中年太りは仕方がないと思い込むのはもったいない(写真:Flatpit / PIXTA)

ダイエットなどで話題の糖質制限だが、50代の人は必ず実践すべきだと提唱者の江部康二医師は語る。このたび『男・50代からの糖質制限』を上梓した江部氏に解説してもらった。

「糖質をとるほど死ぬ。脂質をとるほど死なない」

世界的な超一流の医学雑誌『ランセット』(英国)の電子版である「ランセット・オンライン」の2017年8月29日号に衝撃的な論文が掲載されました(※)。


この論文は、5大陸18カ国の13万5000を超える症例を対象とした大規模疫学前向きコホート研究です。食生活における炭水化物と脂肪の摂取比率により、全体をそれぞれ5つの群に分けて人々を約7年半にわたり追跡し、総死亡率の違いを調査したものです。

その結果、炭水化物(糖質)をたくさん食べている人ほど総死亡率が高く、脂肪を少なく摂っている人ほどやはり総死亡率が高いことがわかりました(「糖質制限」論争に幕?一流医学誌に衝撃論文)。

つまり、従来の糖尿病食・ダイエット食であり、健康に良いと信じられていた「低脂肪で高糖質」のカロリー制限食を摂っていると総死亡率が高くなるという結論になるわけです。つまり健康に悪いのは、脂肪ではなく糖質だったのです。

これは、従来の健康常識を完全に否定する結果であり、糖質制限の正しさを決定的に証明した研究だと言えます。まさに『炭水化物が人類を滅ぼす』(夏井睦医師の著書、光文社新書)であり、「糖質制限食が人類を救う」ことが証明されたのです。

(※)Dehghan M, Mente A, et al: Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study. Lancet. Nov 4; 390(10107): 2050-2062, Epub Aug 29, 2017.

このように、糖質をたくさんとると身体に悪いという研究結果が次々に出されていて、健康のためには糖質を制限することが必要だという認識はますます世界に広がっています。アメリカ糖尿病学会は2013年10月、「栄養療法に関する声明」において、糖質制限食を糖尿病治療食の1つとして地中海食などとともに公式に認めました。このことは日本の糖質制限食普及において非常に大きな援軍となりました。

そして、アメリカでも日本でも2015年には、食事中の脂質(コレステロール)の摂取基準を撤廃しているのです(「栄養」について知らない「栄養士」が多すぎる)。

ところで、なぜ糖質をとると身体に悪いのでしょうか。その理由の1つは、「酸化ストレス」にあります。

糖質を食べると血糖値が上がります。三大栄養素(脂肪、タンパク質、糖質)のうち、血糖値を直接上げるのは糖質だけなのです。そして、糖質摂取で血糖値が上がると、インスリンの分泌も増えます。糖質摂取による食後の高血糖もインスリンの過剰も、活性酸素を増加させ、ともに酸化ストレスを増してしまうので、人の身体によくないのです。

酸化ストレスとは、わかりやすく言えば「身体がさびること」です。

鉄が赤くさびてしまうように、身体の中の血管がさびていくのが酸化なのです。酸化ストレスとは、体内がさびやすい状態にあることなのです。

現在、酸化ストレスは、医学界で注目され、万病のもとではないかと疑われています。

がん、動脈硬化などの元凶となる酸化ストレス

そもそも人の身体は、酸化反応と抗酸化反応がバランスよく保たれていると、健康だと考えられています。しかし、高血糖があると活性酸素が発生して酸化反応が強くなります。そして、過剰な活性酸素は細胞を傷つけてしまうのです。

ただし、人が生きていくかぎり、活性酸素の発生は止められません。呼吸で酸素を取り込むだけである程度の活性酸素は出ますし、細胞がエネルギーを得るときも活性酸素は出ます。そこで、人の身体にはSOD(抗酸化酵素)による抗酸化反応というものがあります。またビタミンなどにより、抗酸化の働きが生まれ、活性酸素が悪影響を与える前にクリアします。

ところが、この大切な抗酸化反応も、高血糖や高インスリンなどにより邪魔されてしまうのです。たとえば高血糖があると、タンパク質にへばりつき、SODなどの酵素の働きを阻害したりするのです。

そして、酸化反応が抗酸化反応よりも大きい状態が、酸化ストレスなのです。酸化ストレスのせいで、人の身体にはさまざまな悪影響がもたらされてしまいます。

現在、酸化ストレスは、老化、がん、動脈硬化、アルツハイマー病、糖尿病合併症、パーキンソン病など、嫌な慢性病ほとんどの元凶ではないかと言われています。逆に、糖質を減らせば、がんやアルツハイマーなどの予防になる可能性が極めて高いということになるのです。

