去る10月7日のJ1リーグ仙台VS浦和戦で起きた事件が注目を集めています。試合開始前に行なわれた、地元中学校の吹奏楽部員らによる「復興ライブ」に被せる形で浦和サポーターが自分たちの応援歌を歌い、結果として復興ライブを台無しにさせたのです。

スタジアム内にアナウンスが流れ、場内のモニターにもライブの模様が映し出されるなかでの応援歌被せ。もちろん、憲法や法律で「いつ応援していいか、悪いか」など決まっているはずもありませんが、それは常識によって判断されるべきもの。音声・音楽を伴うイベント中に、自分たちの応援歌を被せて「妨害」するなど、非常識の極みです。

もちろん浦和側にも言い分はあります。SNSなどで見られる意見の多くは仙台側運営の不手際を責めるものです。曰く「イベントが立て込みすぎていて時間が押していた」。曰く「すでに選手が練習を開始する時刻になっており、選手がピッチサイドに出ていたので応援を始めた」。曰く「演奏は仙台側のサイドで行なわれており、自分たちには無縁のものと認識したため、自分たちもイベントにはお構いなしに普段通りの応援を始めた」。曰く「事前に連絡があれば配慮して歌わなかった」。相手の不手際を突く余地が少しでもあるならば、自分たちの非常識は決して認めない…そのような強硬な姿勢による意見の数々が見られます。

しかし、実際には時間が押していたと言っても数分レベルのことであり、開始予定時刻の想定範囲(13時5分開始予定と事前告知されていたものが13時10分にはキックオフされる程度の常識的な範囲)で試合開始を迎えていますし、十分な練習時間がありました。イベントについては事前告知はされているわけで、改めて「この時間は応援をしないでほしい」とお願いに行く必要はないでしょう。黙祷と言ったら黙り、演奏が始まったら静まるのは「常識」であって、改めて「お願い」することではないのです。自分たちから遠い位置で行なわれたイベントと言っても、演奏が行なわれたのはピッチ内です。普段は「反対側のゴール前で行なわれていることまでしっかり見えている」はずの人たちが、「遠いから」などと距離を持ち出すのは屁理屈でしかありません。

このような非常識に先手を打つのが運営側の責任だとすれば、極めて困難であると言わざるを得ません。消極的な方策としては「試合以外のイベントは何もしない」という手もあるのでしょうが、より踏み込んだ対策という意味での「アウェイ応援禁止」制度も、検討の余地があるのではないでしょうか。すでにJリーグ等においてはホーム側・アウェイ側の応援席を明確にし、相手方の応援グッズを身につけた状態では立ち入れないようにエリア分けなどをしています。憲法や法律で縛られたわけではなく、「相手方の応援団が近くにいると何故か喧嘩が始まる」という「非常識」のせいで生まれた決まりです。ならば、憲法や法律を越えて「アウェイ応援禁止」という決まりがあっても問題ないでしょう。

サッカークラブはサッカーの試合を含むイベントを提供し、観衆に楽しんでもらうことが生業であって、「相手方の応援団が勝手に決めた歌を好きな時間に歌って騒ぐ」ことまで約束する事業ではありません。音楽ライブで「ファンによる独自の応援企画」がしばしば運営側から禁じられるように、スポーツの応援でも運営側が望まないものは禁じられていいはずです。運営サイドの意向…つまりはホーム側の観衆を楽しませるために、アウェイ側の応援を禁ずる時間があってもいいのではないでしょうか。それによってアウェイ側の観衆の楽しみが減じたとしても、仕方ないでしょう。常識に委ねているだけでは、大事な大事なホーム側観衆の楽しみが損なわれる恐れがあるのですから。

ビジタークラブ…この場合の浦和は、Jリーグ規約にもあるように「ビジタークラブのサポーターが試合の前後および試合中において秩序ある適切な態度を保持するよう努める義務」を負っています。相手方のイベント運営を妨害するような行為が、はたして「秩序ある適切な態度」と言えるのか、改めて考える必要があると思います。

常識が通じないようであれば、「アウェイ応援禁止」という非常識で対応することも仕方ありません。サポートがチームの勝利につながる、というサポーターイズムを尊重するならば、「相手方の応援を禁止する」ことでホームチームの勝利もグッと近づくはずですしね。

歌って騒ぐ場を提供するのはカラオケボックスとかの仕事であって、サッカークラブ本来の仕事ではないのですから。



文=フモフモ編集長