無線LANの次世代通信規格「IEEE 802.11ax」が「Wi-Fi 6」へと名称が変更されました。現行のIEEE 802.11ac(あらためWi-Fi 5)から何がどう進化するのか、National Instrumentsがその概要をまとめています。

Introduction to 802.11ax High-Efficiency Wireless - National Instruments

http://www.ni.com/white-paper/53150/

Wi-Fi 6は理論値で最大転送速度が9.6Gbpsと、Wi-Fi 5の6.9Gbpsからさらに高速化します。しかし、単なる高速化だけでなく、複数の端末を同時に接続しても通信速度が低下しにくいような仕組みが多数取り入れられています。

・下位互換性

Wi-Fi 6はWi-Fi 5後継の無線通信規格で、基本的にはWi-Fi 5以下の下位の通信規格への互換性は確保されています。その上で、最も大きな改良点は、無線電波の利用が混雑する「高密度な環境」での通信速度がアップしている点。Wi-Fi 5に比べて、「ユーザーあたりの平均スループットを少なくとも4倍に高める」ことが目標として掲げられています。

Wi-Fi 5との比較を表にすると以下の通りになります。Wi-Fi 5が5GHz帯でのみの対応だったのに対して、Wi-Fi 6は2.4GHz・5GHzの両対応になるのが特徴的。



FFTサイズが4倍になり、サブキャリア数も増加するとともに、サブキャリアの間隔が4分の1に狭められています。これによって、既存のチャンネル帯域幅を維持します。



・MU-MIMO

Wi-Fi 5と同じくWi-Fi 6でも複数端末への接続時に異なる電波を使うことで通信の切り替え不要で同時接続を可能にする「マルチユーザMIMO(MU-MIMO)」に対応します。Wi-Fi 5では最大4台のSTA(端末)までしか対応していなかったビームフォーミングが、Wi-Fi 6では最大8台に倍増しています。また、STAごとに異なるMCS(Modulation and Coding Set)を設定できるようになります。



ビームフォーミングでは、MU-MIMO動作のためのチャンネル動作を要求する「Trigger Frame(トリガーフレーム)」が導入されます。APはすべてのSTAからビームフォーミングのフィードバック情報を受信して、MI-MIMO動作を行います。



・OFDMA

同じチャンネル帯域幅でより多くのユーザーが利用できるよう多重化するために、モバイル向けの4G通信で用いられた「OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)」技術も採用されます。Wi-Fi 5で利用されていたOFDM(直交周波数分割多重方式)を、チャンネル帯域幅によってより細かなサブチャンネルに分割したRU(リソースユニット)によって、より多くの端末との同時接続を可能にします。



「高密度な環境」ではチャンネル使用をめぐって非効率な競合が起こります。OFDMAによって、最も細かなサブチャンネルの場合、20MHzの帯域幅ごとに最大9人のユーザーに対応可能。



40MHzだとその倍に。



・マルチユーザー動作のアップリンク処理

トリガーフレームでは、各端末からAPに対して空間ストリームの数やOFDMA周波数、RUのサイズ割当てなどの情報に加えて、各端末の送信出力の増減が可能かどうかの電力制御情報も伝送されます。これによって、遠くの端末への送信出力を上げることができます。また、APは全端末に対して送信の開始タイミングやフレームの持続時間を支持するトリガーフレームを出すことが可能で、全ユーザーからの送信が同時に完了するようになっています。そのため、端末ごとに順番に送信する場合の遅延がないという利点があります。



・TWT

Wi-Fi 6では、アクティビティの持続時間に関する情報を交換することでAPがSTA間の競合を制御する「TWT(Target Wake Time)」を使用できます。各TWTの到着まで端末はスリープ状態になるため、省電力性能が高まります。



Wi-Fi 6ではさまざまな新技術により「高密度な環境」への対策が採られています。これは、今後、スマートホーム家電などのIoT端末がますます増えることを見据えたものですが、集合住宅や空港などのように「多数の端末が狭い範囲で回線を奪い合う」ような環境でも、通信速度が落ちにくいという利点がありそうです。

いまだにドラフト3.0のWi-Fi 6ですが、Wi-Fi Allianceは2019年秋までにWi-Fi 6の認証プログラムを開始予定です。すでにASUSの「RT-AX88U」などの対応ルーターも発表されており、2019年内にWi-Fi 6対応のノートPCやスマートフォンなどの端末が出始め実用化される見込みです。