社会問題を斬ろうとする意識はない。『HUGっと!プリキュア』制作陣が伝えたいメッセージ

プリキュアシリーズの最新作『HUGっと!プリキュア』に、シリーズディレクターとして佐藤順一が参加すると聞いて、驚いた。佐藤といえば『美少女戦士セーラームーン』や『おジャ魔女どれみ』など、数多くのヒット作を世に送り出してきた名クリエイターだ。その彼が、約15年ぶりに「ニチアサ」に帰ってくる。今の子どもたちに向けて、どんなメッセージを送ろうとしているのか。興味津々で、番組の放映開始を待ち構えていた。

その結果は予想以上だった。子育てやいじめ、ジェンダー問題、そして出産など、随所に織り込まれたビビッドな問題意識。そして佐藤らしい、コミカルなギャグシーン。15周年らしく、これまでのプリキュアがあちこちに顔を覗かせるお祭り感は、もうひとりのシリーズディレクターである座古明史――『プリキュア』シリーズに演出として関わり続け、また『フレッシュプリキュア!』ではシリーズディレクターを務めた彼の「プリキュア愛」があるからこそ、表現できたものだろう。

作品の企画段階から関わり、全体のコンセプトや方向性を決めるプロデューサーの内藤圭祐とともに、シリーズを統括する佐藤、座古のふたりのシリーズディレクターに、この野心的な『HUGっと!プリキュア』の舞台裏を聞いた。

撮影/石沢真実 取材・文/宮 昌太朗 制作/アンファン

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佐藤順一(さとう・じゅんいち)
1960年生まれ。愛知県出身。アニメーション監督。代表作に『きんぎょ注意報』、『美少女戦士セーラームーン』、『おジャ魔女どれみ』、『ケロロ軍曹』、『カレイドスター』、『ARIA』シリーズ、『たまゆら』シリーズなど多数。

