アメリカ市場への挑戦がカギになる(撮影:今井康一)

Google、Apple、Facebook、Amazon――GAFA。その強さの秘密を明らかにし、その影響力に警鐘を鳴らす書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』がいま、世界22カ国で続々と刊行され、話題を集めている。
「売ることを前提に買うという新しい消費行動は、間違いなくメルカリが作ったものです。リテラシーに関係なく全国津々浦々から広まったのも、GAFAのサービスとは違うところではないでしょうか」
2018年6月、日本最大のフリーマーケットアプリを提供する株式会社メルカリが東証マザーズ市場に上場を果たした。メルカリは、日本だけでなく、アメリカ・イギリスにも進出し、「世界的なマーケットプレイス」になるため挑戦を続けている。
世界を目指す期待の日本企業は、GAFAをどう見ているのか。採用と人事企画を担当する株式会社メルカリPeople Partnersマネージャー石黒卓弥氏に話を聞いた。

「NEXT GAFA」になれるか

GAFAの4社はこの20年ほどで信じられないほど成長していますね。僕も家族も日々アンドロイドやアイフォンを使い、グーグルで検索して、フェイスブックを見ていますし、僕の父なんかは、アマゾンで中古車を買ったというので驚きましたよ。父は決してITリテラシーの高い人ではありません。でも、「どこで買っても一緒だから」と。それほど生活に浸透して、インフラ化している状態なのだと思います。


『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、発売1週間で10万部のベストセラーとなっている(画像をクリックすると特設サイトにジャンプします)

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、ただ「GAFA最高!」と賛美するのではなく、著者のスコット・ギャロウェイさんが随所にいい意味でトゲのある発言を入れていますね。日ごろ読む国内のビジネス書はトゲのない「きれい」な文章におさめることが多いですから、その点で非常に楽しめました。

メルカリの一員としては、GAFAの成功の要素を分析した第8章「四騎士が共有する『覇権の8遺伝子』」に興味を持ちました。「商品の差別化」「ビジョンへの投資」「世界展開」「好感度」「垂直統合」「AI」「キャリアの箔づけ」「地の利」について書かれていますが、いくつかはメルカリの考えにも通じていると感じています。一方で、まだ不足しているところもあります。

第9章「NEXT GAFA」では、ウーバーなどの企業がネクストステージになっていくための課題はなにか、という観点で「好感度」「CEOのよくない言動」など実例を出して問題点が書かれていて、一つひとつが勉強になりました。

――フリマアプリ「メルカリ」は世界累計で1億ダウンロード(2018年3月31日時点)を超えていますが、メルカリの強みとはなんですか?

メルカリの強さは、オールジャンルのCtoC(個人間取引)で、モバイルファーストのサービスを展開しているところです。似たようなサービスはインドやシンガポールにもありますが、まだこれで「世界を獲った」と言い切れる企業はありません。


石黒 卓弥(いしぐろ たかや)/メルカリ People Partners グループマネージャー。新卒で入社したNTTドコモでは、営業、採用育成、人事制度を担当し、事業会社の立ち上げや新規事業プロデュース等を手掛ける。2015年1月よりメルカリに参加。採用と人事企画を担当。プライベートでは3人の男の子を育てる父親であり、三男誕生時(前職在籍時)には育休を取得した経験もある。趣味は料理とキャンプ(写真提供:筆者)

GAFAには、最初からフロントランナーとして走って来たわけではなく、2番手、3番手の位置から現在のポジションを築いた企業もありますよね。メルカリも、日本国内では当初「フリル(現ラクマ)」さんが先を走っていましたが、現在は日本最大のフリマアプリになっています。創業者の山田進太郎も常々申しておりますが、今後、さらに成長するためには、アメリカ市場への挑戦がカギになります。

アメリカ版フェイスブックには「フェイスブック・マーケットプレイス」というフリーマーケットに似た機能があって、学生が大学を卒業する際に下宿の家財道具を処分するのに使ったりするんです。彼らが「やっぱりフェイスブックの取引が安心で簡単だよね」なんて話しているのを聞くと、まだまだメルカリはアメリカでは浸透していないんだなと悔しくなります。逆に言えばこれからの可能性がいっぱいだとも感じています。

メルカリも「NEXT GAFA」と言われる企業の一社になれるかどうか。それがこれからのチャレンジだと感じています。

メルカリは新しい消費行動を作った

たとえば、社内でも「アマゾンで本を買った」なんて言ってしまう社員がいて、「いやいや、そこはメルカリで買ったら?」とツッコミを入れることがあります(笑)。ただメルカリには、アマゾンと違ってユニークな利用法が多いのが特徴です。

メルカリは20〜30代の女性で、洋服を出品されるお客さまが多いのですが、新作をトップシーズンに買って、2週間ほど着たらすぐに売るという方がいるようです。そういうサイクルを作って、つねに最新の洋服を着ているわけです。書店で本を買って、まずメルカリに出品してから読むというお客さまもいます。すぐ売れてしまうので、それをプレッシャーにして読み切るのだ、と。「売ることを前提に買う」という新しい消費行動は、メルカリが作ったのではないでしょうか。

