沢田研二

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客席に黒い幕

 9千人の動員を見込んだ会場に7千人しか観客が入らないと聞いた。それを隠すために座席に黒いシートを張っていた。これじゃやってられないよ――ジュリーこと沢田研二の「さいたまスーパーアリーナ」公演ドタキャンの理由は、簡単に言えばこういうことになる。
 当然、この説明に対しては批判的な意見が多いのだが、一方で一定の理解を示す人も現れている。フジテレビ系「とくダネ!」の司会、小倉智昭は番組内で、

「大きな会場で客が入ってないと黒い幕で座席を全部、覆うんですよね。それって、見ていると気の毒でならない。特に栄光のある大歌手の場合は、かなりステージに立ってショックを受けると思う」

 とコメントした。

沢田研二

 絶頂期のジュリーを知る人ほど、「客席スカスカ」は傷つくよ、という感想を持つのだろうが、お笑いファンならば「7千人で文句は贅沢。0人のあの人たちを思えば……」と思うかもしれない。
 奇しくも同じ「J」を頭文字に持つお笑い芸人、ジョイマンは、2014年、東京・町田市内で開かれたサイン会で、「客が0」を記録。その様をツイッターに投稿したことが大きな話題を呼んだのだ。

ジョイマンは0人

 当時のことを、同じ一発屋芸人仲間の髭男爵・山田ルイ53世の取材に答えて、彼らは次のように語っている。イベンターとひと悶着があった、という点ではジュリーとも共通しているようだ(以下、「 」内は山田ルイ53世著『一発屋芸人列伝』より引用)。

「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞『一発屋芸人列伝』山田ルイ53世[著]

「『ちゃんと言ったんですよ!』

 ジョイマンの“高木ではない方”、つまり池谷和志が経緯を語り始める。
 彼の述べる“ちゃんと言った”とは、

『イベンターの方に「僕達がサイン会やってもお客さん来ませんよ」とお伝えしたんです!』

 との事前通告を指す。
 彼曰く、『保険を掛けた』らしいが、

『整理券50枚捌けてるんで大丈夫! 安心して下さい!』

 自信漲(みなぎ)るイベンター氏の一言で、目論見は失敗。1ミリもハードルは下がることなく、サイン会は決行された。
 勿論、2人も本心では客が来ないとは思っていなかった。50人の見込みが30人だったとしても気まずくならぬよう、予防線を張っただけである。
 しかし、蓋を開ければまさかのゼロ。
 誰も来なかった。『走れメロス』なら死人が出ている。
 芸人は話を多少“盛る”ものだが、彼らは本物。『5、6人しか来なかったけど、ゼロって言ってもいいか!』ではないのだ。
 添加物など一切ない、自然由来のオーガニックな“客ゼロ”である」

 この悲惨な体験から、彼らはツイッターで「客ゼロ」シリーズを投稿し、それが反響を呼んだことで、メディアの露出を増やすことができたというから逞しい。

意外と盛り上がるもの

「ジュリーとジョイマンを一緒にするな」という意見もあるだろう。しかし、実際のところ、「客席を黒い幕で覆う」のはさほど珍しいことではないのに、という声もある。ある音楽ファンの話。

「多分、ジュリーはいつもそれなりに恵まれた環境でやれていたんでしょう。熱心なファンがまだいますから。でも、最近では洋楽不況ということもあって、世界的なアーティストのライブでもガラガラなんてことは決して珍しくありません。
 数年前に行われたザ・フーのヴォーカルのロジャー・ダルトリーのライブでは、東京国際フォーラムの1階席すら埋まっていませんでした。2階は怖くて見られないほど。ザ・フーといえば、ビートルズ、ローリング・ストーンズに次ぐ存在ですし、しかも滅多に彼は日本には来ない。そのうえ、その時のダルトリーは、代表作の完全再現という触れ込みだったので、有名曲ばかり歌うこともわかっていた。それでもそんなものでした。おそらく本国のイギリスあたりでは考えられない状況でしょう。
 こういう時、気分を害さないか、客としてはハラハラするものですが、意外なほどの熱演でした。何となく申し訳ない気持ちになって、こっちも普段よりも熱く声援を送ったりするんで、結果としてはいいライブでしたよ」

 もちろん、最終的にはファンと当人の問題であって外野がとやかく言うことではないのだろう。もしも、これもまたジュリー、とファンが納得しているのならば問題はないのだ。
 参考までに、ジョイマンのラップをする方、高木晋哉の最近のツイッター投稿を最後にご紹介しておこう。

「沖縄花月3公演でした。1公演平均4人しかお客様がいませんでした。それはお笑いライブというよりも、まるでお客様1人1人の手のひらにそっと笑いを手渡していくような、そんな“平和で尊い儀式”のように思えました。証人は少ないかもしれません。でも今日あの空間にいた人は皆、本当に笑顔だったんです」

デイリー新潮編集部

2018年10月20日 掲載