子ども向け作品のノウハウを、将来を担うディレクターに継承したい

『HUGっと!プリキュア』ではシリーズディレクターとして、佐藤さんと座古さんのおふたりが連名でクレジットされています。佐藤さんが東映アニメーションでお仕事されるのは、久しぶりですね。
佐藤 そうですね。『おジャ魔女どれみ』以来になるんじゃないでしょうか。
内藤 東映アニメーションでは、編成課と相談しながら、シリーズディレクターを誰にお願いするか決めていくんですが、『HUGっと!プリキュア』の企画が立ち上がってすぐのタイミングですね。編成課の課長と佐藤さんがお酒を飲む機会があって。その席にお邪魔したんです。
佐藤 あれがそうだったの?(笑)
内藤 そうなんです(笑)。その席で課長が佐藤さんにふわっと、「プリキュアとか興味ありませんか?」と感触を聞いたんです。しかも佐藤さんの答えが「もう一度、子ども向けの作品を東映アニメーションでやるのは、やぶさかではない」みたいな感じで。
佐藤 なんとなくイヤな予感はしていたので、何か頼まれても断る気満々でいたんです(笑)。ただ「子ども向けの作品はどうか」と言われると、そろそろ先も見えてきたことだし、もう1回くらいやっておきたいな、と。
内藤 その日はそんな話で終わったんですが、後日、課長から「もし佐藤さんにお願いできるとしたら、どう思う?」と聞かれたんですね。僕としては、願ったり叶ったりというか、なんならぜひ勉強させていただきます、と。あと佐藤さんにシリーズディレクターを引き受けていただけるなら、『キラキラ☆プリキュアアラモード』と同様、シリーズディレクター二人体制でいきたいと思ったんです。
それはどうしてなんでしょう?
内藤 佐藤さんの考え方であるとか立ち居振る舞い、あとは仕事の進め方。そういうものを、今後、東映アニメーションを担っていく演出家に継承できれば、と。そこが発端でしたね。
佐藤 たしかに『おジャ魔女どれみ』を作っていた頃までは、東映アニメーションの中で積み重ねてきたもの――それこそ「子ども向けって、こういうふうに作る」みたいなノウハウが引き継がれていた感じがあったんです。でも、それがどこかで切れてしまったような印象があって。そこをもう一度、伝える作業ができたらいいかな、というのはありましたね。
座古明史(ざこ・あきふみ)
1975年生まれ。茨城県出身。アニメーション監督。東映アニメーション所属。演出作品に『ふたりはプリキュア』『Yes!プリキュア5』『Yes!プリキュア5GoGo!』など多数。シリーズディレクター担当作品に『フレッシュプリキュア!』『トリコ』など。
では、具体的にプリキュアの最新作で、という話を聞いたときの印象は?
佐藤 「プリキュアかぁ〜!」と思いました(笑)。ただ、ひとりでプリキュアのシリーズディレクターをやるのは無理なんですけど、それを現場で受け止めてくれるディレクターがいれば、やる価値はあるな、と。だからやると決めるまではわりと、時間がかからなかったと思います。
座古さんは『フレッシュプリキュア!』で一度、プリキュアシリーズのディレクターを担当されていますよね。佐藤さんが参加すると聞いて、どんなふうに受け止められていましたか?
座古 ぜひやらせてください、と。まったく迷いはなかったですね。僕が東映アニメーションに入って、最初に参加したのが『も〜っと!おジャ魔女どれみ』の演出助手で。ずっと尊敬の対象でしたからね。
内藤圭祐(ないとう・けいすけ)
1983年生まれ。東京都出身。アニメーションプロデューサー。東映アニメーション所属。これまでに『魔法つかいプリキュア!』、『映画 キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』のプロデューサーを務めた。
ふたりがこれまでに、一緒にお仕事をされたことはあるんでしょうか?
座古 『おジャ魔女どれみナ・イ・ショ』の第7話(「タイヤキダイスキ!〜親子のないしょ〜」)は、佐藤さんが絵コンテで、僕が演出をしたエピソードで。とはいえ、そのときは直接、顔を合わせる機会がなかったんです。なので、佐藤さんと一緒に仕事ができるのであれば、なんでもやります!くらいの気持ちでした。
おふたりの役割分担は、どんな感じになっているんでしょうか?
座古 基本的に、東映アニメーション内のこと(コンテ、作画、美術など)は僕が見ていて、佐藤さんにはシナリオ作業と、あとはアフレコやダビングといった音響まわりをお願いしています。ただ、なかなかうまくいかないことがあると、すぐにお呼びして「助けてください!」って相談したり。
佐藤 それこそ国際救助隊みたいな(笑)。
座古 本当にそんな感じですね。

社会に対して感じることが、物語にも入ってきているのかも

『HUGっと!プリキュア』の主人公は、中学2年で転校してきたばかりの野乃はな。ある日、未来からきた不思議な赤ちゃん「はぐたん」と出会う。中学生なりに一生懸命はぐたんのお世話をしながら、敵対組織「クライアス社」からはぐたんを守るため、プリキュアに変身して戦うことになる。「子どもを守り育てる母の姿」と「戦うヒロイン像」を重ね合わせたモチーフとなっている。
今回の『HUGっと!プリキュア』は大きなモチーフとして「子育て」を扱っています。どういった経緯で「子育て」を取り上げることになったんでしょうか?
内藤 プリキュアシリーズの重要な要素のひとつに、なりきり玩具との連携があるんですが、次はどんなコンセプトの玩具でいくのか。そして、番組としてはどんなことをやりたいのか。企画の初期段階ですり合わせをするんです。そのときに僕らが考えていたのが「お仕事」という要素と「15周年」。歴代のプリキュアが登場するような、お祭り感のあるエピソードがあるといいかな、という話をしていたんですね。

