ワークマンが立ち上げた新業態「ワークマンプラス」。店頭には低価格の機能性ウエアがずらりと並んでいる(撮影:大澤 誠)

作業服のワークマンが、驚くべき変貌を遂げている。現在も主力事業は作業服に変わりはないが、その延長線上で生まれたアウトドア用やスポーツ用のPB(プライベートブランド)が爆発的に売れているのだ。しかも、購入しているのは若者や女性を含めた作業服を着ない人たち。インスタグラムで「#ワークマン」と入れると、しゃれた写真がずらりと出てくる。

ワークマンの変化を実感できるのが、9月上旬「ららぽーと立川立飛店」にオープンした店舗だ。60坪と通常のワークマン店舗より4割ほど小さい店は、同社が2016年から展開している「アウトドア用」「スポーツ用」「雨用」のPBを扱っている。ネオンカラーのジャケットやランニング用インナー、バックパックが並ぶ様子は、一見、アウトドアの店かと見まがうほどで、言われなければワークマンの店とは気がつかない。

新店舗は初日にレジ待ちの長い列

その新業態「ワークマンプラス立川立飛店」は、熱狂をもって迎えられた。同社によると、オープン初日は30分のレジ待ち行列ができ、売り上げは通常店の開店セール記録を3倍近くも更新。その後も、平日売り上げは50万円以上、祝祭日は100万円以上と、当初の売り上げ予算を大幅に超える走り出しとなった。「(来客の)45%が女性で、45%がワークマンの店舗を初めて訪れる人」(同社の栗山清治社長)と、これまでワークマンと接点のなかった人が続々と訪れている。

同社の試算では、高機能ウエアの低価格帯市場はざっと4000億円。しかも、この分野には目下、目立ったライバルがいない。こうした中、今後も新業態を積極的に出していく考えで、11月には新業態を神奈川県川崎市と、埼玉県富士見市にもオープンする予定。今後1年で20店舗、早いうちに100店舗態勢を築き、200億円の売り上げを目指すとしている。


野心的な数字に見えるが、PBの販売額は著しく伸びており、2018年3月期は255億円と、チェーン売上高の約3割強に。中でも、アウトドア用の「フィールドコア」、スポーツ用の「ファインド-アウト」、雨用の「イージス」という3つのブランドの伸びは目覚ましい。3ブランドの売り上げは2017年3月期に30億円だったのが、前期は60億円に、今期は120億円と倍々ゲームの様相で増えており、「来期は200億円を狙える勢い」(栗山社長)だ。

それにしても、ワークマンのPBが、なぜ「普通の人」にそこまで売れるのか。1つは、作業着ならではの耐久性の高さや使い勝手のよさがある。作業服はさまざまな環境下で、連日、しかも長時間使うことを想定して作られている。あらゆる現場で「携帯が落ちにくいように」「水が入りにくいように」など細かな点も改良が加えられている。


ワークマンプラスの店内には、カラフルなバックパックやジャケットが数多く並ぶ(撮影:大澤 誠)

もう1つは圧倒的な価格の安さだ。撥水加工されている防寒ジャケットが2900円、中綿入りのスノーブーツが1900円、防寒カーゴパンツが2900円など、アウトドアブランドの製品と比べると、1ケタ違う安さだ。ワークマンによると、アウトドア向けはメーカー品の約半額、スポーツ品は約3分の1以下の価格を実現している。だが、向こう見ずに投げ売りしているわけではない。安く売れるには理由がある。

作業服はいったんメーカーを決めたらリピートする確率が高いため、毎年一定の売り上げを見込みやすいという特性がある。しかも、過酷な環境などで連日使うことが多く、「気に入った作業服を2、3着買う人もいる」(栗山社長)ため、大量に買われやすい。つまり、大量ロットで生産できるため価格を大きく抑えられるというわけだ。たとえば、オリジナルの作業着は年間で350万着、アウトドア用などの3ブランドも10万着単位で生産している。

作業服からなぜアウトドアに?

同社は目下、中国やベトナム、ミャンマーなどの工場で生産しているが、「一定の数が出る仕事があると、工場は工員さんにちゃんと給料が払えるし、とても安心。そのうえで、シーズン品が上乗せされても、それは別のお給料になる。工場が安心してやれるということは、値段の交渉もしやすい」(栗山社長)。

“本業”の作業服も好調だ。今期は、猛暑の影響で内部にファンが付いた作業服がバカ売れしたこともあって、売上高が前期比7.7%増の560億円、営業利益は同11%増の106億円になる見通しで、2011年3月期以降、8期連続増収増益となる公算。店舗数も右肩上がりに増えており、足元で826店、2025年には1000店舗を目指している。


とはいえ、栗山社長は就任当初から「作業服だけ作っていればいい」とは考えていなかった。それもそのはず。トップに就いたのはリーマンショックの翌年。当時の市場環境は最悪で、2010年3月期は2期連続の減益で終わった。先を見通しても、人口減に伴って、作業服を着て働く人口も減っていく。作業服の業態は全国に1500店舗ほどあると見らており、他社との差別化も含めて「普通の人にも買っていただける製品開発をしかないといけない」(栗山社長)と、2011年ごろからPB開発に力を入れ始めた。