中高年になってくると基礎代謝も落ち、運動量も少なくなり、SODも減っていきます。年齢が上になればなるほど酸化ストレスに対応する力が弱くなるのです。

基礎代謝が落ちるということは、筋肉が減ってブドウ糖の取り込みが弱くなるということなのです。そのため血糖値が上がれば、さらにSODの働きが障害されます。

だからこそ、血糖値を上げない食事(糖質制限)が、中高年からの健康にはますます重要度を増すことになるのです。糖質制限は、酸化ストレスを減らすのです。

高血糖でAGEs(終末糖化産物)が蓄積する

もう1つ、糖質制限の有効性を理解するのに重要なキーワードが、「AGEs(エージーイーズ):終末糖化産物」です。

たとえば、10年間糖尿病で高血糖の状態にあった人が、最近になって糖質制限食を始めて血糖値が完全に正常になったとします。しかしそれでも、2年後に動脈硬化による合併症になるような場合があります。これは、血糖値の高かった10年間で生み出されたAGEsが、すでに動脈硬化を起こしており、血糖が正常になった後でも残ってしまうからです。この動脈硬化の存在が、合併症を引き起こしてしまうからです。

このように、かつての高血糖がずっと後に悪影響を及ぼすことがあり、この現象は「高血糖の記憶」と呼ばれています。たとえれば、現在は黒字の会社に、過去の大きな借金が残っているため、今も苦しまなければいけないのと同じです。

後々まで残り続けるAGEsの悪影響は、糖尿病の人にだけ関係のある話ではありません。まったく健康な人の場合でも、普通に糖質を食べれば、160咫dlを超える高血糖になることがあります。血糖値が高いほど、そして期間が長いほどAGEsは蓄積していきます。

今は健康体でも、毎日の食生活で知らないうちに全身の血管にAGEsをためてしまっている人が多くいるはずです。すでに50年以上も人生を送っている人ならば、誰でも、AGEsによって動脈硬化になるリスクがあるのです。

なるべく早く糖質制限を始め、AGEsの蓄積を止めるべきでしょう。

68歳でありながら肌年齢は52歳

皮膚の糖化度を測定すると、老化の具合がよくわかります。皮膚の糖化度が高いと、しわが多くなり明らかに艶(つや)がなくなりますが、これは皮膚が老化しているからです。

AGEsが蓄積して糖化度が進んでいると、これと同じことが全身で起こっているのです。AGEsは消えない借金のような存在で、新陳代謝で更新されることはありません。その量が多いほど老化が進んでいるわけです。

つまり、老化の元凶の1つはAGEs、糖化なのです。

たとえば、糖質制限を16年間続けている私は現在(2018年)68歳ですが、皮膚の糖化度を計測すると、52歳のレベルだと判定されています。糖尿病であることが発覚して糖質制限を始めた年齢(52歳)で老化が止まっていることになります。

ちなみに私は68歳という年齢ですが、歯は1本も抜けていませんし、身長はまったく縮んでいません。視力は良好で裸眼で『広辞苑』も読めます。夜間頻尿もなく、耳が遠くなることもありません。

いまでは私は、52歳で糖尿病になったことを、とてもラッキーだったと思っています。52歳でスーパー糖質制限食(「糖質制限でも痩せない!」にはこう対処せよ)を開始していなければ、68歳の今頃は、同年齢の男性並みに、歯が抜けたり、身長が縮んだり、聴力や視力が低下したり、夜間頻尿になったりしていたと思います。

このように、50代から糖質制限を始めれば、早いうちに老化を止められるのです。

なお老化の元凶のもう1つは、前述のように過剰な活性酸素による酸化ストレスです。こちらも糖質制限食で高血糖と高インスリン血症を防げば、活性酸素の発生が減るのである程度予防できます。

50代こそ糖質制限を始めるべき

私の経験上、糖質制限を始めるのに重要なのは50代です。50代ならば、まだ、老化物質であるAGEsは取り返しのつかないほどにはたまっていませんから、糖質制限でこれ以上の蓄積を食い止められるからです。50代ならまだ、間に合うのです。

しかし、これよりも高齢になると、かなりの量のAGEsがたまっており、老化が身体を蝕(むしば)んでしまっています。そして、いったんたまったAGEsはもう消えません。

つまり、50代で老化物質の蓄積を止められるかどうかで、その後の人生が決まると言っても過言ではないのです。50代こそ糖質制限を始めるべき時期なのです。

しかし、残念ながら、多くの中高年が糖質制限にあまり熱心でないのが現状です。

その理由はいくつかあるようです。

まず、特に男性に多いのですが、仕事が忙しすぎるという人がいます。たしかに、50代というと社会的な責任の重い世代ですから、健康を疎(おろそ)かにしがちになるのも無理からぬところがあるでしょう。

また、糖質制限に懐疑的な人もいます。これは女性にも多いのですが、健康情報に詳しいというタイプに多いようです。情報過多の現代では、糖質制限に関する誤解が蔓延していて(エビデンスなき「糖質制限」論争は意味がない)、その有効性を正しく認識していない場合もあるのです。

そして、最も多いのは、もう健康になることをあきらめているという人です。何度かダイエットに挑戦しては挫折を繰り返し、中年太りは仕方がないと思い込んでいる人のことです。そんな人は、年を取れば歯が抜けたり視力が落ちたりなどといった衰えが起こることも、仕方がないとあきらめています。高齢になれば老化するのは常識でしょうし、これは50代のほぼ全員かもしれません。

しかし、あきらめているのは、糖質制限のアンチエイジング効果を知らないからであり、いかにももったいない話だと思われてなりません。

50代は、人生の後半を幸せなものにできるかどうかの分岐点です。糖質制限の道へと進むことを決断していただきたいと願っています。