その一方で、玩具では「子育て」というか「お世話」をやりたいという提案があり。直近で言うと『魔法つかいプリキュア!』でも「お世話」要素はあったんですが、あれはあくまで妖精のお世話だった。今度は赤ちゃんのお世話でいきたいと。そうやって両者のやりたいことをすり合わせた結果、今の形になったという感じです。
「子育て」をモチーフにすると聞いたときの印象は?
佐藤 まず最初に、それは『どれみ』でやったな、と思いました(笑)。
座古 そうでしたね(笑)。
佐藤 僕らが入ったときには、もうすでにシリーズ構成の坪田(文)さんとプロデューサーのあいだで、かなりしっかりと練り込まれていたんです。なので、こちらから「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」と提案することはなかったですね。ただ最初に「子育て」と「お仕事」と「15周年」という3つの柱があったときに、それをどう有機的に、物語に組み込んでいくか。何かを主軸に据えると、どうしてもほかの要素がうしろに下がってしまうところがある。そこは悩みどころでした。
「子育て」の描き方について、どんなところに気をつけていますか?
佐藤 「子育て」を扱うとき、ややもするとお母さんは、子どもに対して100%、無償の愛を注ぐ存在である、という描き方になりがちなんです。お母さんはスゴいよね、と。でもそれは今の時代的には、お母さんにプレッシャーをかけることにもなりかねない。それは間違っているよね、と。とはいえ、そこはすでに坪田さんの脚本の段階ではっきりと意識されていたので、そこに対してあえて僕らのほうから、何かつけ加えるようなことはなかったです。
座古さんはプライベートでも、お子さんが生まれたばかりだそうですが、自身の子育ての体験が、劇中に反映されていたりはするんでしょうか?
座古 劇中で、はぐたんが泣いたりすると、自分の子どものことを思い出して、家に帰りたくなります。それはさておき(笑)、ちょうどはぐたんの成長が、僕の子どもの成長をリアルタイムで追いかけていく感じだったんです。今はもう、はぐたんが先に追い越してしまいましたが(笑)、やっぱり単純に「この時期の赤ちゃんはこういうことをするよね」とか「こういうことを嫌がるよね」とか。あるいは、大人としてこういう赤ちゃんの扱いは、感覚的にやりたくないな、とか。そういう部分は自分で子どもを育てていく中で、自然と醸成されてきた部分です。そこは今回の作品にフィードバックされているかな、と思います。
野乃はな/キュアエールは、薬師寺さあや/キュアアンジュと輝木ほまれ/キュアエトワールという仲間を得て、物語は「未来の破滅を目的とするクライアス社」と「皆の未来を守るプリキュア」の戦いをベースに進む。けれど、単純な善と悪の対立構造では描かれていない。

敵対組織・クライアス社は“ブラック企業”を想起させる存在として描かれ、“社員”として登場する敵が組織を抜けるドラマにもスポットが当たる。とくに、敵だったルールーがプリキュアに変身を遂げるまでのドラマは前半の大きな見どころ。
社会における男女の役割の変化を反映した描写も見られる。第19話では、若宮アンリという中性的なキャラクターがファッションショーでドレスを着るシーンがあり、はなはアンリに「男の子だってお姫様になれる」というエールを送った。
第27話では、はなのクラスの内富士先生が、もうすぐ生まれる子どものために父親修行をする姿を追った。出産シーンまでしっかりと描き切り、「子育て」を男性の視点からも捉えている。

