別に、結婚だけが女の幸せではない。

自ら望んで独身を貫くのなら、何も問題はない。

しかし実際には「結婚したいのに、結婚できない」と嘆く女たちが数多く存在し、彼女たちは今日も、東京の熾烈な婚活市場で戦っているのである。

先週は、自分にも相手にも厳しい“ストイックな36歳独身女”を紹介した。

さて、今週は…?




【今週の結婚できない女】

名前:友里恵
年齢:37歳
職業:財閥系総合商社
住居:広尾


男には幻滅するばかり


「私も昔は、人並みに結婚願望ありました」

そう語るのは、財閥系商社で働くバリキャリ、友里恵・37歳。

体の線は随分と華奢なのに、出るところは出ているという理想的なスタイルをもつ友里恵は、学生時代から男に不自由しなかった。

仲間の美しい女たちと共に、ちやほやされながら20代を過ごしていた友里恵だったが、28歳の時、ずっと憧れていたミラノ駐在のチャンスを掴む。

婚期を逃すかもしれない。

その考えは、確かに友里恵の頭を過ぎった。しかし結婚のためにチャンスを棒に振るなんて、人生のポリシーに反する。

結局、当初は2年の予定だったが3年半をミラノで過ごし、友里恵は32歳で東京に舞い戻った。

そして、痛感することとなった。

海外ではまったく気にならなかったが、日本における30代女性の冷遇具合といったら…あまりにも露骨で呆れてしまうほど。

食事会やデートの誘いも20代半ばの頃と比べて段違いに減ったし、何より驚いたのは、口説いてくる男という男が既婚者だったことだ。

「嫁とは同居人みたいなもの」
「(妻子はいるけど)友里恵ちゃんが好きなんだ」

そんな卑怯な男たちによって、友里恵は幾度となく、男という生き物に幻滅させられた。

そして、昨年の冬。さらに友里恵を深く傷つける事件が起きた。


男という生き物に幻滅した友里恵。そしてついに、決定的な事件が起こる


ありえない出来事


あれは…忘れもしない、去年のクリスマス・イブのことだ。

当時、友里恵は随分と久しぶりにある男に恋をしていた。

友人の紹介で出会った同い年の彼・透(とおる)は、外資系投資銀行に勤めるエリート。しばらく香港に住んでおり、日本には最近戻ってきたばかりだと話していた。

繋いでくれた共通の友人を通じて身元は保証されており、彼が既婚者でないことは確認済である。

透は金融のエリートらしく、鍛えられた肉体とスマートな立ち居振る舞いを持ち合わせていた。毎晩のように飲み歩き、お腹周りに脂肪を蓄えた同僚に囲まれている友里恵の目に、彼は格段に見目麗しく、魅力的に映った。

何より彼は日本男子の価値観に染まっておらず、女性を年齢や職業で区別したりしない。

「物理的にも精神的にも、自立した女性が好きだ」と話す透に友里恵は一目で惹かれ、彼の方もわかりやすく好意を示してくれた。そして、二人だけで食事に出かけた夜、自然な流れで男女の関係になった。

