第4次安倍内閣発足、皇居での認証式に向かう安倍首相(写真:ロイター/Issei Kato)

2年ぶりの日本人のノーベル賞受賞決定で列島が沸く中、自民党総裁選で3選を果たした安倍晋三首相が10月2日、自民党役員・内閣改造人事を断行した。

首相は6年前の第2次政権発足以来、内閣で首相を支え続ける麻生太郎副首相兼財務相と菅義偉官房長官に、剛腕で党を仕切る二階俊博幹事長のいわゆる「政権の3本柱」に加えて、岸田文雄政調会長も続投させた。

甘利氏の再登板には強い反発の声

さらに盟友の甘利明元経済再生相を党4役の選対委員長に起用した。政権安定と着実な政策遂行を掲げた「守り優先の安全運転人事」(周辺)で、13人の閣僚が交代する中幅改造の割に閣僚の平均年齢は上がり、「顔ぶれも新鮮味に乏しい陣容」(自民幹部)となった。


選対委員長に就任した甘利明元経済再生相(写真:ロイター/Ruben Sprich)

首相の本格的人事断行は昨年8月以来、1年2カ月ぶり。総裁選での「論功行賞」に加え、積み上がった約80人の「入閣待望組」が存在するため、初入閣は12人と第2次政権発足以来最多となった。一方、女性閣僚は近年最少の1人だけで、「有資格者の乏しさ」(自民幹部)も浮き彫りにした。

総裁選での石破茂元幹事長の善戦と沖縄知事選完敗というダブルショックからの態勢立て直しが課題だったが、財務省不祥事で責任を問われた麻生氏の続投と、金銭スキャンダルで2016年1月に閣僚辞任に追い込まれた甘利氏の再登板には野党側の反発やメディアの批判が強く、今後の政権運営の火種ともなりそうだ。

首相は2日午前の党総務会で党4役を軸とする役員人事の了承を得た。それを受けて政府は昼前の閣議で閣僚の辞表を取りまとめ、首相と山口那津男公明党代表による与党党首会談を経て改造人事を進め、午後1時過ぎに菅官房長官が閣僚名簿を発表した。

これまでの安倍政権での人事と同様に、首相サイドの「情報リーク」などから2日付け朝刊や同日朝のテレビ各局のニュースは揃って「入閣予想リスト」を報じ、新体制もほぼ報道通りの顔ぶれとなった。

まず、党・内閣人事では注目されがちな「目玉」や「女性」についても、今回はほとんどサプライズがなかった。

「国民的スター」の小泉進次郎氏の入閣は、総裁選で石破氏に投票したためか、見送られた。筆頭副幹事長の再任も小泉氏自身が断ったとされる。同氏周辺は「初心に戻っての再スタート」と説明するが、来年の統一地方選、参院選での最強応援弁士との位置づけは変わらないだけに、党執行部も「応援演説のサポート」など、一定の配慮を続けるとみられている。

唯一の女性閣僚は片山さつき氏

一方、地方創生・規制改革担当相に抜擢された片山さつき元参院外交防衛委員長は唯一の女性閣僚であり、「目玉」でもあるが、党内では「期待と不安」が交錯する。


今回は唯一の女性閣僚となった片山さつき地方創生相(写真:ロイター/Issei Kato)

2005年の小泉純一郎首相(当時)による郵政解散で「女刺客」として出馬、初当選したが、次の衆院選で落選し、参院に転じた。高校時代から「成績抜群の天才少女」の誉れ高く、東大法学部を経て大蔵省(現財務省)入りした際は「初の女性事務次官を目指す」と意欲を語ったとされる超エリートだ。

ただ、舛添要一前東京都知事との結婚・離婚で話題をふりまき、政界入り後も「さまざまな尖った発言」がネットで炎上するなど、トラブルメーカーとしても知られ、政界でもいわゆる"色物"扱いされてきた。2日午前に「首相から発信力を活かしてほしいといわれた」と明かした片山氏だが、今回の入閣については、朝日新聞が2日付け朝刊で「厚労相」と報じて「お詫びと訂正」記事を出すというおまけもついた。

安倍政権の売り物でもある地方創生担当だけに、「失言や暴言で内閣の火薬庫となる」(自民長老)との不安が拭えない。


一蓮托生?麻生氏は続投(写真:ロイター/Issei Kato)

政治的にみれば、今回の人事で「最大のサプライズ」(石破派幹部)は麻生氏の続投だ。

前代未聞の公文書改ざん事件や事務次官のセクハラ辞任など財務省の不祥事が相次いだだけに、首相と親密な橋下徹前大阪市長も「財務省に対する調査能力欠如だ、留任はダメだと思う」と批判した。

石破氏が総裁選で「役人だけに責任を負わせるような自民党であってはならない」と指摘した経緯もあり、麻生氏の続投することが、首相のいう「政権のしっかりした土台」となるかどうかを疑問視する向きも多い。

麻生氏とともに首相が最も信頼する盟友ながら、金銭スキャンダルで経済再生相辞任に追い込まれた甘利氏の党4役起用とも合わせて、野党やメディアから批判の対象となり、臨時国会などで混乱の要因となる可能性もある。永田町では、首相と麻生、甘利両氏との関係を「一蓮托生」「運命共同体」などと呼ぶが、「首相の友情が墓穴を掘るのでは」(岸田派幹部)との危惧は消えない。

