本人も覚えていないだろうが、安倍晋三総理大臣は総理に返り咲く前の2012年6月、自身のメルマガで、
「(前略)つまり現在のデフレ状況が続けば、消費税は上げないということです。しかし、野田総理のこれまでの委員会答弁は、この点があいまいであると言わざるを得ません。要は民主党政権を倒し、デフレからの脱却を果たし、経済成長戦略を実施して条件を整えることが大切です。そして、『その条件が満たされなければ消費税の引き上げは行わないこと』が重要です」(出典:安倍晋三メールマガジン'12年6月27日号)
 と書いている。

 '03年以降のCPI、コアCPI、コアコアCPIの対前年比(%)を見てみよう。ちなみに、CPIは「総合消費者物価指数」、コアCPIは「生鮮食品を除く総合CPI」、コアコアCPIは「食料(酒類を除く)およびエネルギーを除く総合CPI」という定義になる。エネルギー(原油、LNGなど)の輸入が多い日本の場合、物価に関するデフレ脱却の指数はコアコアCPIでなければならない(日銀は「コアCPI」だが)。

 '14年4月以降、消費税増税で「強制的」に物価が引き上げられたものの、消費を中心とする需要縮小で物価は再びマイナス圏に墜落。コアコアCPIは'17年にゼロ%を切り、直近('18年8月)でも対前年比+0.2%にすぎない。

 要するに、安倍政権はデフレ対策に失敗したのだ。そもそも、消費税増税という「需要縮小策」を強行しておきながら、デフレ脱却も何もあったものではない。

 自民党総裁選に勝利した安倍総理大臣は、9月20日の記者会見で、
「今後3年間の任期中にデフレ脱却の道筋をしっかり付けていく」

 と、語った。5年半も「デフレ脱却」を掲げておきながら、今更何を言っているのか、という感じだが、デフレ脱却していないという「現実」を認めたことは評価する。これまでの「(デフレ脱却していないにも関わらず)もはやデフレではない状況を作り出せた」といった意味不明な発言よりはマシである。

 「日本はデフレ脱却している」などと強弁する人はさすがにいないだろう。日本がデフレ脱却できない理由は、そもそも物価とは、「誰かがモノやサービスを買う=需要を増やす」ことなしでは上がらないためだ。

 日本銀行が何百兆円の国債を買い取り、おカネ(日銀当座預金)の残高を増やしたところで、モノやサービスが買われているわけではない。政府がプライマリーバランス赤字の縮小を推進し、消費税増税、政府支出抑制に走るということは、モノやサービスの購入を「減らす」ことに他ならない。政府自ら需要縮小策に走り、デフレ脱却できない。当たり前である。

 デフレ脱却していないことを認めた以上、安倍総理は「過去の自らの発言通り」デフレ脱却前の消費税増税は凍結、減税、最低でも延期をしなければならない。興味深いのは、8月27日時点で、来年10月の消費税増税について、
「今回は間違いなくやれる状況になっている」
 と、うそぶいていた麻生財務大臣が、総裁選が終わった途端に、
「(消費税率を)2%アップできる状況をつくるのに全力を挙げる」
 と、明らかに発言を修正したことだ。8月27日から1カ月も経たないにも関わらず、「増税を間違いなくやれる状況」から「状況をつくる必要がある」に日本経済の環境が急転したのだろうか。もちろん、そんなことはない。

 日本経済は端から消費税を増税できる状況にはないのだ。特にひどいのが実質消費だ。実質消費とは、物価の変動を除いた我々の消費である。より分かりやすく書くと、「パンを何個買ったか?(何円、ではなく)」が実質消費なのである。

 '14年4月増税により、日本の実質消費は激しく落ち込み、直近('18年8月)の数値は、消費税増税前の駆け込み消費があった'14年3月と比較すると、何とマイナス16・5%。駆け込み消費の影響がない'14年2月と比較しても、マイナス7.2%である。我々日本国民は、増税前の'13年度と比べて、実質消費が7%以上も落ち込んだ状況にある。