乳房を機械に挟み、X線で診察するマンモグラフィ。40代以上に推奨される検診だ Photo by Getty Images

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漫画家のさくらももこさんが、乳がんで亡くなられてから2カ月。2017年6月に34歳の若さで亡くなられた小林麻央さんに続き、「人生百年」と言われるなかでの53歳は早すぎると、衝撃を受けたことだろう。

ほかにもSKE48の元メンバーでタレントの矢方美紀さんなど著名人が若くして乳がん罹患を公表する人が増える中、自分や大切な人は大丈夫かという危機感から「乳がん検診で命を守ろう!」という声があちらこちらで上がる。た

折しも今月は世界的に乳がん啓発運動が行われる“ピンクリボン月間”だった。乳がんに関心が寄せられる今だからこそ、乳がん検診について、メリットだけでなく、弱点についてもきちんと知識を持っておくことが大切だ。

自らも40代で乳がんを経験し、現在はNPO法人キャンサーリボンズ理事、NPO法人CNJ認定がん体験者コーディネーターとしても幅広く活動している、美容ジャーナリストの山崎多賀子さんに、がん検診について話を聞いた。

検診を「受けすぎるリスク」

ピンクリボン運動では、乳がんの早期発見の大切さを声高に謳われている。検診も大切だと思う。しかしここで伝えたいのは、“検診を過剰に受ける”ことへの問題だ。

40代前半の健康意識が高い知人は、乳がんの早期発見のために、自覚症状がなく、要精密検査になるわけでもなく、家族歴もないのに半年に一度、自費診療でマンモグラフィ検診を受けているという。半年に1回も検診を受けることを止めない医師にも驚き、直ちにその施設での検診をやめることを助言した。

また数年前の話だが、知り合いの経営者は、社員の命を守るため20代の女性社員にもマンモグラフィを毎年受けさせていると言った。社員のためによかれと思っての選択だが、若い女性社員が、毎年検診を受けるリスクの大きさに気づいていなかった。

どちらも、がん検診への“誤解と過剰な期待”が一般に浸透しているのだと痛感する出来だった。では一体女性たちはどうしたらいいのか。そこで、改めて乳がん検診の現状と、効果的な受診の方法をお伝えしたいと思う。

検診率は相変わらず低いが…

事実、日本では年間86万人ががんになり37万人ががんで亡くなっている。

罹患率の男女比は男性62%、女性46%で、男性のほうが高いが、じつは20代から50代中ごろまでの若い年代に限って言えば、女性のほうが高い。これは、多くのがんが50代後半から発症数が増えていくなかで、子宮頸がんや乳がんといった女性特有のがんの罹患が40代から50代にピークがあるからだ。なかでも乳がんは女性のなかで最も多いがんで、日本では11人に1人が生涯のうちに罹患するといわれている。

確かに乳がんは早期で発見し、適切な治療を受けることで治る可能性が高いことはデータが物語っている。そこで、自分でしこりを見つける前段階で発見するために「乳がん検診」が行われている。乳がん検診の目的は、早く見つけて乳がん死を減らすことだ。そして、乳がん死を減らすことができると唯一科学的に証明されているのが、エックス線を用いた“マンモグラフィ検診”だ。

乳房を機械に挟み、X線で診察するマンモグラフィ。40代以上に推奨される検診だ Photo by Getty Images

乳がんは早期発見で5年生存率95%以上といわれている。ところが日本の乳がん検診の受診率は検診の対象となる40代以上(40〜69歳)で36.42%。アメリカが80%以上、フランスたイギリス、韓国も70%以上の検診率があることを考えると、他の先進国に大きく後れを取っているのだ。

検診率は上げたいが…

しかし、検診も万全ではない。あえて言うまでもないが、検診で乳がんになることを防ぐことはできない。また、早期で見つけても進行を止められない性質のがんもある。さらには、科学的に効果が証明されている検診にも弱点がある。“がん検診は完璧ではない”ことも理解しておかなければいけない。

私自身、乳がん経験者として、ピンクリボン活動に関わることもあるが、日本では“ピンクリボン=乳がん検診へ行こう!”という色合いが濃いことが気にかかっている。乳がん検診を定期的に受けて早期発見することはもちろん大切だけれど、先にも言ったように検診で乳がんを防ぐわけではない。もうピンクリボン=検診啓発だけのイメージは終わりにしなくてはいけないと感じている。