しばらく「ワークマンベスト」という名の下でPBの開発を手掛けていたが、転機となったのが、雨用ジャケット「透湿レインスーツストレッチ」だ。通常作業服は、「昔でいえば、中学校を出てからずっと着るものだから、誰の体型にも合うように作られていた」(栗山社長)が、透湿レインスーツは、細身の人から3Lの人まで、それぞれの体型に合うように作られている。


ワークマンプラスの店舗には連日、多くの人が訪れる(撮影:大澤 誠)

しかも、価格は4900円(防水パンツ込み)。「ストレッチ素材のレインウエアというのはその当時もあったが、値段が(透湿レインスーツの)4、5倍した」(栗山社長)。屋外で作業をする人だけでなく、釣りや登山などをする人たちにも受け入れられ、累計45万着を突破する大ヒット商品になった。

その後も、別のレインジャケットや防寒ジャケットがバイクに乗る人に愛用されたり、「すべりにくい靴」が妊婦に話題になったりと、「作業服じゃない」使われ方が広がっていく。そのうち、従来のPBのくくりでは収まりきらないような製品の開発も進み、2016年に3つのブランドを始めるに至った。

都心に進出する可能性は?

“じゃない使われ方”が加速度的に広まる中で、同社でもさまざまな変化が起きている。

1つは、宣伝やマーケティングだ。その昔のCMを見ると、吉幾三さんがトラックの前で作業服を着ているが、最近放送したものでは、透湿レインスーツを着た若い男性がランニングやブレイクダンスをしている。また、春夏と秋冬、それぞれの商品展示会には男女問わずブロガーを招く。フォロワーの多いインフルエンサーの口コミの影響力は計り知れないからだ。

製品開発にも工夫を凝らす。もとより作業員の意見などを聞いて、製品の改良などを行っていたが、最近ではブロガーのツイッター上でのつぶやきや、バイクに乗る人たちなどの意見も大いに取り入れている。アウトドア用など3つのPBにはそれぞれブランドマネジャーを配置して製品開発に取り組むだけでなく、生産・品質管理も強化。女性の利用が増えていることもあり、女性でも使える男性商品の小さいサイズなども拡充していく考えだ。

出店場所も大きく変わる。ワークマンといえば、下記のマップのとおり、ロードサイドに強みを持つが、ワークマンプラスが狙うのは、ショッピングセンター(SC)やホワイトカラーが多い地域への出店だ。採算性の面からいって、都心に進出する可能性は高くないが、それでも「商圏が合えば、採算の取れるSCのほかに、集客性が見込める場所にも出していきたい」(栗山社長)。


関東のワークマン所在地(画像をクリックすると、拡大できます。制作:荻原 和樹)

現状、1店舗当たりの年商は約1億円。今後、計画どおり従来の作業服中心の業態で1000店舗を出すことができれば、売上高1000億円はおのずから見えてくる。が、栗山社長が見据えるのはその先、つまり次の1000億円だ。すでに、法人向けの取り組みを強化するなどして、1店舗あたりの売上高を1.5倍に増やす取り組みが始まっている。


ワークマンプラスの店内は、通常のアウトドア店と遜色ない内装だ(撮影:大澤 誠)

前期末時点でのワークマンの現預金額は381億円。自己資本比率は81%と、資金は潤沢だ。これまでも既存店のレイアウトや壁の色を変えるなどして、魅力向上に取り組んできているが、今後は売り場をより見栄えよくして、既存店でも新たな顧客獲得に力を入れていく。既存店にワークマンプラスを併設したり、あるいは業態転換を行うといった構想も浮上している。

さらにネット販売もカギを握る。ワークマンでは全商品をオンライン販売をしているが、売り上げに占めるネット販売比率は1%弱にすぎない。ワークマンプラスのような取り組みから知名度が向上し、これまで購入していなかった人がネットで買うようになれば、まだまだ上を目指す余地はありそうだ。

「脱作業服」は目指していない

足元の取り組みだけ見ていると、あたかも脱作業服を目指しているように映るかもしれない。が、実際はその逆だ。同社のコアはあくまでも安価で手に入る作業服。採算度外視で都心に進出して値上げしたり、カジュアル路線に舵を切りすぎることはいっさい考えていない。同社はフランチャイズ主体のため、大胆な路線変更は既存の加盟店に悪影響を与えかねないからだ。


ワークマンの栗山清治社長は、あくまでコアは安価に手に入る作業服だと主張する(撮影:田所千代美)

圧倒的な使い勝手のよさを低価格で主要顧客を維持しながら、その延長で新たな分野に切り込んでいく。だからこそ、新商品を開発するにも「ワークマンがあるから、気楽に、失敗しても大丈夫という気持ちで取り組んでもらっている」(栗山社長)。その安心感と自由さが、ひるがえって新しいアイデアを生んでいる。

ここへきて、業界では期待を込めて「ポストユニクロ」とも呼ばれ始めた。「さすがにユニクロとは1店舗当たりの規模が全然違う。だけど、製品を見ると、そういう意識をしてくれる人が増えているというのはいい刺激になる」と栗山社長は言う。「ただしうちでいちばん売れているのはカーゴパンツ。ユニクロにはそういう商品はあまりない。だから、そういう違いをもっと全面に出していけたらいい」。

低価格の高機能ウエア市場は、今のところ手薄かもしれないが、大手も含めて、今後、他社が強化・参入してくるのは時間の問題だろう。そのときに、本来の顧客や強みを見失わずに、コア事業に集中できるか。成長市場に突っ込むときこそ、ワークマンの真価が問われる。