この原稿は2018年10月3日午前に第一稿が書かれ、4日未明に大幅修正したものである。そのわずか十数時間で「巨人・高橋由伸監督」の運命は変わった。

【写真】1997年のドラフト以来、計21年間も背番号24を背負ってきた高橋由伸

「なんか、東京ドームで負け試合ばかり見てる気がするよね」

 今シーズンは周りの巨人ファンからよくそんな台詞を聞く。2018年は東京ドームで30勝33敗1分け。本拠地での負け越しは今世紀初。ちなみに2012年は47勝11敗6分け、13年は39勝21敗4分けとホームで大量の貯金を稼いでペナントを独走していたわけだ。

 つまり、今の巨人は弱い。まるで地球は青い的なド直球の始まり方だが、現在2試合を残し、141試合で65勝71敗5分けの勝率.478。結構負けたイメージのある昨季でさえ72勝68敗3分けで貯金4だった。スポーツ報知記録室によると「シーズン負け越しは9度目、70敗以上は5度目。ともに12年ぶりの屈辱」らしい。つまり、我々は長い歴史的にもレアな「弱い巨人」を見ていることになる。って事実を書いてるだけなのに心が折れそうだが、キャプテン坂本勇人が打率.341と球史に残るショートストップとなり、若手さえ育てば……と言われ続ける中、ようやく22歳のスラッガー岡本和真が3割30本をクリアして、あの斎藤雅樹以来の年間7完封で2年連続の沢村賞も狙えそうなスーパーエース菅野智之がいるにもかかわらず、“借金6”なのである。

 現在、DeNAと3位争い中だが、過去に長い球団史で2年連続Bクラスはたったの1度のみ。2005年と2006年の堀内監督から第2次原政権への変わり目だったが、この時の巨人はチーム再建の切り札としてFAでガッツ小笠原、トレードで谷佳知を獲り、翌オフにはラミレス、グライシンガー、クルーンら同リーグの助っ人軍団をかき集めた。ゴメン、無茶苦茶な補強である。SNSがあったら炎上間違いなし。

 今の球界で言ったら、広島の丸と西武の浅村とヤクルトのバレンティンを同時獲得するみたいなデタラメさだが、残念ながらもうそういう能天気なジャイアンツ・アズ・ナンバーワン時代は終わった。これまで、チームがヤバくなるとナベツネさんとミスターの強引さ……じゃなくてFAと逆指名ドラフトで立て直してきたが、近年は大物FA選手は逃し続け、ドラフトもクジで外しまくっている。そんなハードな時代に巨人監督を引き受けたのが、高橋由伸なのである。


ハードな時代に巨人監督をやっている高橋由伸 ©文藝春秋

巨人ファンに“来季の由伸監督”について緊急アンケート実施!

 15年秋、球界を揺るがした賭博事件発覚の直後に、現役引退して即監督就任。主力の多くは年齢的にピークを過ぎ、昔のように強引な補強も上手くいかず、ドラフトで獲得した即戦力候補の投手もほとんど1軍で戦力になれていない。繰り返すが、そんな時代に巨人監督をやっているのが、背番号24なのである。

 さて、巨人ファンは就任3年が経過した由伸監督をどう見てるのだろうか? Twitter上で10月2日に由伸監督について緊急アンケートを実施したら、“頼む来季も続投を”17%、“今季Aクラスなら続投で”8%、“来季は新監督に交代を”30%、“監督続投、コーチ入れ替え”45%という結果だった(総投票数6879票)。そうか、75%のファンが今の首脳陣に何らかの変化を求め、惨敗の落としどころとしてせめて一部のコーチ交代を……といったところだろうか。アンケートのリプ欄には、「選手時代に好きだった由伸をこれ以上嫌いになりたくない」という声も多かった。

 確かに広島戦だけで借金11、ヤクルト小川に4敗、DeNA東に5敗とプロとして悲しいくらい無防備に同じ相手に負け続けた。終盤の重要な試合でひたすら澤村やアダメスに投げさせた不可解なベンチワークや、いわば憎まれ役を引き受けた村田真一ヘッド兼バッテリーコーチも具体的に何をやってるのか謎だ。監督は高校教師のようなクールな表情でメモをとり、コメントも素っ気なく、「4番岡本」にこだわった功績以外はいまいち何を考えているか見えてこない。