必ずしもITリテラシーが高い人だけから広まったわけではないところがメルカリの特徴の1つです。一般的なテック系のプロダクトは、情報感度の高い人々から使われ、広まります。フェイスブックも、マーク・ザッカーバーグCEOがハーバード大学在籍中に仲間内ではじめたものです。しかし、メルカリは、地方に住む主婦の方などから使われはじめ、今では全国に住む多くの方から利用されてるようになりました。

出品されているものも、車からファストファッションまでさまざまですし、キャンプ用品もあれば、廃盤品や絶版本などもあります。ITリテラシーの高い人や、特定の所得層だけでなく、お子さんから大人まで、それぞれの目的に応じて利用する「みんながお店屋さんになれる世界」を作ったと言えると思います。

ちなみに、メルカリで売れた最高額の商品は、315万円のダイヤモンドです(2018年9月5日時点)。社員としても驚きましたが、それほど高額なものでもアプリ上で売り買いされる信頼感は、安心・安全なサービスに育っているとも言えます。

採用競争力を上げるには?

GAFAは4社とも社会的な使命をより求められていくというフェーズに入っていると思います。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』では、グーグルのことを「神」と表現していますが、悪意を持てばいくらでも社会をコントロールできてしまう。フェイスブックの言論統制問題などもそうです。メルカリもやはり社会からどう見られるか、なにを求められているのかということは、多くの方に使われるサービスとして、強く意識して考えなければなりません。

たとえばグーグルジャパンでは、女子中高生向けにプログラミングを教えるような取り組みをしていますが、メルカリも高校生向けのイベントをスポンサードするなどしています。直接的な採用のブランディングというよりは、間接的にエンジニア人口を増やしていくという観点で積極的に取り組んでいます。

――石黒さんは採用ご担当としてGAFAの人材戦略をどう見ていらっしゃいますか。

GAFAは人材獲得の面では、優れていると思っています。報酬ひとつとっても強い。シリコンバレーと日本では生活水準が違いますから、単純な給与の比較はできませんが、株式報酬をうまく使うような仕組みは、日本の企業が見習えるところではないかと思っています。

そして、GAFAには優秀な方が集まっています。基本的に「人」なんですよね。人がなにを生み出し、なにを売るか。採用活動を通してつくづく感じていますが、もはや「2人いれば2倍になる」という単純な世界ではなくなっています。2人で5倍、5人で50倍ということも可能な環境を社内に整えて、採用競争力を上げていく必要があるでしょう。

――GAFAは人材戦略の特徴として、日本企業にはあまり見られない多様な人材を獲得していると言われます。

そうですね。メルカリでは、「mercari R4D」という研究開発組織を立ち上げて、量子コンピューティングなど、いますぐアプリに実装するわけではないけれども、将来的に必要になる技術を開発するために研究者を採用しています。

GAFAは秘密裏に開発を進めていることが多くあると言われていますが、mercari R4Dは、筑波大学の落合研究室、東京大学の川原研究室などとパートナーシップを組んで、オープンな共同開発をいくつか同時並行で進めています。

メルカリも、かつては「人事」「広報」など一般的にわかりやすい採用枠が多かったのですが、企業体力がついてきたこともあり、この半年ほどで、コピーライター、ビデオグラファー、日本語教師など多様な人材を採用するようになりました。霞が関の政策対応、という人材もいます。メルカリには「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションがありますが、みなさんそこに共感してくれている仲間です。

――昨今、一部のスーパーエリートが巨額の年収を得て、その他が農奴になるという雇用と格差の問題が取りざたされますが、どのように考えていますか。

メルカリは直接雇用が多く、とりわけ地方での雇用創出に微力ながら貢献していると思っています。仙台と福岡にカスタマーサービスの拠点があり、合わせて400名ほど雇用しています。

「お客様対応を止めない」という観点からも、一極集中は避ける必要があると思っています。日本の場合は、自然災害を考えても、拠点はたくさんあったほうが良い側面もあります。

メルカリがGAFAを目指すには

――メルカリがNEXT GAFAとして躍進するための今後の展開と課題をお聞かせください。

いまは、アメリカで成功すること、金融事業メルペイの展開、そして、本体であるフリマアプリ「メルカリ」のさらなる成長。この三本柱です。

GAFAは各社、早くから海外投資をはじめていて、本書のデータによると売り上げの3割から6割が海外におけるものです。メルカリはまだここには至れていません。なかでもデータの活用には力を入れる必要があると考えています。

メルカリには、取引や配送のデータのほかに「お値下げできますか?」「〇〇円ならOKですよ」と言った価格交渉の文化があり、その会話データなど珍しいものがそろっています。売り買いに際して、人はどの程度まで許容できるのか? そういったデータも解析していくことで、将来的には新しい事業に活用できるかもしれません。

そういう意味でも、AI、機械学習の分野では人材が不足していますから、積極的な採用活動は続けていきます。当然国内に限らず、海外にも人材を求めていますし、そうなるとやはり給与についても再考する必要もでてくるでしょう。さらに専門性の高い人材にアプローチしていきたいですね。

時価総額を大きくすることだけが企業の目的ではありませんし、たくさんの方が集まって、チャレンジの回数を増やしていくことが、メルカリをGAFAに近づけていくための1つの要素だと思っています。「ググる」という言葉がありますが、「メルカる」という言葉を、皆が当たり前に使うようになったらすてきですね。