10月14日から世界選手権3次ラウンドを戦う全日本女子バレーチームの中で、石井優希(アウトサイドヒッター)が存在感を増している。とくに2次ラウンドでは、多くの試合で途中出場から流れを変える活躍を見せ、同大会で8年ぶりのメダルを狙うチームの”救世主”になっている。


途中出場で何度もチームを救う活躍を見せる石井

 現在27歳の石井は、サーブレシーブもこなす180cmのパワーヒッターとして早くから期待されていた。しかし、なかなか全日本のスタメンに定着できず、2012年ロンドン五輪後には主力になれるチャンスが何度かあったものの、2016年リオデジャネイロ五輪の最終予選でも途中出場が主になった。

 コートに入れば活躍するため、かつてのプロ野球選手になぞらえて「8時半の女」と言われることも。それについて当時の石井は「(「8時半の女」と呼ばれるのは)正直、悔しいです」と表情を曇らせていた。また、サーブレシーブを免除された”打ち屋”としての起用も、「オールラウンダー」を自負する石井にとって悔しさが募ることだった。

 リオ五輪ではスタメン出場が増えたものの、チームは5位に終わり「何もできなかった」と振り返った石井。次なる目標を東京五輪出場に定めた2017年、所属する久光製薬スプリングスで監督を務めていた中田久美が、全日本女子の監督に就任した。

 中田を慕っていた石井にとっては、恩師の期待に応える最大のチャンスとなるはずだったが……”中田ジャパン”の船出となったワールドグランプリは3次ラウンド以降にメンバーから外れ、中田監督が2017年度の「もっともプライオリティが高い大会」と位置づけていたアジア選手権のメンバーにも選ばれなかった。

 気持ちが優しく生真面目な石井は、監督から言われたことを真正面から受け止める。そんな性格からか、自分のプレーがよくなかったり、スタメンで起用されなかったりすると落ち込んでしまう場面もあった。試合中も、サーブレシーブで崩されると、それがスパイクにまで影響して決定率が落ちる”弱さ”があったため、中田監督は石井を外す選択をしたのだろう。

 代表を離れたことでまた落ち込んでしまってもおかしくなかったが、石井は2017-18シーズンのV・プレミアリーグで奮闘した。得点源である石井は、サーブで狙われることが多かったものの、しっかり受けきって勝利に貢献。チームを優勝に導き、攻守にわたる活躍が評価されてリーグMVPに輝いた石井は、今年4月に全日本に復帰した。

 ネーションズリーグ、アジア競技大会を終えて世界選手権を迎えてもなお、全日本での石井の立ち位置は微妙なままだった。中田監督は、守備面で絶対の信頼を置く新鍋理沙、攻守にオールマイティーな古賀紗理那、そしてエースとして期待がかかる黒後愛を中心に1次ラウンドの戦いをスタートさせた。

 1次ラウンドの5試合で石井がスタメンを張ったのは、”格下”との対戦になった第3試合のメキシコ戦、第4試合のカメルーン戦のみ。20歳の黒後、22歳の古賀が主力を担う状況に悔しさもあったというが、石井は決して下を向かなかった。

 チームの危機を救う場面がやってきたのが、2次ラウンド初戦のドミニカ戦。日本は2セットを先取しながら続けて2セットを落とし、フルセットに持ち込まれた。その第4セット終盤、劣勢の状況で黒後に代わって投入された石井が気を吐いて差を縮め、チームは勢いを取り戻した。

 コーチから「5セット目、スタートでいくよ」と伝えられて「チャンスをモノにしたい」と気持ちを奮い立たせた石井は、サーブで相手のレシーブを崩して連続得点を奪うなど、完全に日本のペースに持ち込む。サーブレシーブも安定し、2段トスもしっかりと打ち切ってドミニカを振り切った。

 3次ラウンド進出のための大事な試合になる強豪のセルビア、ブラジルとの試合でも石井は途中出場し、そのまま最後までコートで戦った。「途中出場でも自分の役割を果たせればいい」と気持ちを切り替えた石井は、「今ではもう、途中から入るほうが”ラッキーガール”になれると思っています」と頬を緩ませた。

「欲を言えばスタメンで出たいですし、その気持ちは忘れないようにしたいです。でも、こだわりすぎないようになりました。いろんなことをネガティブに考えることが多かったのが、今は割り切れていると思います。たとえばサーブレシーブに関しても、直接失点をしないように心がけています。セッターにきちんと上げられるのが理想ですが、そうじゃなくても『自分で決めにいく』くらいの気持ちでいます。

(黒後)愛や(古賀)紗理那については、すごいなと思いますし、悔しい気持ちもあります。だけど、そういう感情は試合が始まったら余計なこと。とにかく、彼女たちにはできない自分が輝けるプレーをやりきろうと決めました」

 今年4月のチーム始動時、中田監督は石井について「彼女にとって、今年は正念場になるでしょう」と、厳しい表情で話していた。しかし、2次ラウンド終了後にあらためて石井の印象を聞くと、満足そうな笑顔でこう答えた。

「今大会、チームの状態がよくない場面での投入で、何度も貢献してくれている。とても大きいですね」

 黒後・古賀のダブルエースに注目が集まる中で、しっかりとチームを支えているラッキーガール。日本が3次ラウンドを勝ち抜くために、強くなった石井のさらなる活躍が期待される。