【衝撃事件の核心】妻殺めた元警官、法廷で土下座した

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 「私は極悪非道な人間です」。

 京都府亀岡市の自宅で、妻=当時(71)=を包丁で刺して殺害したとして殺人罪に問われた夫で元京都府警警察官の男(73)に対する裁判員裁判が京都地裁で開かれた。自身の女性関係などを叱責し続けた妻に激高したという身勝手な動機に、法廷で長女から「命をもって償ってほしい」と極刑を求められた被告がとった行動は、傍聴席への土下座だった。(宇山友明)

崩れた夫婦関係

 元警察官という経歴もあり、6月に開かれた公判で姿を見せた被告は一見、誠実そうに見えた。だが、法廷で語られた被告の人物像はそんなイメージとはかけ離れていた。

 検察側の冒頭陳述や被告人質問などによると、平成21年ごろ、定年まで4年を残して府警を早期退職していた被告は、高校時代の同級生の女性と交際。5年後には、その関係を妻に知られたが、妻は不満を抱えながら同居を継続した。

 「妻から離婚という言葉がなかった。それが妻への安堵(あんど)につながっていた」

 だが、妻の我慢も限界を超える。28年の妻の誕生日に被告が交通事故を起こし、同乗の妻が重傷を負ってからは、せきを切ったように被告を責めるように。以降、すでに関係が終わっていた不倫や交通事故のことを叱責され、さらには被告が経済的な援助をしていた親族への悪口も言われるようになっていった。

身勝手な動機

 1月の事件の前日には「不貞行為を長年続けてきたことなどを深く反省し、一生報いることを誓います」などと謝罪する内容の念書を妻が被告に書かせた。夫婦の絆はもはや無くなっていた。

 そして当日。殺害するに至ったきっかけは、妻の放った嫌みだった。朝、妻が被告の父親からもらった土産のことを持ち出した発言について、父をばかにされたと感じた被告は激高した。

 妻を炊事場に引きずり込み、床に引き倒したり、髪をつかんで頭を床に打ち付けたりした。それでも被告の怒りは収まらず、包丁を取り出し、妻の胸などを数回突き刺し殺害。叫び声を聞いた隣人らが通報して発覚した。

「命をもって償って」

 身勝手過ぎる動機に遺族の処罰感情は峻烈だった。出廷した長女は、母を奪った被告への怒りを裁判官や裁判員らに切実に訴えた。

 「母を思うとかわいそうでたまらない。恐怖と絶望の中にいたと思う」

 「とても大切な人をこのような形で殺され、自分の感情は時間がたっても癒やされない」

 「大好きだった母には生きていてほしかった。父には、命をもって償ってほしい」

 長女の意見陳述中、今になって罪の意識にさいなまれたのか、被告は終始肩をふるわせて泣いていた。

土下座、懲役14年判決

 被告人質問では検察側も「被害者の気持ちを想像したことはあるか」「刺された相手はどんな気持ちだったと思うか」と追及した。

 被告は一連の質問に「(妻は)なんでこんな目にあわなければいけないのかと思ったはず。悔やんでも悔やみきれない」などと泣きながら返答。最終意見陳述でも「私は極悪非道の人間です。罪を償っても償いきれない」と反省の弁を述べた後、「申し訳ありませんでした」と傍聴席に向かって土下座した。

 傍聴人は突然の行動に驚きを隠せなかった様子。裁判長に「やめてください」と注意された被告は静かに立ち上がった。

 検察側は論告求刑で「離婚や別居など被害者との関係を解決する手段もあった」としつつ、「被害者の不満は全て被告の身勝手な行動によるもので、犯行の動機や経緯に酌むべき点は乏しい」と語気を強めて指摘した。

 前科のない単独犯による凶器などを使用した配偶者への殺人事件では、懲役6〜7年の判決を宣告する事案が相対的に増えているというデータがある。にもかかわらず、今回は「強固な殺意が認められる」などとして懲役16年が求刑された。

 迎えた判決公判。裁判長は判決理由で、被告は過去の不貞などとは関係のない親族の悪口を妻から繰り返し言われており、妻の言動が犯行の一因となったことは否定できないとした。その上で「被害者の一連の言動を前提としても殺害行為に及ぶのは明らかに過剰な対応といわざるを得ない」と指弾。「犯行の経緯や動機は同情の余地に乏しく、厳しい非難に値する」として懲役14年の実刑判決を言い渡した。

 被告と検察側の双方が控訴せず、判決は確定した。