積水ハウスが考える、100年先を見据えた「幸せ家族の家」とは?
まるでホテルのロビーと見紛うかのような、33帖(6メートル×10メートル)という広大な空間。その先に見える食卓やオープンキッチンなどから「さぞかしの大邸宅なのでしょう」と思われるかもしれない。
【写真を見る】食卓側から玄関方向へリビングを見た様子。1本の柱もなく、仕切りもない/撮影:栗原祥光
しかしこのリビングが、一般的な住宅の敷地面積である30〜40坪で実現するといったらどうだろうか。しかも一坪あたり69万5000円からと、30代〜40代のファミリーでも実現できるとしたら。
人生でもっとも大きな買い物である「マイホーム」。マンションではなく土地を手に入れて戸建住宅を建てる場合、どうしても気になるのは「間取り」だ。
住宅は一度建てたら長く使うもの。子供の成長や独立した時の事までを考えると頭を悩ませることだろう。その解答といえるのが積水ハウスが販売開始した「IS ROY+E Family Suite(イズ・ロイエ ファミリースイート)」だ。
前出の33帖という広大な空間は、この「イズ・ロイエ ファミリースイート」の最大の特徴「間仕切りのないリビング」なのだ。
■ 「幸せ」研究の成果、“脱LDK思想”から生まれた「シームレスな家」
「リビングから仕切りをなくす」という大胆な考えを打ち出したのは、積水ハウスの一部門である「住生活研究所」だ。その所長である河崎由美子さんに話を伺いながら、この家が誕生した背景を聞いた。
河崎さんによると、今までの住宅は安全性や機能面といったハード面に開発の軸を置いていたという。しかし、住宅には家族が住んでおり、生活がある。そして家族の幸せや絆を育む場所だ。
そこで積水ハウスは「健康」「家族のつながり」「生きがい」「楽しさ」といった無形価値、いわゆるソフト面をテーマとするチーム「住生活研究所」を2018年8月に立ち上げ、ハードとソフトの両面から現代生活や家族に合う理想的な住宅を考えることにしたという。
河崎さん達は、Webアンケートをはじめ、様々な角度から一般家庭における住宅の使われ方を徹底的に調査。そこで浮き彫りになったのが家族が集う場所である「リビングの使い方が時代によって変化している」ということだった。
「現在家族にとってリビングは、一緒に食事をする場所だけではなく、それぞれが思い思いに過ごす空間であることがわかりました。例えばパパがテレビを見ている横で、娘さんはテレビをあまり見ないでスマートフォンやタブレットでSNSをチェックしていたり。場は共有するけれど、“コト”は共有していないのです」。
調査によると、リビングに一緒にいる14.5時間のうち、一緒に何かをする時間は5.5時間、残りの9時間は思い思いに過ごしていることがわかった。
「現在のリビングの使い方は"一緒"と"それぞれ"が1日のうちで何度も入れ替わっていることがわかりました。家族というのは、付かず離れず、自分たちにとって心地よい距離感が必要なのです」。
また、ライフスタイルの変化により、来客時の対応も変わってきたと河崎さんは分析する。
「昔は応接間という客人を招くスペースがありましたが、今はもてなし方も本当に自由で、また来客も気のおけない友人知人が中心となり、リビングで事が足ります。家族だけでなく、人を招く場所としてもリビングが活用されているのです」。
さらに平均寿命も長くなってきた。「今は人生100年時代と言われております。小さな子育てから、中学高校と育ち盛り、子供が大学を卒業して独立、さらに、子供が結婚して親と同居するかもしれない。このような時間の変化、ライフステージの変化にも住宅は対応しなければならなくなったのです」。
そうそう建て替えができない大きな買い物である住宅。より家族が過ごしやすく、住みやすく、そして長く使えるにはどうすればいいのか。
そこで導き出した答えが「家族の集いに応え、思い思いの行為にも干渉されにくい広さの確保」と「家族の気配が感じられ、ゆるやかなつながりを生み出す仕切りの排除」だという。
「日本の住宅は戦後公団住宅の寝食分離思想(DKプラン)に、リビングを加えたLDKのままの時代が続きました。人生は100年時代、住宅の対応年数も100年。次の100年を考えなければなりません。その時に戦後70年前の発想から脱却して、機能ごとに部屋を分けるのではなく、過ごし方に縛られず、自由で多目的に使える、大きくて広い空間がもっとも使い勝手がいいのではないでしょうか」と河崎さんは力説する。
「子供用の広い遊び場としても使えるし、家具を置いてエリア区分けをするもよし、自由な空間こそが家族のための『我が家だけの幸せリビング』なのです。それが従来のLDK発想に代わる『ファミリースイート』という思想なのです」。
一般的な40坪の住宅の1F部分、広さにして6メートル×10メートルという約33帖分のスペースをワンフロアとするこの発想では、目的によって家具を配置することで複数のスペースができあがる。ライフスタイルが変化した際は家具の配置を変えればよいのだから、間仕切りによって使い勝手が悪くなった家をリフォームをするより安上がりなのは明らかだ。
そして仕切りのない大空間は、例えば定年退職後、子供が独立した際に1Fでカフェやビストロを営業する、ということも可能。また仕切りを設ければ、2世帯住宅にすることもできる。広大な空間を自由に使えるメリットは計り知れない。
■ 積水ハウスの技術陣が柱のないリビングを実現
とはいえ、一般的な40坪に約33帖分というリビングを作ることは技術的に容易なことではない。従来の工法では、どうしても柱が必要となってくる。今までは、柱を軸に、間仕切りを設けてLDKを配置していた。間仕切りは取ることができるが、それでも柱は残ってしまう。それでは広大な空間とはいえない。
積水ハウスの技術陣はこの難問に対して、従来の約10倍の強度を誇るダイナミックビームという梁を開発することで対応した。
ちょうど「王」の形をするこの梁は、従来のH型鋼材をベースに、特殊な溶接によって作られており、最長7メートルまでのリビングに対応。これを2本天井にはわせることで家の強度確保に成功した。
さらに「柱がない」ということは基礎工事が減ることを意味する。つまり従来工法に比べて建築コストを下げることにもつながった。
注文住宅なので具体的に何パーセントのコスト削減になるかはケースバイケース、とのことだが、河崎さんによると「30代〜40代で結婚した夫婦でも十分に手が届く価格になることを目指した」とのこと。
■ 意外と光熱費が安くなる!?
