ー結婚の正解が知りたいー

未婚・既婚に限らず、「幸せな結婚とは?」と、頭を悩ませている者が多い現代。

妥協婚、事実婚、国際結婚、授かり婚、年の差婚など、多様性があるからこそ迷ってしまうのも事実。

未婚者は、自分にはどのスタイルが合っているのか。既婚者は、他の選択肢があったのではないか、と一度は考えるのではないだろうか。

結婚に「正解」があるとすれば、自分にとってのそれは何なのか?

結婚してしまった人も、これからの人も、色んな結婚のカタチをご覧いただこう。




File04:格差婚を選んだ女


名前:舞花
年齢:35歳
職業:専業主婦
パートナーの職業と年収:大手小売業 ・1,400万
結婚歴:7年
結婚のタイプ:格差婚

白金にあるシェラトン都ホテルの『ロビーラウンジ バンブー』に現れた舞花。

白い肌に、華やかな顔立ち。その美しさは遠くからでも目立つものの、装いの方は黒の膝下丈スカートに黒のニット。フラットなバレエシューズに、アクセサリーはパールのネックレスと、かなり控えめだ。

「あまり派手な服装をすると、浮いてしまうので・・・。受験を控えているため、普段からとにかくこの界隈で目立たぬように、浮かないようにと心がけております」

現在、5歳の息子がいる舞花。

夫である総二郎の家は祖父の代から小売業を営んでおり、舞花たちが住む白金高輪のタワーマンションも、彼の実家から援助してもらったお金で買った。

愛車は誰もが知る高級外車で、息子は私学受験を控えている。

これだけ聞くと非の打ち所がない“東京の勝ち組の暮らし”に聞こえるが、舞花の口からは意外な言葉が飛び出した。

「結婚してから、劣等感は増すばかり。今は良い暮らしができていても、過去だけはお金で買えないんですよね」


格差婚は幸せなのか?自分の育ちが足かせに


最初は、良かったのに。


埼玉のごく一般的なサラリーマン家庭に生まれ、東京の女子大へ進学した舞花。

そんな学生生活の中で、インカレサークルがきっかけで今の夫である総二郎に出会った。

総二郎は目立つ存在だったが、舞花の美貌に総二郎が食いつき、交際がスタート。

何度か喧嘩別れを繰り返してはいたものの、7年前に無事に籍を入れた。

「総二郎との結婚によって、一般家庭出身、卒業後は損保会社に勤務する普通のOLだった私が、東京のピラミッドの上位に食い込めたんです」

しかし、最初の格差婚の洗礼は両家顔合わせでやってきた。

「そもそも、結納をするかしないかでも意見が割れました。私の家族の方はしなくてもいい、と言っていたのですが、総二郎の一家は絶対にしなければいけない、と...」

当然のことながら、結婚式に関する意識も両家では大きく異なっており、結局総二郎側が多めに負担することで折り合いがついた。

しかしその際に、向こうの両親から”だから同じような家柄の子にしなさいと言ったのに・・・”と言われていた、と後日総二郎から聞いた。

それでも、結婚を機に仕事を辞め、悠々自適な専業主婦生活を送っていた舞花。

子供が生まれるまでは幸せに暮らしており、全てを手に入れたと信じていた。

「でも子供が生まれたことで、私たちの結婚の根底にあった“徹底的な格差”が浮き彫りになったんです」




慶應にあらずんば人にあらず


総二郎の一家は、義父はもちろんのこと、兄も妹も全て幼稚舎から慶應出身という、まさに生粋の“慶應一家”だったのだ。

「子供が生まれた時に、姑からごく当たり前のように言われたんです。“この子も慶應に入れるんでしょう?楽しみね”と」

もちろん受験を考えていなかった訳ではないが、まだ0歳児の息子に向かってその言葉を投げかけた姑に、舞花は驚きを隠せなかった。

さらに総二郎の家系では慶應以外の選択肢なんぞなく、入れて“当然”という空気が流れていたのだ。

息子の成長と共に、日に日に増すプレッシャー。

そんなプレッシャーと共に、舞花のコンプレックスも増していくばかり。

そしていざ受験シーズンになり、総二郎から言われた一言に、舞花は呆然と立ち尽くしたという。

「“舞花も大学からでもいいから慶應出身か、せめて東京出身のお嬢様だったら良かったのに”と」


埋められぬ育ちの格差、離れていく夫婦の心


しかしそれは、総二郎から言われなくても舞花自身が一番感じていたことだった。

表面的には受験の合否に“親の出身校は関係ない”と言われている。しかし一度不安を抱えてしまうと、たとえ眉唾もののネガティブな話でさえ簡単に否定できなくなってしまうもの。

地方出身で、且つ慶應に縁もゆかりもない人生を送ってきた舞花。

総二郎の一家から、そんな嫁に対して冷ややかな視線を送られているのは否めない。

「さすがに直接的に言葉にはしませんが、心の中では、向こうの一家からも“落ちたら嫁のせいだ”と思われているのは間違いないと思います」

そもそも、子供を慶應以外の学校へ進学させるという選択肢を与えられていない舞花。

子供が受かる確率が少しでも上がるならば、どんなことでもしてあげたいと思うのが親心だが、自分の家柄が至って普通で、且つ慶應出身でないことをここまで悔いる日がやってくるとは想像もしていなかったと顔をしかめる。

「私のせいで落ちたら、夫側の家族に顔を向けられません...私自身お受験とは無縁の人生を送ってきたので、ここまで大変だとは思ってもいませんでした」

その表情には、悲壮感が漂っていた。




しかし格差婚の悲哀はそれだけではない。

日常生活の中にも、格差は潜んでいる。彼の“普通”と舞花の“普通”の価値観は大きく異なっていたのだ。

例えばやたらと家族行事が多く、月に一回は向こうの両親と食事をするのがお決まり。またその際に子供が少しでもレストランでうるさくしようものならば、全て”家のことをする人”である母親の舞花の責任になる。

また幼い頃から頻繁に家族で海外旅行へ行っていた総二郎。一方で、海外へ家族旅行など数えるくらいしか行ったことのない舞花。向こうの一家の思い出話に、全くついていけない。

そしてずっと私学で育ってきた総二郎と、高校までずっと公立できた舞花。未だに私学受験に対して”本当に必要なのか”という疑問の念も拭えない。

また総二郎の実家に遊びに行けば毎回高価なテレビゲームを買ってくれるため、息子は舞花の実家の父母よりも、総二郎一家の方になついている。

そんな光景を見るたびに、心がチクリと痛くなる舞花。

「大好きな両親に対し、負い目を感じている自分も嫌なんです。でもこれが格差婚ですから、仕方ないですよね・・・」



-格差婚。

格差という言葉の中には様々な意味が含まれている。

収入だけではなく、今回のような育ちや学歴格差も夫婦にとっては埋められぬ溝となる場合も多い。

本人たちは良くても周りが放っておいてくれず、そこに引きずられるように、本人たちの関係が気まずくなる場合もある。

そんな雑音に惑わされず、どちらか一方が劣等感を抱くことなく幸せに暮らしていけるかどうか。格差婚を続ける秘訣は、そこにかかっているようだ。

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