トランプタワーの最上階で開かれた夕食会こそが交渉の重要な舞台だった可能性がある(Photo by GettyImages)

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日本メディアでは小さな扱いの「夕食会」がカギに

9月26日午後(米国東部時間・日本時間27日未明)、ニューヨーク市内のザ・ニューヨーク・パレスホテルで安倍晋三首相はドナルド・トランプ米大統領と1時間15分会談した。

日米首脳会談最大の焦点とされた自動車追加関税25%発動は回避された。もう一つの懸念であった米国産牛肉など農産品の市場開放問題についても、過去に日本が締結した経済連携協定(EPA)の水準までしか引き下げないという日本側の主張が受け入れられた。

今回のトップ会談で安倍首相が提起した「物品貿易協定」(TAG)というワーディングは米側が求める関税を含めた2国間協議であり、事実上「自由貿易協定」(FTA)と変わりないとの指摘があるが、それはともかく日本にとっては満額回答と言っていい。

だが、日米首脳会談に関する各紙報道を見ると、その実態に迫ることなく、かつアンフェアな報道が散見されたのは残念である。

とりわけ、「朝日新聞」の記事、分析がその典型である。たとえ追加関税圧力を先送りできただけであるにしても、現下の国益という観点からは成功裏に終えた26日の安倍・トランプ会談の前哨戦であった23日夜(日本時間24日未明)の「夕食会」は実に重要な意味があった。

トランプ大統領の私邸であるトランプタワー最上階に招かれた安倍首相は2時間半におよぶ夕食懇談会でかなり踏み込んだ事前協議を行っていたのだ。この夕食会について同紙(25日付朝刊)は6面にハコモノ扱いでわずか15行の記事を掲載しただけ。

トランプタワーの最上階で開かれた夕食会こそが交渉の重要な舞台だった可能性がある(Photo by GettyImages)

つづく26日の首脳会談についても、27日付夕刊1面に掲載された佐藤武嗣編集委員の解説記事の見出しは「一時しのぎ 日本譲歩」であり、同紙の論調は一貫して日米首脳会談に冷ややかなものであった。

では、事実はどうだったのか。

ヒントは、安倍首相が夕食会を終えてから記者団に語った「通商、投資、貿易などの課題、FFR(日米貿易協議)について、大変建設的な議論ができた」と語ったことだ。

この中の「投資」がキーワードである。

自動車関税の代わりに盛り込まれた「投資」の意味

筆者は当初、「日本経済新聞」(8月2日付朝刊)が報じた「官邸主導で米国のインフラへの投資のための政府系ファンド(ソブリン・ファンド)設置構想」を想起したが、どうやら違っていたようだ。

その解は、今回発表された日米共同声明の中に密かに盛り込まれていると見るべきである。

共同声明の5項目に<――米国としては自動車について、市場アクセスの交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること>と記述されているが、この行間を読むと、「自動車については米国内で設備投資、あるいは雇用が増えれば必ずしも米国製車の対日輸出が増えなくてもよい」と、解釈できるのだ。

すなわち、トヨタ自動車であれ日産自動車であれ、米国内に新たに工場を建設するという「約束」を、日米首脳会談に先立つ25日の第2回FFRで茂木敏充経済再生相がロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表に対して伝えたのではないか。

そうでないと、交渉決裂回避をもたらした日米両国ウィン-ウィンの日米共同声明文(7項目)は事前に準備できなかったはずだ。

茂木氏と事前協議を行ったライトハイザーUSTR代表(Photo by GettyImages)

例えば、中間選挙を前に大苦戦が伝えられているテッド・クルーズ上院議員(共和党)の地元テキサス州にトヨタが工場建設すると発表すれば、トランプ大統領は大手を振って「日本とディール(取引)した」とブチ上げることができる。

それは日産も同じだ。トランプ大統領はメキシコとのNAFTA(北米自由貿易協定)交渉で強引に労働者の時給16ドルへの大幅引き上げを呑ませたことで、同国に北米工場を集中させる日産は採算性からも生産拠点を米国内に移転させることを視野に入れざるを得なくなった。

こうしたディールによって、米側も牛肉関税についてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)水準で了解したのだ。

事実、先の共同声明5項目には次のように記されている。<――日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること>。

こうして見てみると、安倍首相は23日夕食会のトランプ大統領との握手時に硬い表情を隠せなかったが、26日首脳会談時では力強く握手してトランプ氏の目をしっかりと見据えていたのが好対照である。

達成感があったに違いない。まさに目は口ほどに物を言う、である。