どのエピソードにも、「なりたい自分になる」というテーマが貫かれている。
第27話「先生のパパ修行!こんにちは、あかちゃん!」では、父親の目線から出産が描かれています。ほかにも、若宮アンリのエピソードではジェンダーの問題を扱うなど、社会的な問題を劇中で扱うことも多いシリーズだと感じるのですが、どのくらい意識的に取り込んでいるのでしょうか?
内藤 意識して、現代社会に存在する問題を斬っていこうとは思っていないです。ただ、各々が感じているであろう世の中に蔓延する不寛容さ。それがもう少しよくなるといいかな、くらいの感じはあるのかなとは思いますね。アンリ君のジェンダーの問題にしても、よく「画期的だ」と言われたりするんですけど、ことさら「ジェンダー問題に斬り込もう」と思っていたわけではなくて。
佐藤 そうですね。大上段に構えて、斬り込もうと思っていたわけではないです。ただ、『HUGっと!プリキュア』がターゲットにしているのは未就学の子どもたちで、その子たちが大人になっていくあいだに体験するであろうこと、そこに対して、何かヒントになるものが提示できればいいのかな、と思っているんです。
なるほど、あくまでヒントなわけですね。
佐藤 社会を見たときに、自然と「こうあればいいのにな」と思うことって、世の中にいっぱいあると思うんですよ。特に昨今は、よく話題になることでもあるし、自然と耳にも入ってくる。もちろん、僕らが作っているのはアニメなので、避けて通っても構わないんです。ただ、自然に物語の中に入れ込むことができるのであれば入れていけばいいのかな、と。そんなスタンスですね。
座古 そうですね。先ほど佐藤さんもおっしゃっていましたけど、「子育て」というと何かと女性の役割ばかりがピックアップされるところがあって。ただ、今の社会は核家族化が進んでいるわけで、もっと社会的な子育てみたいなものができたらいいのにな、と思ったりする。そうやって、社会を眺めたときに普段の僕たちが感じていることが、やっぱり少しずつ入ってきてるんだと思います。

いじめそのものよりも、どう乗り越えるかを描く

「子育て」というモチーフを選んだ結果、そこに関連する社会的な問題も、自然と描くことになった。もうひとつ、主人公の野乃はなは、かつていじめを受けていたという背景を持ってますよね。これはどこからきた発想なんでしょうか?
佐藤 キャラクターを作っているときから、坪田さんのイメージの中にはすでにあったんです。ただ最初の頃は、それをどういうふうに物語で描いていくのか、わからなかったんですよね。物語が進むにつれて、だんだんと「ああ、そういうことだったのか」とわかってきたというか。もちろん、いじめもジェンダーの問題と同様、子どもたちがどこかで通るかもしれない道ではあって、であれば避けないでやっておこうかな、とは思ってました。
いじめのようなセンシティブな問題を扱うときは、どれくらいのリアリティで取り組むべきか、頭を悩ませそうですが……。
座古 難しいですよね。
佐藤 たしかに、やろうと思えばどこまでも深く見せられますからね。ただ、子育てのエピソードでも、たとえば「母親のくせに子どもの面倒を見ないとは何事だ」っていうお父さんを出せば、話はわかりやすいんです。でも、それは不快なので、たぶんやらない。いじめにしても同様ですね。やろうと思えば、どれだけでも不快な表現はできるんだけど、むしろはながさあややほまれとそれにどう向かい合って、どう乗り越えていくか。友達がいたから力強く前に向かって歩いていけるよね、と。
第31話では、はなが過去にいじめられていた理由が明かされた。いじめの原因となった同級生と再会して動揺するはな。傷ついたはなの心を受け止める、さあやとほまれ、そして仲間たち。過去は消せないけれど、前に進むことはできる。
いじめそのものよりも、そこを描くほうが重要なわけですね。
座古 見ていてイヤな画面にならないように、どうすればいいのかっていうのは、プリキュアに限らず、子ども向けの番組では一番気にしなきゃいけないことだと思っているんです。
他には、どんなシーンで注意されているのでしょうか?
座古 とくにプリキュアはその中でも、バトルシーンがある作品なので、それがいかに気持ちよく見えるか。あくまでもスポーツの一環のように見えるというか、弱い者いじめに見えてはいけない。そこは一番、神経を使わなきゃいけないところだなと思ってます。
佐藤 バトルシーンに関しては、座古君がいてくれて本当によかったなと思いますね。僕はプリキュア初心者なので、どのくらい戦えばいいか、よくわからずにやってるところがあるんです。それこそ「頭を殴るとは何事だ!」とか、よく叱られているので(笑)。
座古 いやいや(笑)、叱ったことはないですよ。
佐藤さんにとってプリキュアは新鮮な経験だったんですね。
佐藤 そうですね。
座古 でも佐藤さんも、子どもたちが見ていてイヤな気持ちにならない画面をどう作るのか、という部分をすごく気にされていて。頭を殴る描写にしても、絵コンテではポコポコとコミカルに殴ってたりしてるんです。表現方法は違っても、気にしているポイントは一緒なんだな、とよく感じます。
あくまでも子どもたちが観るモノという視点が大切なわけですね。
座古 ややもすると、ヒーローが悪役に見える瞬間ってあるんです。プリキュアに限らず、「それは悪役のセリフだよね」とか「それって悪役の立ち居振る舞いだよね」ってところが、油断しているとふと出てきたりする。自分自身もよく罠にハマるので、あとで振り返って、ヘンな汗をかいたり。あまりの仕事の不出来具合に後悔で泣いたりしますね、プリキュアは。