その後も仕事の合間を縫ってはデートを繰り返し、友里恵の家で手料理を振る舞うこともあれば、彼の家に泊まり、一緒に週末のブランチを楽しんだりもした。

「付き合おう」などと改まって言われたわけではなかったが、「好きだよ」とは言ってくれたし、30代も半ばの男女であればそんなものだろうと思っていた。




「クリスマス・イブ、『アロマフレスカ』の予約取れたよ!」

久しぶりに“彼氏”のいるクリスマスに、友里恵は浮き足立っていた。

ウキウキとした気持ちを隠すことなく弾んだ声でそう透に伝えたとき、電話の向こうで一瞬…確かに妙な間を感じた。

しかしその違和感を、友里恵は確かめようとしなかった。

そんなことをして、せっかく楽しみにしているクリスマス・デートに水を差したくない。

「18時の予約にしたけど…仕事、終わりそう?」

昨年のクリスマス・イブは日曜だったが、透は仕事があるというので、夜に現地集合する約束になっていた。

「…ああ」

今となって思い返せば、彼の返事は明らかに生返事だった。

しかし恋する私は、それすらも気づかぬふりをしてしまったのだ。

そして、悲劇は起きた。

時刻通りに店に着いた私は、胸を高鳴らせながら透の到着を待っていた。

…が、待てど暮らせど彼は現れない。LINEも来ないし、こちらから送ったメッセージも既読にすらならない。

30分が経ち、スタッフが遠慮がちに確認にきた時にも、未だLINEは未読のままだった。

もう少し待ってみよう。あと、もう少しだけ…。そうやって、あっという間に1時間が経過した。

クリスマス・イブの夜、恋人たちが集うロマンチックな店内に、私だけポツンと待ちぼうけている。そんな自分の惨めさに耐えきれなくなった私は、強引に二人分の会計を済ませ、逃げるように店を出たのだった。

透は、クリスマス・イブのデートを、連絡もなしにすっぽかしたのだ。

なんで?どうして?

頭の中にはいくつもの「?」が途切れることなく浮かんだが、本人は未読スルーを決め込んでいて問い詰めることもできない。

共通の友人がいるにはいるが、あまりにも酷い仕打ちすぎて、自分が惨め過ぎて、他人に話すことさえ躊躇われた。

そしてしばらく経ったあとで、友里恵は、透に別の本命彼女がいたことを知る。

…その彼女がいつから存在したのか、どこの誰なのか、もう聞く気にもなれなかった。


クリスマス・イブにデートをすっぽかされた友里恵。そんな、傷心の彼女を癒したのは…


「アイドルは、私を傷つけない」


深い傷を負った友里恵は、その後しばらく家に引きこもった。

仕事のない日は朝からジムにだけ行き、その後はずっと家でNetflixや動画を見て過ごす。

そんな日々を過ごしていた、ある夜のことだ。

いつも通り動画を流し見している中でたまたま見つけた、とある韓流アイドルグループのプロモーションビデオ。

友里恵は、その中の一人が見せた極上の笑顔に、心を射抜かれてしまったのだ。




同じ経験をしたことのない人にはわかってもらえないだろうが、相手が目の前に実在してはいなくても、たとえ実際に触れられなくても、彼が歌って踊る姿にときめく気持ちはリアルな恋心と何一つ変わらない。

自分より10歳以上も若い、世にも稀有な美男子は、まず何と言っても美しい。当たり前だが現実世界で出会う中年男性とは、清潔感からして比較にもならない。

それでいて、これもまた仕事なのだから当たり前だが、アイドルはいつだって優しく、甘く、紳士的。友里恵を傷つけ、幻滅させてきた卑怯な男たちのような真似は、絶対にしない。

友里恵にとって彼は、恋の喜びだけ、美しい部分だけを与えてくれる、まさに理想の男性像そのものなのだった。

「痛い女だって笑われるに決まってるから、誰にも言いませんけど」と前置きをした後で、友里恵は独自の持論を展開する。

「もうこの歳になったら、美しいものだけを見ていたいんです。正直、別に男に頼らなくても生きていけちゃうし…。

センス良く整えた部屋で暮らし、美しい服を着て、美味しいものを食べ、美男子にときめいて生きていけたら幸せだわ」

一点の曇りもない表情で語る友里恵を見ていると、なるほど、そういう考え方もあるのかもしれないと思わされる。

…しかしながら続けて彼女が告げた言葉は、友里恵が過去に受けた傷の深さと痛々しさを物語っていた。

「だって、下手に恋愛をして、また卑怯な男に傷つけられて自分を消耗するくらいなら、美しいアイドルにときめいて毎日を楽しく過ごした方が、よっぽど前向きだし建設的なのよ」

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「常に3人の男が必要」と語る37歳女の本音