バンコク、チャオプラヤ川沿いのオールドタウン

写真拡大

 昨今、若者の貧困が問題になっているが、それは国内だけではない。一昔前ならば、能力も経験もない若者がアジアに進出して一旗揚げるという話を耳にしたが、現在はアジア諸国も物価が高くなって、在住の日本人が貧困にあえぐケースも増えているという。
 今回話を聞いたのは、物価が安いイメージがあるタイ、バンコクでフリーネイリストとして活動するマユミさん(仮名・28歳)だ。

◆豪華な暮らしをする友人に憧れてタイに移住

「地元・名古屋の美容専門学校を卒業したあと、美容室に就職したんです。月収は20万円弱で始めはやる気もあったんですが、長い労働時間のためか身体を壊してしまい、うつ病を発症してわずか2年で退職しました」

 以来、実家に引きこもる日が続いていたが、そんな彼女に転機が訪れる。学生時代の友人から、「いまタイに住んでいるから遊びに来ないか」と誘われたのだ。

「仕事もしていないし軽い気持ちで遊びに行ったら、がっつりハマってしまったんです。夜遊びできるところやオシャレな店もたくさんあって、しかも物価も安くて最高だと思いました。さらに驚いたのは友人の住んでいたマンションです。プール付きのきれいなアパートでしかも家賃は7万円、私もこんな生活をしてみたい!と思いました」

 マユミさんは帰国すると早速タイに住む準備をした。そしてバンコクの日系美容室に履歴書を送り、晴れてバンコクでの就職が決まった。が、タイでの生活はマユミさんが想像していた華やかなものではなかった。

「月収は4万バーツ(約14万円)でしたが、物価も安いし昇給もあるので問題ないだろうと思っていました。でも、現実は違いました。旅行のときはあえて安い市場や屋台で服や食べ物を買っていたのですが、実際住んでみるとそうはいかない。勤務先は駐在員の奥さんなどが来店する高級美容室なので、さすがに汚い服装はできず服は無理してショッピングモールで買っていました。それに同僚達や日本人の友人と飲むときは大体、日本式居酒屋に行くので食費も日本と変わりませんでした」

 交際費がかかるのが嫌なら、付き合いをやめれば良いと思うだろう。だが、そうもいかないのが海外の日本人コミュニティなのだ。

「バンコクの日本人コミュニティはすごく狭くて、噂が回るのも早いんです。付き合いが悪い人間は変わり者扱いされて敬遠されるので、誘われたら無理してでも行っていました。結構色んなコミュニティに顔出していましたね。さらに日本人が借りられる物件というのは限られているので、その中でマウンティングがあるんです。『あそこのアパートなら家賃、〇バーツぐらいだよね』とか『あの地区は家賃が安い』とか。当時、私は14,000バーツ(約50,000円)のアパートに住んでいたんです。それでもがんばって住んでいたんですが、あまり治安の良くない地区だったので言うのが恥ずかしかったですね」

◆収入は上がるも、路地裏の安アパートに引っ越したワケ

 給料の割にかかる生活費。次第に嫌気が差していったマユミさんは、転職を決意。フリーのネイリストになった。

「今は駐妻相手にネイルをしたり、結婚式等のヘアメイクで生計を立てています。といっても、仕事が入るのは主に週末なので月収は2万バーツ(約7万円)ほど。後は知り合いのバーの手伝いをしているので、月収6万バーツ(約208,000円)ほどですね」

 特に生活に不自由なさそうな金額だが、それ以上の支出があるという。

「美容室を辞めた時にワークパーミット(労働許可証)を返却しちゃったので、ビザがないんです(本来は就労ビザとワークパーミットが必要)。今は観光ビザを取得していますが、それでも3カ月が限界です。ビザがないときは30日間しか滞在できないので、そのときはネイル道具の買い付けとして日本に帰って、またタイに入国する『ビザラン』を繰り返しています。一回のビザランで5万円は飛ぶので常にビザラン貧乏です。そのために以前より給料は良くなったのに、安い家賃のアパートに引っ越しました」

 バンコクの路地裏にひっそりとたたずむマユミさんのアパートの家賃は、以前の半額の7000バーツ(約25,000円)。バンコクの日本人が住む物件の中でも最安だという。家具家電付きだが、シャワーの水量が少なくほとんど水しか出ないのが悩みだという。

「服や食材は少し遠くにあるローカル市場で買っています。洗濯は週1回のみ、下着を裏返して2日間履いています。どうしてそこまでしてタイにいたいのか自分でもよく分からないんですが、今さら日本に帰っても再就職できる自信もないし、また鬱になるのが怖い。とりあえず、生きていられる間はいようかなと思っています」

 これが海外で生活する日本人のリアルな貧困状況だ。今回話を聞いたマユミさんの周りには、それぞれ理由は違っても、同じように貧困にあえぐ日本人も少なからずいるという。 

 物価の安い東南アジアで一旗揚げる……そう夢見て訪れる日本人は今も少なくない。だが、在外日本人の貧困問題は、国内と同じように深刻な問題なのかもしれない。

【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。裏モノ・夜ネタを主に執筆。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。ツイッターアカウントは