設定にする理由を子どもに伝えておきたい。

TikTokを利用することが悪いわけではないが、使い方次第によっては大きなリスクがともなう。子どもに使わせる場合は、保護者がしっかりと指導しておきたい。

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高橋暁子(たかはし・あきこ)
ITジャーナリスト
書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など著作多数。『あさイチ』『ホンマでっか!?TV』などメディア出演多数。公式ブログ: http://akiakatsuki.hatenablog.com/

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(ITジャーナリスト 高橋 暁子 写真=iStock.com)