 ただ正直、それらの不満は数多くあれど、冷静に戦力を見たら、仮に由伸監督以外の誰かが今の巨人の指揮を執っても優勝できたとは思えないのも事実だ。来季は強かった頃の伊原春樹ヘッドコーチ的な百戦錬磨の経験豊富な人材を迎え、補強面も含めたサポート体制を整えた上で、2019年のヨシノブリスタートに期待したい……と能天気に書いていたら、3日夜に飛び込んで来たのが「由伸辞任」のニュースだった。先週、山口オーナーに自ら「3年間優勝から遠ざかっているので、責任を取って辞めたい」と伝えたという。スポーツ各紙によると、後任は4年ぶり3度目の指揮となる原辰徳氏が有力視されている。

巨人は高橋由伸をこのまま終わらせていいのか?

 しかし、巨人軍は本当にあの高橋由伸をこのまま終わらせてしまっていいのだろうか? 

 だって、アメリカにいる松井秀喜は今はほとんどヤンキースの人間だし、43歳の由伸も球団が何らかのポストを用意して再登板のチャンスを、ってそうシナリオ通りに上手くいくのか? 小宮山悟が早大野球部監督に就任するご時世、いつか由伸の慶大監督も実現するかもしれない。なんか似合いそう……じゃなくて、そうなったら巨人はゴジラ松井とプリンス由伸の “地上波中継時代最後のスーパースター”たちを同時に失うことになる。

 それはもちろんプロ野球を興行として考えた時に大きなマイナスだし、現場の指導者に“空白の世代”が生まれてしまう。24番が去れば、盟友の井端・二岡両コーチもユニフォームを脱ぐ可能性が高い。今の巨人は選手だけじゃなく、指導者の世代交代も必須なのである。よく観客は「若手選手を我慢して使え」と言うが、時にフロントも「青年監督に我慢する」ことは重要な気がする。軽いよ、引退の時も監督の終わり方も由伸の扱いが軽い。

 今回の記事を書く際、自分が今一番見たいものはなんだろうかと考えた。答えはシンプルに「由伸監督の初V胴上げ」だ。送別じゃないよ、日本一達成の胴上げ。だって、もう飽きるくらい見た原監督ならその光景がすぐ想像できる。でも、由伸さんの場合は読めないじゃん。優勝して、胴上げされて、クールな男がどんな表情するのか? どう笑うのかとかさ。

 暗黒期のエースみたいに孤軍奮闘を続ける菅野が胴上げ投手となり、相棒・小林と抱き合い、そこにキャプテン坂本や4番岡本が駆け寄る。長野がいて、亀井がいて、若手がハシャイで、みんなで背番号24を歓喜の胴上げ。それを輪の外からニコニコしながら見つめる、上原と阿部慎之助みたいなさ(10.8決戦の落合と篠塚風)。もちろん東京ドームレジェンズシートのゲスト解説は、なんだかよく分からないけど拳を振り上げて祝福する村田修一だ。

 苦労の果てに由伸監督が歓喜の涙を流すハッピーエンドの大団円。そんな未来と引き換えに、この数シーズンがあったなら充分納得できる。心からそう思う。でも、来年がないなら、もう胴上げチャンスは今季リーグ3位に滑り込んでのCS出場、下克上日本一しかない。巨人ナイン、ここで意地見せずにいつ見せるんだよという話だ。なんだかんだ、この3年間、ボロボロの巨人をボロクソ言われながら根っこで支えていたのは高橋由伸じゃねえか。しかも、己の現役生活と引き換えにだ。その事実は忘れないでいたい。

 97年のドラフト以来、スター選手、監督として計21年間も俺らは背番号24を追ってきた。つまり、2019年シーズン、21世紀に入って初めて巨人ファンは球場で「高橋由伸のいない巨人軍」を見ることになる。

 そこに、いったいどんな未来が待っているのだろうか? 

 See you baseball freak……

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