強度の次に問題となるのは「光熱費」だ。LDKで分けられたそれぞれの部屋の必要に応じてエアコンをつければよかったものが、33帖分という広大な空間になると光熱費がかさむことが予想される。
この点について積水ハウスの広報担当に話を聞いたところ「実は従来のLDKよりランニングコストは安くなっているのです」と笑顔で応える。
「ひとつは、断熱材で家全体をおおう『ぐるりん断熱』を採用したためです。床下の梁の下にも断熱材を配置することで、外気温の影響を大幅に削減することができます」。
「そして、従来のアルミサッシに比べて1.4倍の断熱性を誇る超高断熱アルミ樹脂複合サッシを採用しました。窓を大きくして明るさや開放感といった快適性を保ったまま、外気をシャットアウトできますから、一年中通して快適に過ごすことができます。住宅は進化しているんですよ」。
■ 家族との関係や見通しがよくなる“次世代の家”
都内から車で約1時間半、電車だとJR宇都宮線の古河駅からタクシーで約20分の場所にある、茨城県古河市にある積水ハウスの展示施設「関東 住まいの夢工場」を訪れ、「イズ・ロイエ ファミリースイート」の実物を仔細に見学した。
緑豊かで広大な敷地内に数多くのモデルハウスが立ち並ぶ「関東 住まいの夢工場」の中で、もっとも真新しい家が「イズ・ロイエ ファミリースイート」のモデルハウスだ。
玄関を開けると、大きな作りつけの棚が出迎える。しかし、その棚の先には広大な空間が広がっている。
段差をあがり数歩。そこにはホテルのロビーといった雰囲気のリビング。これなら大人数でのホームパーティーも対応できるし、定年退職後にカフェ営業だってできる、というのも納得だ。
天井高は2.5メートルほどあり閉塞感はない。そして一面すべてが窓であるため、開放感は抜群。日中の照明点灯も不要なほどの明るさだった。もちろん断熱効果があるため、ガラスに触れても暑さや冷たさは感じられない。
階段の手前に床段差で設けられたカウンターは、子供の勉強にもピッタリ。ママからすれば、キッチンから子供が勉強をしているのかチェックできるし、子供からしてもわからないところは気軽に両親に質問できることだろう。
また、生活動線に廊下がないため、慌ただしい朝はもちろんのこと、親からしたら子供がコッソリ帰ってきて部屋にひきこもってしまう、ということも防げる。気軽に声がかけられ、ちょっとした変化にも気づける。まさに家族のための家だ。
床段差によるスペースは他にもあり、ちょっとした書斎も。これもリビングから続いた空間だ。
キッチンの近くにもママ用の書斎があった。料理のレシピ本などを置いておくのにもピッタリだ。
今度は階段を上がって2階へ。ここも基本的に28帖のワンフロアで、本棚によって子供用寝室と、ピアノが設置されているプレイルームに分けられていた。ただし、ピアノのような重量物を設置する場合は、建築時に設計士と相談する必要があるとのこと。
見学後、河崎さんに「ここまで開放的な家だと、年頃の娘さんは困るのでは?」と意地悪な質問をなげかけてみた。
すると河崎さんは「子供はいつか独立するものです。早く独立をうながす家というのも一方で必要ですよ。それも家族への愛です」と、落ち着いた静かな声と優しい笑顔で答えてくれた。
仕切りのない家の見通しの良さは、家族との関係も見通しがよくなる気がした。家族と共に成長し、家族をつなげ、家族の独立を促す。河崎さんが作った家は、幸せを作る住まいであることに間違いはなさそうだ。
まだ全国に1軒しかないという、この「イズ・ロイエ ファミリースイート」のモデルルーム。遠方ではあるものの、住宅建設を考えている人は一度足を運んでほしい。行くだけでも価値があり、行ったらどんどん想像がふくらむこと間違いなしだ。(東京ウォーカー(全国版)・栗原祥光)