また有名人の乳がん報道があると、「きっと乳がん検診をしなかったから発見が遅れたんだ」と言う人もいるだろう。検診を受けなかったのだから、自己責任であるという意味にもとれる発言がどれだけ当事者を傷つけることか……。乳がんは毎年検診を受けていても、見つからないものもあり、検診で「異常なし」と通知が来た後、自分でしこりや自覚症状があって検査を受け、乳がんが見つかるケースもある。それに、介護などいろいろな事情があって、検診へ行くタイミングを逃すことだってある。

これだけ乳がんに罹患する人が多い現状でピンクリボン運動にもっとも大切なことは、乳がんになった人を社会で支えていくこと。もし乳がんが見つかったとしても正しい情報を得られる機会をもち、必要なサポートが受けられることが大切で、検診だけを声高に叫んで終わっていては、これからがんと共存していく人たちの支えにはならないのだ。

日本人に多い“高濃度乳房(デンスブレスト)”

でも、なぜ乳がん検診を受けても、見逃されるものがあるのだろうか。理由はいくつかあるが、大きな原因のひとつが、“高濃度乳房=デンス(濃い)ブレスト(乳房)”だ。

現在、乳がん死を下げる検診として、エビデンスが認められているのは、“マンモグラフィ検診”だ。ところが、マンモグラフィ検診では見つけにくい体質の乳房を持つ女性は少なくない。乳房はおもに乳腺と呼ばれる組織と脂肪でできている。エックス線を用いるマンモグラフィ検診の画像は、がんのしこりも乳腺組織も白く映し出すため、乳腺組織が密な“高濃度乳房(デンスブレスト)”だと、しこりが隠れとても見えにくいのだ。画像診断医がよく例える『雪の野原で、白いうさぎを探す』ような感じだ。

しかも、この高濃度乳房は、日本人などのアジア人に多く、その割合は40歳以上でも4割とも6割以上ともいわれている。ところが、この高濃度乳房の認知は日本ではまだまだ低いうえ、検診結果に乳腺濃度の情報を記載してくれる自治体はほんのわずか。ほとんどは「異常なし」との通知のみが届き、自分がマンモグラフィでは乳がんを見つけにくい、高濃度乳房であったことも知らされない。ということは検診後、自分でしこりや異変を感じても、“検診で「異常なし」だったから……”と病院へ検査に行く機会を逸してしまう可能性もあるのだ。

マンモグラフィは画像診断時に、乳腺濃度を脂肪性から高濃度まで4段階に分類する。このうち「不均一高濃度」と「高濃度」が、高濃度乳房のカテゴリーに入る。乳腺の濃度は体質なので、健康上の問題は全くないが、自分の乳房がマンモグラフィ検診でしこりを発見しやすいかそうでないか、タイプかを知っておくことはとても大切だと思っている。

右から、乳腺濃度が高い順に画像を並べたものだ。(極めて)高濃度→不均一高濃度→乳腺散在→脂肪性の4段階に分類する。画像提供:亀田京橋クリニック放射線科医 町田洋一医師、NPO法人乳がん画像診断ネットワーク

ただ多くの場合、要精密検査とならない限り、自分の画像を見る機会は少ないのが現状。そこでマンモグラフィ検診時に、自分の乳腺濃度を知りたいと伝えるか、知ることが難しい場合はお金はかかるが、一度、自費でマンモグラフィ検診を受け、結果時に自分の乳腺濃度を説明してもらうといい。

そしてもし高濃度乳房と分かったら医師と相談し、検診時に乳房エコーを追加するか、マンモグラフィとエコーを交互に受けることを考えてもいい。

でもだからといって、高濃度乳房はマンモグラフィ検診が無意味ということではない。加齢とともに乳腺濃度が変わることもあるし、微細石灰化を形成する乳がんを見つけるのが得意なのがマンモグラフィだ。私自身も高濃度乳房だが、微細石灰化が広範囲に広がっていて、マンモグラフィ検診で乳がんを見つけている。このタイプはしこりにならずに広がるため、自己触診では分からずエコーでも見えにくい。