初入閣組は12人、総裁選での論功人事を優先

注目された初入閣組は12人と第2次安倍政権以来最多となった。党内の入閣待望組が約80人に膨れ上がる中、総裁選での論功人事が優先された格好で、大半の初入閣組は60代(原田氏は70代)で、最年少は党総裁補佐から文科相に抜擢された柴山昌彦の52歳。内閣の平均年齢も62歳台の「高齢内閣」となり、新人の数の多さとは裏腹に「人心一新」や「新鮮味」には欠ける陣容となった。

具体的人事配置をみると、総務相に市長経験者の石田真敏元財務副大臣、防衛相に岩屋毅元党防衛部会長など担当職務に精通した実務派の起用が目立つ。再入閣組の根本匠厚労相とも合わせて、首相サイドは「適材適所の人事」を強調した。

ただ、入閣待望組から選ばれた新閣僚の多くは、「派閥の推薦を受けて、ポストを割り振った」(二階派幹部)のが実態とされ、党内には「滞貨一掃人事」(閣僚経験者)と酷評する向きもある。

一方、党役員人事では二階幹事長、岸田政調会長が再任され、総務会長に竹下派の加藤勝信前厚労相、選対委員長に甘利氏が起用された。総裁選で首相を支持した二階、岸田両派の領袖に、竹下派と麻生派の有力者を組み合わせた「派閥均衡人事」だ。

首相とも親しいのに石破氏支持に回った竹下亘・竹下派会長に代わり同派所属の加藤氏を総務会長に起用したのは、首相の竹下派への配慮ともみえる。ただ、加藤氏はもともと「隠れ細田派」とされ、竹下派内では同派幹部の茂木敏充経済再生相の留任とも合わせて、「派閥に手を突っ込んだお友達人事」(若手)との不満も広がる。

また、首相が悲願とする憲法改正については、昨年衆院選での政界引退後も首相から党内とりまとめ役を委ねられてきた高村正彦元外相が副総裁退任となった。首相は後継を指名せず、高村氏は党憲法改正推進本部の顧問として引き続き党内とりまとめに協力する。さらに、同本部長には首相側近の下村博文元文科相が起用された。加藤総務会長と併せて「側近シフト」で党内の改憲論議を押し進めるとの首相の狙いからだ。

党人事の中で注目されたのは稲田朋美元防衛相の筆頭副幹事長起用だ。稲田氏は首相の寵愛を受け、当選回数は少ないのに第2次政権発足以降、党政調会長など党・内閣の要職を歴任してきた。ただ、防衛相時代に自衛隊の日報隠ぺい問題への対応や、東京都議選での不注意な発言などで辞任に追い込まれ、「初の女性首相の有力候補」(首相)の座から追われていた。

党三役経験者の筆頭副幹事長というのは異例の降格人事にもみえるが、「本人が望んだ」(政界関係者)とされ、首相サイドは「もう一度雑巾がけから再出発してもらうため」と解説する。さらに「うちわ問題」で法相辞任に追い込まれた松島みどり衆院議員の党広報本部長起用とも併せて「女性活躍に向けた"再生工場"人事」(石破派幹部)と揶揄する向きもある。

総裁選の際に人事構想を問われた首相は、「適材適所」だけ強調し「挙党態勢」という言葉は避けてきた。総裁選での石破氏の挑戦に「敗者は冷遇するべきだ」(麻生派幹部)との声が相次いだからだ。今回の人事でも、首相は石破氏の起用を検討しなかったとされる。

ただ、総裁選では地方票で石破氏が首相に迫ったことも踏まえ、首相は人事調整の最終段階で石破派の若手(衆院当選3回)で検察官出身の山下貴司元法務政務官を法相に抜擢して「挙党態勢」をアピールしてみせた。ただ、他の初入閣組と違って山下氏は石破氏との事前調整抜きの「一本釣り」でもあり、石破派幹部も当惑を隠さない。

経済・外交で視界不良、参院選が正念場に

第4次安倍改造内閣の発足で、総裁3選による新たな3年間の政権運営が本格始動する。内政面では総裁選前後に相次いだ台風や地震による大災害に対応するための補正予算の編成が最優先となる。さらに首相は年末にかけて、国際舞台で連続する各国首脳との会議・会談で安倍外交の成果を挙げたい考えだ。ただ、貿易摩擦をめぐる日米協議は難航必至で、「拉致・核・ミサイル問題の解決」が大前提となる北朝鮮との交渉も道筋が不透明のままだ。

首相が悲願とする憲法改正での自衛隊明記も、公明党の抵抗などで早期国会発議の見通しはまったく立っていない。そのうえ、アベノミクスの完結と異次元金融緩和の「出口」もまったく見えないのが実態だ。

来年の統一地方選と参院選は首相にとって「史上最長政権への正念場」(側近)ともなるが、今回の新体制の顔ぶれをみる限り「自民党の選挙勝利に結びつくとは思えない」(自民長老)との声も多く、参院選までの10カ月の政局は、首相の思惑とは異なる波乱含みの厳しい展開となりそうだ。