シリーズ構成・坪田 文の、練り上げられたキャラクター造形

先ほど、はなのキャラクター造形の段階から、坪田さんのイメージの中には「いじめ」のバックグラウンドがあったという話がありましたが、そもそも坪田さんにシリーズ構成をお願いしようと決めたきっかけは、どこにあったんでしょうか?
内藤 プリキュアは毎年、「プリキュア」という看板は掲げながらも、テイストだったり方向性は変えていこうという方針でやっています。『HUGっと!プリキュア』の企画が動き始めるときに、僕が以前プロデューサーとして関わった『魔法つかいプリキュア!』とは、ぜんぜん違う方向性がいいなと。『魔法つかいプリキュア!』は極力1話ごとに物語が完結し、1話ごとに楽しく、気持ちよく観終わることができて、しかもどのエピソードから観てもいい。そうしたお話の積み重ねのようなテイストのシリーズにしようと考えていたんです。
それとは違うものをやろう、と。
内藤 そうですね。次にやるなら大河モノというか、一本大きなストーリーの軸があって、リアリティというかさらに人間ドラマに踏み込んだものができたらいいな、と。そのときに真っ先に頭をよぎったのが、坪田さんだったんです。坪田さんは『魔法つかいプリキュア!』でも各話脚本で入っていただいたんですが、初稿の段階から完成度が高い脚本だったんですよね。
どのあたりが「うまい」と思われたポイントなんでしょうか?
佐藤 僕は今回、初めてご一緒したんですけど、最初はやっぱり、「ドラマの人だな」という印象でした。はなのキャラクターを例に挙げると、かなり最初の段階から「はなってこういう子なんだ」というのがあって、書き込まれている印象があるんです。

いじめのエピソードにしても、最初からすでにキャラクターのイメージの中に織り込まれていて、のちに「あっ、そういうことだったのか」と吸収できる。しかもそれを、アニメの引き出しじゃないところ――それこそ実生活だったり、舞台とか映画、ドラマからもってくる。たぶんその引き出しの数がすごく多くて、意外と見慣れないものが出てきたりするんですけど。
なるほど。
座古 だからヘンな話ですけど、僕たちが理解しきれていないところが、すべてのキャラクターにあるんですよ。後になって「あれって、そういうことだったのか」と思わされることが、ちょこちょこある。
そういう意味では、どのキャラクターも深みというか、難しさがある。
座古 それはたとえば、アンリ君のキャスティングにしてもそうです。ああいう中性的なキャラクターの場合、可愛らしい女性の声を当てたり、男性の場合でも中性的な声の方をキャスティングすることが多いんです。でも、坪田さんは低い声の男性でいきたい、とおっしゃっていて。実際、後のエピソードで「自分が成長してしまって、声が変わってしまったことがつらい」という話が出てくる。それを聞いて、ああ、そういうことだったのかと。
坪田さんの中では、もうすでに低い声で話してるアンリ君がいたわけですね。
佐藤 似たようなことですけど、同じセリフでも読み方ひとつで、まったく真逆の意味になったりする。しかもそれをいちいち、ト書きで説明したりもしていないので、しっかり脚本を読み込んでおかないと間違うことがある。アフレコも含めて、芝居づけに関してはいつもよりも神経を使ってますね。

