先頃、旅行会社大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が販売したハワイ挙式ツアーの中止と、それに伴う同社の誠意が感じられない初期対応の実態が大きな話題となりました。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんは自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で、薄利多売という旅行会社の宿命が今回のトラブルに影響している可能性があるとした上で、HISの業績等を詳細に分析しています。

薄利多売の代償か。HIS「ハワイ挙式260組ツアー中止問題」はなぜ起きた?

旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が、ハワイで結婚式を挙げるツアーなどを申し込んでいた260組について、結婚式場の開業が間に合わないとしてツアーを急きょ中止したことが波紋を呼んでいます。代金を全額払い戻すほか、見舞金を支払い、代わりのツアーを案内するとしていますが、晴れの舞台を台無しにしたことやツアー申込者に対する不誠実な対応について厳しい声が上がっています。

結婚式場を運営するThe Crouching Lion Wedding Management(以下、クラウチングライオン社)がハワイのオアフ島に結婚式場を9月1日に新たに開業することを受け、HISが昨年12月から結婚式と航空券などがセットになったツアーを販売していました。

しかし、18年8月15日にクラウチングライオン社から9月1日の開業に間に合わない可能性があるとの連絡を受け、ツアーの中止を決めたといいます。

HISは9月26日付のプレスリリースにおいて「お客様をはじめとするご関係の皆様方に、多大なるご心配とご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます」とのコメントを出し、謝罪しました。

ただ、これに先立ってHISがツアー申込者に宛てた文書には謝罪の言葉はなく、責任転嫁ともとれる言葉が連なっていたため批判の声が上がりました。

HISからツアー申込者には「施工遅延に伴う挙式プラン催行中止に関して」と題した文書が送られたのですが、その文書には謝罪の言葉が一切なく、一方で

今件は本来であれば「当社の関与し得ない事由」に該当する事案でございますが

と書かれるなど、HISには責任がないかのような文言が並べられていたのです。

HISはあくまでツアーの販売元にすぎないとの立場で、結婚式場の開業を手がけているわけではないため、期日に開業できなかったとしてもHISに責任はないという見解を示すためにそのような表現になったとみられますが、ツアー申込者はHISを経由して申し込みをしており、議論を呼ぶことになりました。

ネット上では「人の晴れ舞台を何だと思っているのか」「悲しみと怒りしかない」「申込者への報告が遅すぎる」「HISとクラウチングライオンが責任のなすりつけ合いをしている」といった意見が飛び交い、ツアー申込者に対する同情の声が上がる一方、HISとクラウチングライオン社に対する批判の声で溢れたのです。

こうした批判を受けてか、HISはプレスリリースで謝罪を余儀なくされたわけですが、業界大手の対応とあって、この問題は尾を引きそうです。

旅行会社の「宿命」

なおHISでは扱う旅行商品における渡航先の中でもハワイが特に重要な地となっています。同社が発表した18年の夏休み期間の旅行動向見通しでは、渡航先としてハワイが10年連続で1位となりました。また、海外旅行の売上高構成比で「ハワイ・ミクロネシア」は3割を占めており、売上高の面でも重要なポジションを占めています。東京・新宿にハワイ旅行を扱うハワイ専門店を設けているほどです。

また、同社が実施する挙式ツアーでもハワイは重要な地となっています。9月28日付日本経済新聞電子版によると「同社はハワイでの挙式ツアーを年間5,000組程度扱っている」といいます。海外挙式を専門に取り扱うセクション「アバンティ&オアシス」などでハワイの挙式ツアーを販売しており、大きな収益源となっています。

こうしたことからもよくわかりますが、HISはハワイにある結婚式場と多数提携しており、仮にクラウチングライオン社の結婚式場が期日に開業できなかったとしても、提携先の結婚式場を代わりに案内すれば済むと安易に考えたのかもしれません。

HISの海外旅行販売はJTBに次ぐ業界2位を誇ります。HISの業績は伸びており、17年10月期の連結決算は、売上高が前年比15.7%増の6,060億円と大幅な増収を達成しています。売上高の9割を旅行事業が占め、そのうちの7割が海外旅行です。HISは海外航空券の販売を目的に設立されたという経緯もあり、現在まで海外旅行の取り扱いが事業の中心となっています。

HISは旅行事業が売上高の核となっていますが、一方で同事業は利益率があまり高くないという特徴があります。売上高営業利益率は2%程度にしかなりません。旅行販売は「薄利多売」のビジネスとよく言われますが、HISの旅行事業の業績からもそのことがよくわかります。多売することでようやく薄利を得ることができるのです。

このことからもわかるとおり、旅行会社は多売することが宿命となります。もしかしたら今回のハワイ挙式ツアーのトラブルはこのことが影響したのかもしれません。多売の観点から、顧客のことよりも売り上げを上げることを優先してしまい、「最悪、提携先の結婚式場を代わりに案内すれば済み、売り上げは確保できる」といった考え方が支配していた可能性があります。

薄利多売からの脱却

一方で、HISは脱「薄利多売」となる事業構造をつくり上げようともしています。高い利益率を誇る「ハウステンボスグループ事業」と「ホテル事業」を育て上げることで旅行事業の薄利を補い、グループ全体で高い利益率を実現させたい考えがあります。

ハウステンボスグループ事業では長崎県佐世保市にあるテーマパーク「ハウステンボス」の運営が事業の核となっています。ただ、近年のハウステンボスは入場者数が伸び悩み、力強さを欠いています。一方で、電力小売事業を展開するHTBエナジーなどハウステンボス以外の事業が成長していることもあり、ハウステンボスグループ事業は順調に拡大しています。

ハウステンボスグループ事業の17年10月期の売上高は367億円と構成比は6%にしかなりませんが、営業利益率は21%にもなります。営業利益の額に関しては旅行事業の99億円の8割弱の水準となる76億円をも稼ぎ出しています。利益を確保する上において、同事業は大きな役割を果たしているのです。

ホテル事業も利益率の高い事業となります。ロボットが受け付けなどをするホテル「変なホテル」を展開していますが、17年10月期の営業利益率は9%と旅行事業よりも高い利益率を誇っています。売上高は81億円と構成比は1%にすぎませんが、今後の成長が期待でき、将来的には利益の面での貢献が期待できそうです。

HISでは旅行事業以外の事業が育ってきています。ただ、今回のハワイ挙式ツアーのトラブルが水を差す形となりました。全事業を円滑に推進していくためにも、誠実な対応が求められているのではないでしょうか。

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