小説家がおすすめする小説はおもしろいに決まってる

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こんにちは。新刊JP編集部山田です。

今日は本の話を。

この仕事をしていてよかったなと思うことは、インタビューなどで会った作家さんにおすすめの本を聞くことができることです。小説書いて暮らしている人がおすすめしてくれる小説っておもしろそうじゃないですか。

特に「ベストセラーズインタビュー」では「人生で影響を受けた本を3冊教えてください」という質問をしているので、毎回少なくとも3冊は作家さんに本を教えてもらうことができるという寸法。記事にするもの以外でもおすすめ本を聞いたりします。

教えてもらった本は興味を持てば買って読みます。なんだかんだ半分くらいは読んでいるかも。今日はそんな本の中でも特に気に入ったものをについて書いてみます。

■『すべての見えない光』(アンソニー・ドーア著、新潮社刊)

これは円城塔さんがインタビューで教えてくれた本です。第二次大戦中のフランスとドイツが舞台になっているのですが、当時のフランス・ドイツの雰囲気や人々の会話や、町のどこに何があってという描写がリアルすぎて「この作者何歳?」と思わずアンソニー・ドーアの年齢を調べてしまいました。44歳でした。

円城さんは「ユニバーサル小説マシン」と呼んでいましたが、アメリカ生まれの44歳の作家がどうして1940年代のヨーロッパをまるで見てきたかのように書けるのか?面白さよりも空恐ろしさの方が上回る作品でした。

■『異邦人』(アルベール・カミュ著、新潮社)


こちらはちょうど先日インタビューが公開された村田沙耶香さんが挙げてくださった本です。

『異邦人』は学生時代に一度読んでいたのですが、その時は何がいいのかさっぱりわかりませんでした。カミュの小説はよく「不条理」という言葉で評されるので、その言葉をイメージしながら読んだものの、どこらへんが不条理なのかわからなかった記憶があります。

でも、村田さんが『異邦人』についてこんなことを言っていて、「そういうことか!」と腑に落ちました。

主人公のムルソーはお母さんが死んでも、そこで人間的に要求される悲しい素振りをしません。なぜかと聞かれても人間っぽいウソをつかない。(中略)私自身はそういうところでたくさんウソをついてしまったと思います。そんなに悲しくない映画でも「これを見て泣かない人は人間じゃない」と言われたら、悲しかったとウソをついたことがある気がする。

「人間性(とされるもの)への不信と拒否」つまり「人間性を押しつける社会への反抗の小説」と考えると『異邦人』ってめちゃくちゃパンクでかっこいいじゃないか。僕の心の中の中学2年生をくすぐるじゃないか。このインタビューの後、読み返してしまいました。

■『チボの狂宴』(マリオ・バルガス・リョサ著、作品社刊)


この本を教えてくれたのは吉田修一さんです。ドミニカに実在したラファエル・トルヒーリョという独裁者の暗殺とその後の軍主導のクーデターが起きた一日を書いた小説でして、割と時系列に沿って記録風に書かれているので長いわりにさらっと読めます。

独裁者が死んだことでできる「権力の空白」についての記述が生々しくて僕は好きです。

暗殺によるクーデターって独裁者を殺した時点ではまだ成功とは言えないんですよね。

クーデター首謀者だと思っているのは自分だけで、実は知らないところで「あいつに独裁者を殺させて、その後で殺してやろう」という計画が走っていない保証はどこにもない。協力者たちは「もしかして事態がうまく転んだら自分が大統領になれちゃうんじゃないの?」あるいは「手伝うだけ手伝わせて、成功したら粛清する気なんじゃないか」と考える。だから独裁者が殺された直後というのが最も不安定で危険な時間なわけです。

権力者が消えた瞬間に、国家の最高権力はクーデター関係者誰もにとって手が届くものに思える。じゃあ権力を権力たらしめていたものとは一体何なのか?『チボの狂宴』は、我々が普段自覚することの少ない「権力と国家の虚構性」を書いた小説だと言えます。

今回は3作ほど紹介しましたが、インタビューで教えてもらって読んだ本でおもしろかったものはまだまだあります。

またいつか紹介するかもしれません。

ではではまた。

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