『HUGっと!プリキュア』で抱いた感情が、一歩踏み出すときの勇気になれば

芝居づけについて、とくに印象に残っているエピソードはありますか?
座古 第22話は僕がコンテを担当した回なんですけど、クライアス社の社員のひとり・パップルさんが、上司に裏切られたショックでモンスター化して、プリキュアたちが対峙するという場面があったんです。

モンスター化してしまった原因である傷ついた心を解くために、プリキュアがパップルさんを説得するというか、気持ちを伝えようとするんですけど、僕としては「プリキュアは、言いたいことをまっすぐに、バーンと伝えるもんなんだ」と思っていたんです。でも佐藤さんが「それだと上から目線になっちゃうよね」と。それでアフレコが一旦、ストップしたんです。
セリフの言い方ひとつでニュアンスが変わってしまう。
座古 そもそも『HUGっと!プリキュア』は、善と悪という立ち位置で描いていないし、相手の気持ちに寄り添おうと思っていたら、そういう芝居にはならない、と。しかもその回には初代のプリキュアのふたりが出ていたので、西尾(大介)さん(『ふたりはプリキュア』のシリーズディレクター)もアフレコにいらっしゃっていたんです。で、西尾さんも言葉は違うんですけど「一所懸命、相手に伝えようとしてください」とディレクションをされていて。そのことに、もう衝撃を受けたんですよ。一体俺は何年、演出の仕事をしてきたんだと(笑)。
佐藤 そんなにへこんでたとは知らなかった(笑)。
内藤 佐藤さんと西尾さんに挟まれたら、もうしょうがないというか(笑)。
座古 ヒーローとしてカッコよく言い放つのか、それともパップルの気持ちに寄り添って、一所懸命伝えようとするのか。たったそれだけの違いなんですけど、ぜんぜん違うんです。
では最後に、今、『HUGっと!プリキュア』を観ている子どもたちに向けて、どんなメッセージを伝えたいと思っていますか?
座古 子ども向けの作品として「こうあってほしい」というのは、いつも明確なんです。やっぱり「人間っていいよね」と。大変なこともあるかもしれないけど、なんとか生きていける。人間は美しいし、世界は美しいんだよ、と。そこが伝わるといいなといつも思ってます。
佐藤 最初にもちらっとお話したんですけど、『HUGっと!プリキュア』で初めて体験することって、きっとあると思うんですよ。友達にこういうことをしてもらったら嬉しいとか、逆にこういうことをしたら悲しむよな、とか。そこはあまりヒネらずに伝えていく。極端なことを言えば、悪いことをするとバチが当たる(笑)。今の世の中だと、そういうことってなかなか言いにくいじゃないですか。子どもだって、成長すれば「そんなわけないじゃん」って、すぐに気づく。でも、そこをちゃんと表現しておくのは大事かなと思っていますね。
内藤 『HUGっと!プリキュア』では、自己肯定感を表現したいというところもあるんですよね。プリキュア15周年のPVがあるのですが――今、20歳くらいの女の子が、ちょっとへこんだときに初代プリキュアの姿が頭をよぎる、というような内容だったんですけど。今、『HUGっと!プリキュア』を観てくれてる子どもたちが、それくらいの年頃になったときに、ふと『HUGっと!プリキュア』を観てたときに感じた喜怒哀楽だったり、自己肯定感を思い出してくれたらな、と。それが何か一歩踏み出すときの勇気になればいいな、と思います。

「『プリキュア』15周年」特集一覧

アニメ情報

『HUGっと!プリキュア』
毎週日曜日朝8時30分よりABC・テレビ朝日系列にて好評放送中
http://www.toei-anim.co.jp/tv/precure/
©ABC-A・東映アニメーション
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
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