税込み1万0980円の「IQOS 3」(右)と同8980円の「IQOS 3 MULTI」(左)。11月15日から全国で発売する(記者撮影)

「われわれの製品に弱点があることは認識していた。今回のリニューアルで、ほとんどの部分を改善できたと思っている」――

たばこメーカーのフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)は10月22日、加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」の新製品を発表した。壇上では、スイスの本社から来日した同社のアンドレ・カランザポラスCEOが冒頭のように胸を張った。


IQOS 3」が旗艦モデルという位置づけ。買い替え需要を取り込みたい考えだ(記者撮影)

今回発表されたのは「アイコス3」と「アイコス3 MULTI(マルチ)」の2製品。両製品とも、11月15日から、全国に9店舗あるアイコスストアと通販で販売する。

両製品とも、たばこ葉が詰まったスティックを加熱する方法は従来製品と同じ。PMIがうたう「有害物質9割減」や吸いごたえなどは変わらない。

アイコス3の小売価格は1万0980円(税込み)。デザインを刷新したほか、たばこを1本吸うたびに必要な充電時間を従来製品よりも短縮した。

一方、アイコス3マルチの小売価格は8980円(税込み)。たばこを加熱する部分とバッテリー部分が一緒になっており、10本連続で吸うことが可能になった。

従来は1本吸うごとに数分間の充電が必要なことや、たばこを加熱する部分とバッテリー部分の接触不良が多く充電されづらいことなど、ユーザーの不満が多かった点が、今回の新製品では数多く改善されている。

同社によると、アイコスのバッテリー寿命はおよそ1年。寿命を過ぎた製品は充電時間が長くなったり、そもそも充電ができなくなったりする。前モデルは2017年3月に発売されており、今回の新製品で買い替え需要を取り込みたい狙いもある。

3社がぶつかる加熱式たばこ市場

国内の紙巻きたばこの市場は2017年に1514億本と、ピークだった1996年から6割も縮小した。各社は縮小し続ける紙巻きたばこを補うため、加熱式たばこに活路を見出そうとしている。

PMIがアイコスを全国で発売したのは2016年のこと。煙が発生せずにおいも少ない加熱式たばことして大ヒットした。2017年からは競合のブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が「グロー」、2018年には日本たばこ産業(JT)が「プルーム・テック」を全国販売するなど、大手3社がそろって加熱式たばこに参入した。

各社の積極的なプロモーションの効果もあり、加熱式たばこの2017年の市場規模は6000億円と、2016年に比べて2.8倍に急拡大した。紙巻きたばこを含めた、たばこ市場でのシェアも、足元では20%近い(英調査会社のユーロモニターインターナショナル調べ)。


だが、アイコスを中心に爆発的に成長してきた市場は「2018年に入って成長は明らかに鈍化し始めている」(カランザポラスCEO)という。

実際、ユーロモニターは加熱式たばこ市場の成長率を2018年以降は1ケタに減速すると予想。業界内でも「新しいモノ好きの消費者が飛びついた時期はもう終わった」(たばこ会社幹部)と、発売から3年を過ぎて早くも市場は成熟し始めている。

やや低価格の新ブランドを投入へ

そこでPMIは今回の新製品を投入するほか、たばこそのもののラインナップも拡充する方針だ。10月からは、従来の「マールボロ」に加えて、西日本を中心に「HEETS」(ヒーツ)ブランドのテスト販売を始めた。

価格はマールボロよりも1箱当たり30円安い470円と、「多くの消費者が手に取りやすいようにした」(カランザポラスCEO)。10月からのたばこ増税でも需要が冷え込まないようにする狙いもありそうだ。


一方で、競合メーカーによるPMIの追い上げは激しい。紙巻きたばこで国内シェアトップのJTは、出遅れていた加熱式たばこの生産体制を急ピッチで整備。今年9月を予定していた全国拡販の時期を7月に前倒しして、コンビニでのJTの加熱式たばこ製品のシェアは10%まで向上した。さらに、早ければ年内にも新製品を発売する方針だ。

BATも、7月にグロー専用の新ブランドを発売しラインナップを拡充した。喫煙者の比較的多いバーでサンプルを配布するなど、攻勢を続ける。

たばこ市場そのものの縮小が続くため、加熱式たばこもいつかは曲がり角を迎える。市場を切り開いたアイコスは、新製品を武器に顧客層を広げることができるだろうか。