「入試差別の会」の会見。左から河合弘之弁護士、現役医学部生の竹口優三さん、山本結さん、姫岩翔子さん(撮影:尾形文繁)

医学部受験での女性や多浪生への差別に抗議する「東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会」(以下「入試差別の会」)が10月23日、東京・永田町で記者会見をした。

共同代表の北原みのり氏(著述家)と井戸まさえ元衆議院議員のほか、日本女医会理事の青木正美医師、同会長の前田佳子医師、福島瑞穂参議院議員、脱原発弁護団全国連絡会共同代表でスルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団団長を務める河合弘之弁護士が列席し発言した(前田氏を除く全員が入試差別の会の一員)。

「被害者は少なくとも2万人以上」

共同代表の北原氏は「東京医科大学が不正をしていた期間からすると被害者は少なくとも2万人以上」と話した。現在、東京医大の受験経験者が110人以上、会に集まっているという。

ダグラス・グラマン事件やイトマン事件など大型事件を手がけたことで知られる河合弁護士は、入試差別の会への協力を8月24日に開始。すでに30人以上の被害者と面談した。

河合弁護士は「医療の世界の人材供給の入り口で起きた不正だと問題を捉えた」と切り出し、「入り口で不正が行われているのは見逃せない。そこで間違えれば、医師の採用面で、志のある人が採れていないことになる。医療の腐敗につながり、国民の健康を左右する大問題。これが、私が本件に関わる道義的理由」と説明した。

記者会見では現役の医学部生が声を上げた。

医療系学生団体のメンバーで筑波大学医学群6年生の山本結(ゆい)さん(24)は「浪人生は声をあげたくても受験勉強に忙しく、実名で声をあげる人はほぼいない。だから現役医学部生が声をあげた。声をあげないと世の中は変わっていかないと思った」と語る。

「医師の長時間労働が問題ならば男性でも有給休暇が取れるような工夫をまずすべきなのに、入試で差別することに解決策を求めた。私はそこを怒っている。採用試験ではないのに、大学病院の都合を入試の基準に反映するのがおかしい」(山本さん)

同じ学生団体のメンバーで東京慈恵会医科大学4年生の姫岩翔子さん(25)は、慈恵医大に合格するまで、国立大学を含め多くの医学部を受験したという。

「私が受験で差別を受けていたかどうかはわからないというのが正直なところ。ただ、差別していると噂のあった大学で実際に差別があったので、どうしても疑心暗鬼になってしまう。これから受験する人のためにも一刻も早く真相解明をしてほしい。受験要項に『属性で差別する』と書いてあったらどうするか? その大学を受験する人はだれもいなくなると思う」(姫岩さん)

ただ、今後の被害者救済は困難を極めそうだ。第1に被害の形がさまざまだ。医学部受験に失敗し現在も浪人中、医学部を諦めて他学部に進学、別の医学部に合格し現在医学部生など、被害者の置かれている状況が異なる。

また、国立大学で受験における差別があれば直ちに不当だと言えるが、私立大学では必ずしもそうではない。河合弁護士は「私立大学は(私学助成金など)国家の補助を受けている。私立も公立みたいなものだから、憲法上禁止されている差別をしてはならない」と強気の姿勢だが、法廷でどこまで争えるかは不明だ。

多浪生への差別となるとさらに難しさがある。たとえば司法試験では3回失敗したら受験資格を失う制度がある。「司法試験とは問題が違う。人の命の問題に関わりたいという人を差別するのは良くない」と河合弁護士は言うが、どうも歯切れが悪い。

問われる情報開示の姿勢

福島県立医科大学6年生の竹口優三さん(30代)は、社会人を経験した後に一念発起。4浪以上に相当する年齢で合格したが「(多浪生の差別が明らかになった)昭和大学、東京医大には複数回、2次試験で落とされたので、私は被害者だと思っている。どの大学がどんな不正をしたのか、文部科学省の最終報告ではきちんと情報公開してほしい」と語った。


実名・顔出しで真相解明を求める現役医学部生(撮影:尾形文繁)

文科省はこの会見の前に全国医学部調査の中間報告を発表しているが、不正をしていた大学名は伏せている。河合弁護士は、「中間報告があるから最終報告があると思ったら大間違い。日本の行政は最終報告をときどきさぼる。最終報告を出せというのもこの会がすべき運動のひとつ。情報開示請求などの手段を使って戦っていくべきだ」と指摘した。

「多浪生、女性には狭き門」と噂されてきた順天堂大学は10月18日、第三者委員会を設置し、不正の有無を調査している。男性の合格率が女性よりも高い医学部は順天堂大以外にも数多くある。どこまで真相究明がなされるのか。それは受験シーズンまでに間に合うのか。文科省、各大学の本気度が試されている。