万引き依存症になる働くママ。ワンオペ育児のストレス発散で…

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 万引きをした女性の一定数は「ストレスの発散やその対処行動」としてその行為に走るという。東京・大田区にある大森榎本クリニックの精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)である斉藤章佳氏の新刊『万引き依存症』では「日本が世界一、男性が家事をしない国」であることもこの問題の根本にあることが見えてくる。

※以下、『万引き依存症』より一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したもの。

◆ワンオペ育児から万引き依存症に――30代女性・Hさんの場合
 ワーキングマザーとして、もともと地元の企業で働いていたHさん。夫の転勤により生まれ育った地方を離れて、首都圏に引っ越してきました。Hさんも仕事をつづけることにしましたが、本来やりたかった経理部門には配属されませんでした。

 子どもは3人ともまだ小さく、夫も比較的育児に協力的でしたが、どうしてもHさんの負担が大きくなります。周囲に知り合いもなく、自分の両親と疎遠という環境下ではほかに助けを求めることもできませんでした。

 夫の転勤から数年間、Hさんの言葉を借りると「息継ぎもできないほど」忙しかったそうです。行動範囲は、家と会社と子どもの保育園と、自宅近くのスーパーだけ。Hさんはそのスーパーで万引きを覚え、常習化し、依存症になっていきました。

 Hさんの現家族は、深刻な機能不全に陥っているわけではありません。少なくとも夫にとっては、そうでしょう。けれどもワンオペ育児になっているHさんの負担は大きく、ストレスは毎日募っていくだけで減ることはありません。

 ストレスは、依存症への扉を開く鍵のようなものです。

 治療プログラムの一貫として、万引き依存症者に万引きをはじめたころの心境を振り返ってもらうと、多くの人から「ストレスに対処した」と返ってきます。「平成26年版 犯罪白書」の「前科のない万引き事犯者 動機」を見ると、50歳以上の女性に「ストレス発散」が挙げられています。16%強と数こそ少ないですが、男性にはこの回答がまったく見られないことが興味深いです。

 ストレスの対処法のことを「ストレス・コーピング」といいます。ストレス・コーピングは本来、誰にも迷惑をかけることもなく健全にできるものであるべきですが、それが問題行動となってしまう人たちがいます。さらにそれが犯罪行為につながることもあります。

 依存症の本質のうち、ある側面は、このストレス・コーピングにあると私たちは理解する必要があります。加害者のストレスなんて知ったことではない、と言いたいところですが、問題解決のための根本的なイシューが隠れているのです。

◆世界一男性が家事をしない国・日本
 ワンオペ育児はいくらしんどくても、それ自体は死に直面するほどの恐怖とは言えないと思われるかもしれません。ではここで視点を少し変え、家庭における女性の役割を考えたいと思います。

 家庭のなかでも、それぞれに置かれている立場や求められている役割があります。夫、妻、父、母、嫁、子どもとして、家事、育児、介護といった家庭内タスクに携わります。それらが各人の時間や能力に合わせてうまく分け合えればいいのですが、誰かひとりに負担がかかったとき、問題が発生します。

 ここ日本では、そうした役割をすべて女性が担う傾向にあります。共働き家庭が増えたのに伴い男性の「家庭進出」を進めなければならないと言われながらも、現状は非常におそまつです。

 2012年に国際社会調査プログラム(ISSP)が各国のフルタイムで働く男女が1週間で家事に従事する時間を調査したところ、20時間と答えた日本人女性は62%で、男性はたったの2%。5時間未満と答えた男性は72%で、女性は7%。これだけ男女間で差が開く国はほかになく、「日本は世界一、男性が家事をしない国」だということが明るみになりました。