世界規模で「赤色」不足のなぜ?

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 全世界で“赤色”が不足している。代表例は自動車用テールランプの赤だ。中国の環境規制強化により2018年春から現地の染料原料メーカーが相次ぎ操業停止となり、特に赤色の供給不足が長期化している。染料を使う化学メーカー間では代替調達の動きも出始めた。問題の根本は生産の中国一極集中にあり、サプライチェーンの構造的欠陥が図らずもあぶり出された。

自動車テールランプの赤
 染料世界大手の独ランクセスは6月から赤色など一部製品のフォースマジュール(不可抗力による供給制限)を継続している。法令違反を調べる中国政府の環境査察により、染料産業が集積する江蘇省や山東省で原料・中間体メーカーを含む工業団地の操業停止や閉鎖、移転命令が続出。その結果、ドイツでの染料製造に大きな支障を来している。

 独ランクセスが得意とする染料はポリカーボネートやアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂に着色する。車用テールランプのほか、飲料用ペットボトルや玩具など最終用途は幅広い。樹脂を手がける日系化学メーカーなどは現状在庫で対応しているものの、代替調達の検討に入った。ただ、新たに顧客の認証取得が必要で時間がかかる。

 16―17年から目に見えて強化された中国の環境査察は工業団地に入居する1社の違反で、団地全体が“連帯責任”で操業停止となるほどの厳しさだ。今回に関しても「その原料メーカーは悪いことをしていないが、工業団地内で他社が違反して全部駄目になった」(日系化学メーカー幹部)といわれる。

 問題をより深刻化しているのはサプライチェーンの隠れた脆弱(ぜいじゃく)性だ。「原料は世界でもほとんど中国でつくっている」(業界関係者)とみられ、欧州や日本で採算の合わない材料生産が中国へ次々移転した末の惨事だ。

混在する楽観論と悲観論
 「中国の自動車メーカーも騒ぎ出すから、早晩解決するはずだ」(化学大手幹部)との楽観論も少なくない。確かに複数の原料メーカーが操業を再開したことで、独ランクセスも9月に黄色と緑色、青紫色3製品の供給制限を解除した。状況は好転しつつある。

 一方で、悲観論もある。11月上旬に上海で「中国国際輸入博覧会」が開催される。習近平国家主席の肝いりとされる一大行事だ。会期の前後は上海周辺に工場の操業規制をかけるとみられ、隣の江蘇省なども影響は避けられない。

 テールランプメーカーなど川下業界では今のところ大きな問題にはなっていない模様。ただ、今後さらに染料の供給不足が長期化するようなら、世界の自動車産業は深刻な被害を受けるかもしれない。

(文=鈴木岳志)