『要精密検査』こそ、必ず受けるべき

また、これは乳がんだけの話ではないが、がん検診をうけて要精密検査と通知が来ても、3〜4割の人は、怖くて検査を受けない人がいるという、嘘のような数字も指摘されている。私も乳がんを経験しているので気持ちは分からなくないが、がんがあるなら早く見つけて早く治療へ進むために検診を受けているのに、これでは本末転倒だ。がん検診は、要精密検査となった場合、その先の検査を受けることも含まれていることを忘れてはいけない。

そもそも、マンモグラフィ検診で要精密検査となる確率をご存知だろうか? 1000人が検診を受けると、要精密検査となるが80人強。その中で実際にがんだった人は3~5人。要精密検査になっても多くの人は悪性(がん)ではないのだ。

もし精密検査を受けてがんと判明したら、早く治療へ進む。異常なしでも定期的に検診を受ける。あるあるなのは、一度検診を受けて「異常なし」という結果に安心し、そのまま忘れて5年以上も検診を受けない人が少なくないこと。検診は定期的に受けてこそ意味がある。誕生日や母の日など、自分の節目に検診を予約するのがおすすめだ。また、マンモグラフィ検診は前回と画像を比較するためにも、同じ施設で受けることを強くお勧めする。

「AYA世代」に適した乳がん検診は?

確かに、乳がん検診がない20〜30代の若い世代にも乳がんが増えている。若い著名人が乳がんで命を落としたという報道を聞くと、恐ろしくなり、検診に行こうという気持ちになるのも分かる。しかし、40代未満の発症率は全体の6%前後で20代は0.3%(2011年のデータ)。人数が少ないからといって、検診しなければ早く見つけられないじゃないか、と思うのもよくわかる。ただ若い世代ほど高濃度乳房で見つかりにくいうえ、放射線による被ばくなど、デメリットばかりが高い。

もし、15歳〜39歳の「AYA世代」と呼ばれる若年層で、乳がんなどの家族歴(第1度近親者 母親、姉妹)があるなど、リスクが高い人は医師に相談して被ばくのないエコーを受けるなど対策を考える。リスクがある人もない人も、月に一度自己触診をし、もし乳房に異変を感じたらすぐに病院で検査をうける。これが若い年代に今できることだ。

何度も言うが、がん検診の精度は100%ではない。がんができた場所や種類によって見つけにくいタイプや見逃しもある。また、検診を頻回におこなうほど、命に関わらない、“放っておいてもいいがん(進行が遅く、命のリスクが低いがん)”まで拾い上げてしまう「過剰診断」の可能性が高くなる。それでも、がんが見つかってしまった以上、がん治療をすることになる。また、がんの疑いがあり、結果的に精密検査を行ったけれど、がんがなかった「偽陽性」もある。

過剰な検診で心が参ってしまうことも

必要以上の検診を受け、精密検査でハリを指すなど体への負担がかかる検査をし、結果が出るまでの間、恐怖で夜も眠れなかった。精密検査の結果が良性とでて、その場にへたり込んでしまったという人の話はよく聞く。そのあとも神経質になり、がんがあるのではないかと過度に心配をし心が疲弊してしまうケースもある。それほどの恐怖感がつきまとうのだ。

国が推奨している乳がん検診は40代から2年に1回。自分の乳房の体質を知り、心配ならば自費診療で1年に1回受けてもいい。乳がんなどの家族歴が(第1度近親者 母親、姉妹)あるなど、乳がん発症リスクが高い場合のみ、医師と相談して、年に1度、マンモグラフィと超音波検診をして様子をみるなど、個々にアレンジはありだ。

そして大事なのは、たとえ乳がん検診で異常なしと言われても、しこりや乳房の変形、血のような分泌物があった場合は、検診ではなく検査に行くこと。自覚症状があるのに「心配だから検診を受けようと思う」という人がいるが、これは間違い。検診は、自覚症状がない、健康だと思われる人に対して行うもので、自覚症状がある場合は、検診ではなく、早急に受診することだ。

がんと言われたら確かに怖いと思う。死に関わる「特別な病気」、というイメージを払しょくすることは難しく、決して甘く見てはいけない病気だ。だからこそ、ただ怖がるだけでなく、どうしたら、がんになっても命を守り、自分らしく暮らすことができるか、冷静になり正しく知識を持つことが大切だ。