トヨタ自動車は10月24日、レクサスの新型セダン「ES」を国内向けに発売した。サイドミラーをカメラに置き換えた電子ミラーの採用は量産車として世界初(撮影:大澤誠)

サイドミラーの“ミラーレス車”が登場――。


レクサスの新型「ES」のデジタルアウターミラー。最上級グレードにオプションとして設定した(撮影:大澤誠)

トヨタ自動車は10月24日、車のサイドミラーをカメラに置き換えた電子ミラー「デジタルアウターミラー」を世界で初めて量産車に採用した新型車を発売すると発表した。

同日から国内で発売した新型高級セダン「レクサスES」の最上級グレード車にオプションとして設定。ミラーレス車は電動化や自動運転など次世代車の競争力にもつながる技術で、トヨタは世界に先駆けてアピールしたい考えだ。

夜間や雨天時に威力を発揮

デジタルアウターミラーは電子ミラーの一種で、従来のサイドミラーを小型カメラに置き換えたことが特徴だ。フロントドアドア外側にデジタルカメラ内蔵の小型ユニットを配置し、そのカメラで撮影した車両の左右後方の映像を、運転席と助手席それぞれの窓側に置いた5インチのディスプレーに表示する仕組みだ。


デジタルアウターミラーでは、雨天時でもクリアな視界を確保できる(写真:トヨタ自動車

これまでの光学ミラーと比べたメリットは、死角を少なくでき、広くはっきりとした視野を確保できることだ。特に夜間や雨天時などに力を発揮する。夜間走行のときは自動で明るさを調整することで視認性が高まる。

カメラ部分は水滴を付着しにくくし、ヒーターも内蔵しているため、曇りや雨天時でも見やすい。さらにドライバーは室内ディスプレーで確認するため、サイドウィンドウが濡れて、サイドミラーそのものが運転席から見えにくいということもなくなる。


後退時に表示される画像のデモ。リバース操作と連動する(写真:トヨタ自動車

通常時の運転でもウインカー作動時は画角が自動で広がり、死角を減少させるほか、後退するときも、リバース操作と連動して表示が自動的に拡大されて後方視界を確保できる。運転者が操作して表示範囲を広げることも可能だ。

ミラーレスといっても、従来のミラーの場所には代わりにカメラが物体として残るが、光学ミラーよりもスリムなデザインで小型のため、斜め前方の視界を確保しやすく、さらに風切り音の減少による静粛性も高まるなど利点は多い。

7代目にして国内初投入のES

今回最新のミラーレス車を導入するレクサスESは、これまで海外専用車のため国内で販売するのは初めてだ。ESは1989年に北米のレクサスブランド立ち上げ当初から旗艦車種「レクサスLS」とともにラインナップされた歴史のあるブランドだ。今回の新型車は7代目にあたり、海外では「RX」などと並び、レクサスの量販車種の一角を占めている主力車種だ。

日本ではかつてトヨタブランドの「ウィンダム」として2006年まで販売しており、今回レクサスブランドとして母国・日本に凱旋帰国する形だ。


新型ESのインストルメントパネル(インパネ)周り(撮影:大澤誠)

新型車は2.5リットル直列4気筒のエンジンを併用する新型ハイブリッドシステムを搭載。税込み価格は580万〜698万円。今回のミラーレス車は最上級の「バージョンL」(698万円)のみで、さらにオプション設定価格が21万6000円するため、全体では700万円を超える。

トヨタはレクサスに最新技術を投入して、それをトヨタなど量産車にも落とし込み、普及させていくケースが多い。すでにバックミラーではミラーレス車を複数展開しているが、サイドミラーのミラーレス車は今回が初めてだ。ミラーレス車は国土交通省が2016年6月に道路運送車両法の保安基準の一部を改正し、国内でも製造が解禁されたことが背景にある。

ミラーレス車の海外展開について、レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは「グローバルでみると、西欧は大丈夫だが、そんなに認められていない。法規の動向や(消費者の)ニーズを考えてやっていきたい」と話すにとどめた。

解禁された国内でもカメラがカバーする範囲が従来のミラーと同等であることや、モニターの取り付け位置を従来のミラーと同じような位置にすることが求められるなど、条件は少なくない。ミラーレス車は慣れるまでに心理的不安や違和感を抱く人もいるとみられ、見え方や位置に配慮しているためだ。


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もっともミラーレス車は単なるカメラへの置き換えではなく、自動運転にもつながる技術だ。カメラで撮影した画像を解析して車線変更時のアシストや進入車両のアラート機能、速度調整などとも連携することで、自動運転の精度を高める運転に近づいていく。ミラーレス車はドイツ勢もBMWやダイムラーなどが開発を積極的に進めており、将来を見据えた競争は激しい。今後は海外も含めてミラーレス車が増えていきそうだ。

FF採用でセダンの復権狙う

一方、レクサスESの日本初投入はもう一つの使命を帯びている。セダンの復権だ。レクサスや高級車のセダンでは珍しく、大衆車と同じFF車(前輪駆動)としており、同じセダンでFR車(後輪駆動)の「GS」や「IS」とは異なる。車格ではGSと自社競合しそうだが、トヨタは顧客のすみ分けを狙う。


レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントはESの国内投入で新たな顧客の獲得を狙う(撮影:大澤誠)

澤プレジテントは「FRのGSは長距離をツーリングすることをコンセプトにしているが、ESは上質、快適性にこだわり、FFの良さを生かした広い室内空間が特徴だ。顧客の使われるシーンが違う」と話す。40〜50代を中心に競合する輸入車メーカーからの乗り換えなど新たな需要を掘り起こしたい考えだ。

レクサスブランドでは昨年から新型車や改良車の投入が相次ぐ。昨年は最上級クーペ「LC」を発売したほか、小型車「CT」、セダン「GS」、SUV(スポーツ多目的車)「NX」を一部改良。さらに最新技術を導入した旗艦セダン「LS」を発表するなど、攻勢をかけている。年内には小型SUV「UX」も発売予定で、大型から小型、クーペ、セダン、SUVなどラインアップが一気に広がっていく。レクサスの2018年1〜9月の世界販売実績は50万台を超え、前年同期比6%増と過去最高を更新するなど好調だ。

そんな中、レクサスESの事前受注も月間販売目標350台の6倍を超える2200台で好調な出足という。新規顧客はそのうち3割を占めるといい、拡販に一役買っているといえる。

ただミラーレス車については発売後、販売店において顧客に実車で確かめてもらいながらの受注になるため、未知数だ。世界初のミラーレス車への挑戦と、FFの高級セダンという2つの使命を帯びたレクサスES。はたしてどう評価されるか。